#012 配信事故で大炎上!?

 僕とルーミアとの出会い、それは自分の中に閉じこもっていた僕をルーミアが救ってくれた⋯⋯。

 ⋯⋯というような劇的なものは全くない!


 あれは3か月くらい前、高校受験も終わり授業も無くなり暇になった頃だった。

 ちょうどその頃Vチューバー『ルーミア』はデビューしたのだった。


 もともとVチューバーという存在は知ってはいた。

 しかし何度か見てもあまりハマらなかったのだ。

 なんというか既に完成しているコミュニティーに今更参加するのが面倒というか⋯⋯。


 だからもしもルーミアがこの時にデビューしなければ、僕は彼女の配信を見ようとはしなかっただろう。

 そしてその彼女に憧れてVチューバーになるなんて事もなかったに違いない。


 ── ※ ── ※ ──


『皆さん初めまして。 今夜デビューする新人Vチューバーのルーミアです』


 そのルーミアのアバターは僕のアリスとは違って最初っから3Dだった。

 つまり動いていたのだ⋯⋯始めっから、あの耳と尻尾が!


 一応言っておく! 僕はケモ耳が大好きだ! ⋯⋯という事は無かった。

 でも⋯⋯ルーミアを始めて見て雷に打たれたように恋に落ちたのだ。


 ケモ耳だからハマったんじゃない! ルーミアちゃんのケモ耳だから良いのだ!


 ⋯⋯我ながら謎理論である。

 しかし次第に僕はルーミアにハマって行き⋯⋯彼女のファンの『使い魔』になっていたのだ。


 そしてそれは現在まで続いている──。


 ── ※ ── ※ ──


 僕はルーミアちゃんにコメントを送るが毎回一瞬で流れて消えていく⋯⋯。

 さすが登録者数50万人の大人気Vチューバーは違うな、僕のアリスの10倍だし比べるのも烏滸がましい。


 そしてオープニングのトークが終わりゲームが始まった。

 このゲーム配信は『ホロガーデン』所属のVチューバーが多数参加している。

 正直ルーミアと姉以外の人の事はまったく知らない。

 姉のアバターのマロンが誰かと二人っきりになった。


『信じてるからねエイミィ!』


 そう言いながら姉はそのエイミィさんに殺された!

 コメントは大爆笑である。

 姉にもコメント送ってやるか⋯⋯。


【アリス:www】


 だが僕の書き込んだコメントは他の大草原に包まれて、あっという間に消えていくのだった。


 第2ゲーム、インベーダーはルーミアちゃんだった。


『今度は誰よ! 誰も私に近づくんじゃないわよ!』


 なんてしらじらしい嘘をつくんだルーミアちゃんは⋯⋯でも一生懸命で可愛いよ!

 その後ルーミアはまるで暗殺者の様に立ち回り⋯⋯マロンを殺した。


『死んで頂戴、マロンさん♪』

『あ──っ! お・ま・え・か──っ!』


 その姉の聞きなれた断末魔をBGMにルーミアの勝利が確定したのだった。

 その時からおめでとうのスパチャが飛び始める。

 スパチャというのは投げ銭でありまあご祝儀だ、いいなー僕もやりたい。


 これだからクレジットカード持ってるやつは⋯⋯はっ!?

 その時僕は気づいてしまった⋯⋯。

 僕はアリス用のクレジットカードを持っている事を⋯⋯。

 私的利用は給料から差し引かれると言われたが「使うな」とは言われていない⋯⋯。


 カチャカチャカチャ──ターンッ!

 気づいた時、僕は既にルーミアちゃんにスパチャを送った後だった。


【アリス:10.000円 初勝利! おめでとう! ルーたん!】


 ルーミアちゃんのインベーダー初勝利祝いだ後悔はない!

 そしてさすがにこの僕のコメントは目立ち──ルーミアのコメント欄がざわつきだした。


【え⋯⋯今の公式アカ?】

【アリスって本物???】


 あ⋯⋯この時僕は気づいた。

 アリスの公式アカウントのままでコメントをしていた事に⋯⋯。

 ヤバい⋯⋯どうする?

 もう隠すのは無理だ、だったら開き直ろう⋯⋯。


【アリス:みんなもルーミアちゃんを応援してね!】


 ターンッ! これでいい⋯⋯。

 後はなるようになれだ!


【アリスが来てるぞ!】

【アリスってルーミアのファンかよw】

【姉の応援はどうしたw】

【マロン、妹がNTRされてるぞw】

【マロンの脳が壊れるwww】


 よし⋯⋯印象操作完了!

 その時、僕のお仕事用のスマホに着信があった。

 木下さんからのラインだった。


 [木下:面白いからおk]


 いいのだろうか、それで⋯⋯


 [木下:ただしスパチャは控えめに、お給料から差し引くので]


 おーう無慈悲だな、でも後悔はしていない。

 だがこの後は僕もスパチャもコメントも控えてゲームの視聴に集中する事にした。


「えーと、姉さんのこの作業は6秒と⋯⋯」


 手書きのメモに参加Vチューバーの各作業にかかる時間をストップウォッチで測り記録していく。

 このデータをもとに作業する振りをして殺人を犯す犯人を割り出せるかもしれない。

 いつこのゲームに僕が参加するかは未定だが⋯⋯戦いは既に始まっているのだ。


 すると目の前でルーミアがマロンに殺された。


『ふぇっ!?』


 リアクションまで可愛いなルーミアは⋯⋯。


『クハハハッ! さっきのお返しだ──ルーミア!』


 でも姉にはあとで復讐しないと⋯⋯。

 僕は部屋を出て風呂場に向かう、お湯を抜いて水に入れ替える為にね。

 この配信が終われば姉さんはお風呂に入るはずだから⋯⋯ね♪


 その後はルーミアはインベーダ―になる事は無く、最後まで生き残ったり途中で殺されたりと楽しそうにゲームをしていたのだった。


 その時だった。


 ジリリリリリリリリリ──

 と、サイレン音が流れ始めたのだった。

 それはルーミアのチャンネルからだった。


 初めはルーミアの部屋の目覚まし時計が鳴る配信事故だと思った。

 しかし⋯⋯。


『え! 嘘!? ごめん落ちます!』


 そう言ってルーミアがログアウトして消えて⋯⋯戻ってこなかったのだ。

 コメント欄に混乱の文字が流れ始める⋯⋯。


【え?なに?】

【放送事故?】

【ルーミアどうした!?】


 参加している他のVチューバーも混乱し始めた。


『ルーミア落ちちゃったね⋯⋯どうしたんだろ?』


 それは素の姉の声だった。

 なにか異常事態が起こった、それは確かだった。

 どうする?

 その時僕は自分のスマホに気づいた。


「このスマホにはルーミアの連絡先が入ってるはず⋯⋯」


 僕は迷わず電話でコールした。

 しかし出る様子はなかった。

 画面の中のゲームは中断して⋯⋯ここで今日はお開きという事になったようだ。


「ルーミアちゃん⋯⋯どうしたんだろ?」


 その時木下さんからラインが入った、どうやら一括送信でだ。


 [木下:ルーミアの事は心配しないで彼女は無事です。 この事にはみんな配信では触れないように!]


 ⋯⋯どうやら何かが起こった事は確かだった。


「大丈夫かな? ルーミアちゃん⋯⋯」


 その問いに誰も何も応えてはくれなかった。

 その後、眠りについた僕は夜中に姉の叫び声で目を覚ますのだった。


◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆


こんばんはルーミアです。

私のチャンネル『ルーミアの耳と尻尾のソサエティー』へようこそ。

チャンネル登録してくれる方はそこのフォローを押して私の『使い魔』になってください。

そしてたくさんの☆☆☆を私に捧げるのよ!


アリス「ハイ、ハ~イ!」


だれ? あなた???


https://kakuyomu.jp/works/16817330649840178082/reviews

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