#013 ルーミアとの出会い
夜中に姉の叫び声でたたき起こされた、僕は姉さんに怒られた。
すっかり湯船のお湯を水に入れ替えた復讐の事なんて忘れていたよ。
「許して欲しければ明日はお弁当を要求する!」
⋯⋯別に聞く義理も無いのだが、お弁当を二人分作るくらいなら大した手間では無いし素直に聞く事にした。
バスタオル1枚で凄む姉さんとか特に何とも思わないし。
そして早朝、僕は少し早めに目を覚まして弁当を作る事にした。
今日のお弁当は唐揚げである、時間に余裕もあるし二度揚げだ。
唐揚げを揚げている間に僕は、スマホのラインをチェックするがあれから何も連絡はない。
そしてVチューバー速報のホームページを見て見ると、昨夜のルーミアの配信切断は大きく取り扱われていた。
そして僕のスパチャの事はひっそりと乗っていた。
「どうしたんだろルーミアは⋯⋯」
答えはなかった。
弁当を作り終えて朝食をとる⋯⋯まだ姉さんは起きてこないのでほっといて学校へと行く事にする。
⋯⋯と、姉さんの弁当はここに置いて⋯⋯と。
こうして僕は不安を抱えながらも登校するのだった。
僕が住むマンションと学校の間は5分くらいの距離だ。
その間に小さな木造アパートがあった。
そしてそれは⋯⋯火事で燃えた後だったのだ。
「火事⋯⋯か?」
近くにはまだ消防車が止まっており一晩中消火していたのだろうか?
これだと夜中はサイレンでうるさかっただろう。
うちのマンションは防音が完璧すぎてわからなかったな⋯⋯。
そんな事を考えながらそのまま立ち去ろうとした、その時だった。
見知った顔があった。
「芹沢さん?」
昨日会ったばかりのクラスメートがそこに立ちすくんでいたのだった。
まだパジャマ姿のままで⋯⋯。
そのネコ柄でピンク色のパジャマ姿がずいぶん場違いだった。
それを見て何となく芹沢さんがここの住人で、被災したのだという事が理解できた。
⋯⋯僕はそのまま立ち去る事にした。
僕なんかがむやみに話しかけても、きっと怒らせるだろうと⋯⋯。
「⋯⋯芹沢さん」
それなのになぜ僕は話しかけたのだろうか?
こんなか細い作り声で。
「⋯⋯え、私?」
芹沢さんも困惑しているじゃないか、まさか僕なんかに話しかけられるなんて想像もしていなかった顔だよ。
しばらく見つめ合っていた。
「⋯⋯これ」
僕は作ったばかりの自分のお弁当を彼女に押し付けた。
そして返事も聞かず立ち去ろうとした⋯⋯。
「待って⋯⋯、 ありがとう。 昨日、図書室で会ったよね?」
そう言って芹沢さんはなぜか持っていた本を僕に手渡した。
あのジュールヴェルヌの本だった。
「君のほうから先生に渡してくれると助かるの。 ⋯⋯今日はもう学校へは行けそうもないから」
「わかった」
それだけ言って僕は本を受け取って⋯⋯学校へと向かったのだ。
軽くなったカバンを担いで⋯⋯。
僕は学校に着くとすぐ職員室へ行き──。
「そうか報告ありがとうな栗林。 この事は黙ってろよ」
「はい」
そう先生に芹沢さんの事の報告と本の返却も済ませたのだった。
その日の授業は上の空だった。
芹沢さんとは今まで話した事なんて無い、ただの他人だ。
でもいたたまれない気持ちになる。
そして気がついてしまった⋯⋯。
僕のお昼ご飯どうしよう⋯⋯と。
財布を家に忘れた僕は昼休み中に家に戻る事にした。
家までは近いし、走れば十分間に合うだろう。
帰宅途中燃えたアパートの前を通ったが、もう消防車は無くて芹沢さんも居なかった。
「芹沢さん大丈夫かな?」
でも急いでいたので僕はそのまま通り過ぎただけだった。
そして自宅について僕は急いで部屋の鍵を開ける──。
「ただいま──ねえ⋯⋯さん?」
「え⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯あ」
そこにはバスタオル1枚だけを羽織った芹沢さんが居たのだった。
きっと風呂上りなのだろう、体から湯気も出ているし──って、そうじゃない!?
「なんでここに芹沢さんが!?」
「きゃ────っ!」
思わず僕は扉を閉めた⋯⋯これで防音は完璧ってそうじゃない!
「アリスケ! アンタなんでここに居るのよ!」
奥から姉さんが走ってくる。
「いや⋯⋯昼ご飯食べに⋯⋯」
「言い訳無用!」
そういって姉さんは僕を外に叩きだすのだった。
⋯⋯姉さんに家から閉め出されて僕は放心する。
そして次第にドキドキしてきた⋯⋯。
見てしまったからだ、女の子のハダカを!
しかも芹沢さんのを!
バスタオル1枚でうろつく女なんて見慣れたものでもう何も感じやしないが、それは姉だったからだ。
芹沢さんはスタイルが良かった。
胸のボリュームは⋯⋯控えめだったけど、ああ女の子だなって柔らかそうな曲線で⋯⋯。
⋯⋯って、イカン!
僕はそんな芹沢さんの姿を打ち消すべく今までの彼女の姿で上書きする。
体育館でバスケをするスタイリッシュな芹沢さん。
図書室であった知的そうな芹沢さん。
⋯⋯そしてさっきのハダカの──、
ってそうじゃない!?
「アリスケ君、もう入っていいわよ」
「あ、はい」
そんな僕の邪念は何故か家から出てきた木下さんに扉を開かれた事で中断するのだった。
「なんで今ここに、木下さんまで居るんですか?」
「それも含めて説明するから」
そのまま僕は木下さんと一緒にリビングに向かった。
「なんでこんな時間に帰ってくるのよ、アリスケ!」
姉さんの顔は怒っていた。
「いや⋯⋯弁当を無くして、昼を食べに戻ってきて」
「⋯⋯」
姉さんの隣に座っている芹沢さんは黙って聞いていた。
もちろん今は服を着ている。
あれは姉の服だな、僕が洗濯したからよく知っている。
芹沢さんには若干ブカブカのようだった。
「それでか⋯⋯」
姉さんの視線は台所の空のお弁当箱
「姉さんのはもう食べたんだね」
「ええ、起きてすぐに⋯⋯美味しかった」
早弁じゃないか⋯⋯。
そう思いながら僕はキッチンに行ってトースターで食パンを2枚焼き始める。
「それでなんで芹沢さんがここに?」
木下さんだけならわからなくもないけど。
「それはね──」
「ちょっと待ってください、木下さん!」
説明しかけた木下さんを芹沢さんが止めた。
「その彼は私のクラスメートで⋯⋯部外者です。 いくら栗林さんの弟さんでも⋯⋯」
どうやら芹沢さんは姉の事を知っているらしい⋯⋯なぜだ?
「アリスケ君は関係者よ。 そして絶対にあなたの秘密をしゃべらない保証もあるわ」
そう木下さんが言った。
芹沢さんの秘密?
「留美、ソレが『アリス』よ」
短く端的に僕の秘密を姉は芹沢さんに暴露する。
「ちょっと姉さん!?」
「ふぇっ!?」
僕と芹沢さんは同時に反応した。
そして今、気づいた。
芹沢さんの『ふぇっ!?』の発音に!
僕の7つの特技の1つ『駄目絶対音感』が反応した!
「⋯⋯ルーミアちゃんなの?」
その時の芹沢さんは「あちゃ~」という表情だった。
「⋯⋯ルーミアちゃんなの?」
大事なことなので2度聞いた。
「⋯⋯その、絶対誰にも言わないで、お願い」
そう上目遣いでお願いする芹沢さんは可愛かった。
「アリスケは絶対に留美の秘密をしゃべらないから安心していいよ」
「なんでそこまで言い切れるんですか、栗林さん?」
「ほれ⋯⋯自己紹介しろ『アリス』」
⋯⋯僕は覚悟を決めた。
「その初めましてルーミア。 ボクがアリスです」
無理して作った声じゃない、素の声で芹沢さん⋯⋯いやルーミアに話しかけた。
「⋯⋯ふぇっ?」
「彼がアリスなのよ芹沢さん」
そう木下さんも証言する。
「え⋯⋯え。 どうなってるの? クラスメートが栗林さんの弟で⋯⋯その子がアリスで⋯⋯イヤ、でも男で⋯⋯え? え?」
思考がまとまらない芹沢さんである。
その時トースターからやけに場違いな「チーン」という音が部屋に響くのだった。
◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆
こんばんはルーミアです。
私のチャンネル『ルーミアの耳と尻尾のソサエティー』へようこそ。
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そしてたくさんの☆☆☆を私に捧げるのよ!
アリス「ハイ、ハ~イ!」
だれ? あなた???
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