#015 初めての合体コラボ!
グラタンが焼き終わり夕食になった。
「さあどうぞ、温かいうちに遠慮なく」
「ええ、いただきます」
「いっただっきまーす!」
お上品に食べ始める芹沢さんと、遠慮のない姉との対比が印象的だった。
「ところで留美さんの機材ってどうなったの?」
留美さんが使っていたパソコンはいうなれば彼女の分身とも言える。
「それが停電した時にどこか壊れたらしく⋯⋯新しいのを買ってもらう事になったわ」
「じゃあルーミアは?」
「データのバックアップ⋯⋯外付けのハードディスクの方は無事だったから」
そう言って芹沢さんは自分のバッグを見つめる。
「その中にルーミアが入っているんだ?」
「そうだけど⋯⋯その言い方はなんか猟奇的ね」
そう言いながら少しだけ芹沢さんは笑った。
「それはそうとアリスケ」
「なに姉さん?」
「この後の配信どうするのよ?」
「⋯⋯あ」
やばい⋯⋯もう30分しかない。
僕は急いで食事を食べ終わる。
「こうやって見ると男の子なんだね⋯⋯」
僕が食べ終わった食器を流しに運んでいると芹沢さんのそんな言葉が聞こえた。
⋯⋯いや姉さんも今は上品ぶっているけど、そのうちボロが出るだろうな。
食器を洗うために二人から目を離していると、
「あげないわよ」
「ち、違います!」
そんな会話が聞こえてくる。
まったく卑しい姉だな⋯⋯芹沢さんが人の料理を取ろうとするようなはしたない真似する訳がないだろう。
そんなどうでもいい事を考えながら僕は自室へと入るのだった。
配信自体はもう4回目だ。
今までの手順通り問題なく間に合う⋯⋯そう思っていたその時だった。
「アリスケ君⋯⋯入っていいかな?」
「芹沢さん?」
芹沢さんが入ってきた⋯⋯僕の部屋に!?
「えと⋯⋯なにかな?」
「さっき木下さんから連絡があって──」
芹沢さんのスマホは昼間の外出時に回収済みのようだった。
「──今日、アリスとコラボしなさいって!」
アリスとコラボしなさい?
「⋯⋯え──っ! 僕と芹沢さんがコラボ!?」
「嫌かな?」
「そんな事あるわけ無いよ」
そう言いながら僕は芹沢さんをベッドの上に座らせる、この部屋には椅子が1つしかないから。
僕のベッドにいつも見ていたクラスメートの女の子が座っている⋯⋯なんかドキドキする。
「僕の配信はゲームメインだけど芹沢さんは⋯⋯ルーミアはそれでいいの?」
「あら、私だってゲームくらいはするわよ!」
確かにルーミアだってゲーム配信くらいはしていた。
⋯⋯へたっぴだけど。
「じゃあ⋯⋯よろしく『ルーミア』」
「こ⋯⋯こちらこそ『アリス』」
なんか僕たちはソワソワしながら準備を始めるのだった。
僕のパソコンのUSB端子に『ルーミア』が入った外付けハードディスクが接続された。
それによってパソコン画面にルーミアの3Dアバターが表示される。
「あら? アリスはまだ2Dのままなの?」
「3Dアバターはもうじき完成らしいけどね、木下さんの話じゃ」
そう、僕の配信画面はまだ2Dなので見た目は完全に『美異夢システム』である。
ちなみにこのシステムの名称は伝説のゲーム配信Vチューバー『美異夢お姉さん』が由来である。
まだVチューバーという概念も無かったころから活躍して今はもう引退している⋯⋯のだろうか?
僕は何度もその人の配信を見たが素晴らしいエンターテイナーである。
ちょっと運が腐ってるけど⋯⋯。
それはさておき⋯⋯。
僕たちはお互いマイク付きヘッドホンを装着して時間を待つ⋯⋯。
もう言葉はない。
この配信が始まる前の静けさはお互い同じだった。
そしてそれが何だか嬉しかった。
5・4・3・2・1・0!
今夜の配信が始まった!
── ※ ── ※ ──
「みなさんこんばんはー! 『電遊アリスちゃんねる』の時間ですよ~」
【お、はじまた!】
【今夜もカワイイよアリスちゃん!】
「えへへへ⋯⋯ありがとうみんなー」
⋯⋯隣で見ている芹沢さんはドン引きだった。
まあ仕方ないか⋯⋯。
でも芹沢さんだってあのルーミアのキャラじゃん!
「ところで今夜は何と、ゲストをお招きしております!」
【おコラボか!】
【誰だ?】
【マロンだろどうせ】
【まあマロンだな同居人だし】
クククッ⋯⋯君たちの予想もしないお方だよ⋯⋯。
「それではゲストの方どうぞ!」
そして今まで非表示だったルーミアのアバターが表示されて──。
「みんなーこんばんにゃー! ルーミアだよ! 今日はアリスちゃん
【ええええええ!?】
【ルーミアだと!?】
【初コラボがルーたんとだと!?】
いい感じにコメント欄が阿鼻叫喚だった。
そして僕はというと⋯⋯その芹沢さんのあまりの変わりように目が点になる。
いや⋯⋯知ってたよ? ルーミアがこういうキャラだってのは。
でも⋯⋯ふだんの芹沢さんとのギャップが酷い⋯⋯。
「というわけでルーミアさんとの初コラボです! しかもコラボ自体が初という記念すべき相手にルーミアを呼べてボクは嬉しくて仕方ありません!」
【アリス、ルーミアのファンだしなw】
【コイツ使い魔だったよな】
【シレっと姉はノーカンで草w】
【1万円で主人を召喚したのかw】
「その通り! 1万円ぽんと支払ったらこころよく来てくれたぜ!」
「ルーミアの事を宅配ピザみたいに言わないでにゃー」
そしてしばらく雑談をしながらこの雰囲気に馴染んでもらって、いよいよゲームを始める。
「今日は二人でできるのにしようかなー⋯⋯。 コレにしよう」
今日ボクが選んだゲームはシューティングゲームの名作『ツインピース』だ!
宇宙歴4649年、地球に侵攻してきた悪の組織ペッパー団に対抗するためにサフラン博士が作った戦闘機ピース号が飛び立つ⋯⋯。
というシナリオとは思えないコミカルな画面のシューティングゲームである。
この時代のゲームってこんなの多いよね⋯⋯。
【おーツインピースだ】
【これは名作】
【なつい⋯⋯】
このゲームはシューティングゲームでは珍しく2人同時プレイが可能だ。
だからボクは1Pに。
ルーミアは2Pで、エントリーする。
「じゃあボクたち2人で世界を救うよー」
「がんばるにゃあ!」
こうしてゲームは始まった。
このゲームはアイテムを取って自機を強化しながら進める。
そのアイテムは雲の中に隠されているのだ。
「これどうやるの?」
「えっと⋯⋯その鐘を取って」
ボクが出した青色の鐘を取るとルーミア機のスピードが上がった!
「にゃ!? 早くなった!」
「青を取ると素早くなるんだ、でも取りすぎると死にやすいから、もう取らない方がいいよ」
「わかった!」
ボクは次の鐘を用意しながら敵も倒していく。
このゲームでは敵を倒しつつこの鐘にも攻撃して色を変えていかないといけないのだ。
「その赤いの取って!」
「りょーかいにゃ!」
ルーミア機にバリアが装備された、これでもうルーミア機は安全だ。
【なんという接待プレイw】
【接待つうか介護かな?】
失礼なコメントが流れているな⋯⋯しかしゲームに集中するルーミアにはコメントを拾う余裕は無いみたいだ。
そしてなんだかんだでボスまでやって来た。
「わっ! なんかおっきいの出た!」
しかしボスの攻撃は激しくルーミアは苦戦し、せっかくのバリアが解除されてしまった!
「よし! 合体だルーミアちゃん!」
「合体!?」
ボク達のアリス機とルーミア機が左右連結ドッキングした!
「ボクが操作を! ルーミアちゃんは攻撃だけして!」
「らじゃー!」
ボクは十字キーだけを操作して、敵の攻撃を避ける事だけに専念する。
その間ルーミアは攻撃ボタンを一所懸命に連打連打している!
「二人の共同作業だ!」
【分担作業じゃね?】
⋯⋯うるさいよキミたち!
そしてついにボスは倒れた⋯⋯ボクたちの勝利である!
「やったー勝った!」
「うん、やったねルーミア!」
清楚で物静かな芹沢さん。
元気にはしゃぐルーミア。
どっちがホントの『彼女』なのだろう?
いや⋯⋯それはボクも同じか、きっとどちらも
クラスのみんなが知らないルーミアを、ボクは知っている。
リスナーのみんなが知らない芹沢さんを、僕は知っている。
ちょっとだけその優越感が嬉しかった。
「さあ次のステージだよ、ルーミア!」
「ええ行くわよ、アリス!」
その後も楽しいゲーム配信は続いて──、
残機ギリギリではあったがなんとか2人揃ってクリアする事が出来たのだった。
でもこれは
これが
◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆
こんばんはアリスです。
今夜は何とあのルーミアちゃんがゲストに来てくれました!
みんなもちろん☆☆☆押してくれるよね? (圧)
え? 押してくれないの? なんで?
君たちさ~、なにかルーミアちゃんに不満でもあるの?
無いでしょ? あの猫耳ツインテールの紫髪でちょーぜつカワイイ、ルーちゃんなんだよ!
ルーミア「⋯⋯アリスその辺で、ちょっと恥ずかしいから///」
照れてるルーミアちゃん頂きました──!
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