#011 ルーミアちゃんの配信

 僕は無難に学校での時間を過ごした──そして放課後である。

 さて帰ろう⋯⋯帰りにスーパーに寄って行かないと──。


 そんな事を考えていると扉の所で帰ろうとしていた芹沢さんが他の女子に捕まっていた。


「お願い芹沢留美さん! バスケ部に入ってよ!」


 どうやら部活の勧誘らしい。

 芹沢さんはどうやら僕と同じ帰宅部のようだった。


 しかしバスケ部のスカウトか⋯⋯僕は偶然まえに見かけた女子の体育の授業を思い出す。

 うちの学校では2つのクラスが合同で体育の授業をする。

 そして男女に分けられるのだ。


 その女子の授業は体育館でバスケとバレーに分かれていた。

 芹沢さんはバスケを選んだらしい。

 どうも芹沢さんは中学までバスケの経験者らしく、周りの素人とは明らかに動きが違っていた。

 そもそも周りはドリブルすらできない子ばっかりだし⋯⋯。

 そんな中で自然と芹沢さんはボール運びをするガードのポジションに収まって活躍していた。


 ん⋯⋯なんで知っているかって?

 その時の男子は外で長距離走か鉄棒をしていたからだ、女尊男卑だなこれは。

 僕は当然長距離走を選んだ、話しかけられる事がないからね。

 で⋯⋯その時コースを周回する時、体育館の中を見られる場所を何度も通ったのだ。


 初めの頃の芹沢さんはバシバシ3Pシュートを決めていたが次第に周りとの実力差を感じると、周りに点を取らせるパス主体に動きを切り替えたようだった。

 あれだけ実力があるのに周りが見えて、自分を抑えられる子なんだな⋯⋯そういう印象だった。


 その時の相手チームにはバスケ部に入部したばかりの子が1人いて、その試合は結構拮抗していたのだろう点数は僅差だったし。


「ごめんなさい、私は部活動できないのよ」


 どうも芹沢さんは僕と同じく確固とした意志で帰宅部になった者らしい。


「そんなこと言わないで、中学まで経験者なんでしょ! ほらこれ!」


 その子が持っていたのは何かの雑誌だ、バスケの特集が乗っている。

 僕はチラッと盗み見てしまった。


【芹沢留美、県大会得点王獲得!】


 そんな見出しが見えた⋯⋯どうやらかなりのガチプレイヤーだったらしい。


「母が入院していて⋯⋯部活は出来ないのよ」


 そう芹沢さんが言ったらさすがに相手も引き下がったようだった。




 下校時間、僕が教室を出るとき芹沢さんも同じタイミングで帰宅するようだった。

 偶然だったが後をつけるようになってしまった⋯⋯まあ同じ下駄箱に向かっているだけなんだが。

 その途中で芹沢さんは体育館を見つめていた⋯⋯未練があるのだろうか。


「私にはそんな事している暇はないのよ⋯⋯」


 そんな芹沢さんの呟きが僕にだけ聞こえた。

 ボッチは耳がいいからね。


 まあそれはそれである、しょせん僕とは関係ない他人の人生だし⋯⋯。

 そんな事よりも今夜の食事である。

 僕はスーパーへの道を急ぐのだった。


 マンションに帰ると僕は買って来た食材を冷蔵庫に入れて米を炊く。

 そしてその間に風呂掃除を済ませておく、そろそろ姉さんが起きる頃だ。

 姉さんは寝起きに風呂に入りたがるからな、そう思って湯を張っておく。

 そうしてから僕は夕飯を作り始めたのだった。


 ⋯⋯すっかり家事は全て僕に押し付けられてしまったが、メシマズな姉に作らせるよりはマシだから仕方ない。

 昨日作って寝かせておいたカレーとサラダを作る。

 そのうちカレーを温めなおしている匂いで姉が目を覚ましたようだった。


「おはよー、アリスケ⋯⋯」

「姉さんお風呂湧いてるよ、先入ってて」

「配信の後で入る」

「⋯⋯」


 まあこんなもんである、姉弟の仲なんて。

 姉の介護をする家事手伝いロボのアリスの設定は、そう間違ってはいないのかもしれないな。


「カレーウマー! ポテトサラダ最高!」

「お気に召したようで何より」

「はあ⋯⋯アリスケと結婚したい⋯⋯」

「なにバカな事言ってんの? 姉さんこの後配信だろ?」


「あー、そうだった。 今夜はアリスケは配信しないの?」

「姉さんたちと被ったら見に来てくれる人少ないし⋯⋯それに今夜はルーミアちゃんの配信を見るから」

「ちょっと! 私のを見なさいよ!」

「同じだろ? コラボの企画なんだから!」


 今夜の姉の配信は身内とのコラボだった。

 その相手には僕の推しであるルーミアも含まれている。

 そして姉さんたちもゲームの配信をする事もある、僕のようなレトロゲームではないが。


 姉さんとルーミアちゃん達が今夜するゲームは『宇宙人・牢』である。

 宇宙犯罪者のインベーダーを護送中の宇宙船内でインベーダーが脱走!

 そしてクルーを食べて成りすましている⋯⋯という設定のゲームだ。

 クルーに化けたインベーダーを見つけてないとクルーが次々殺されていく⋯⋯という定番のゲームである。


「アリスケも参加出来たらよかったのに⋯⋯」

「まだ収益化通ってないから無理だって木下さんが言ってたし⋯⋯」


 そうまだアリスの収益化は出来ていないのだ。

 この調子ならそう時間はかからないが、そうなる前はスパチャなどの関係でコラボ企画は面倒になるので今回は参加を見送ったのだ。


 だがいずれあのルーミアちゃんとコラボして、お話が出来る⋯⋯。

 それは今の僕の密かな目標だった。


「ルーミアに視聴者を1人取られたー!」

「誤差でしょ、そんなの⋯⋯」

「だったらアリスケは私のを見てよ!」


 今夜の配信は参加Vチューバーのそれぞれの視点を楽しめるマルチ配信である。

 だから僕はルーミアちゃんを選んだ。


「姉さんの声なんていつでも聴けるし⋯⋯」

「チクショウ! あのドロボウ猫めー!」

「いくら姉さんでもルーミアちゃんを悪く言ったら怒るよ? 食後のプリン要らないの?」

「⋯⋯はい。 ごめんなさい、プリン食べたいです」


 これが僕が食事当番に甘んじた理由でもある。

 もう姉さんの胃袋は掴んだ! 姉さんは僕にはもう逆らえまい!


 シュンっとなった姉がプリンを食べてる後ろで僕は食器の後片付けをする。


「このプリン生クリームついてて美味しい!」


 市販のプリンに生クリームとフルーツをトッピングしただけのなんちゃってパフェだが、どうやら姉のやる気は回復したようだった。

 僕のプリンは⋯⋯ルーミアちゃんを見ながら食べようっと!


 こうして姉は部屋にこもり、配信を開始する。

 当然僕も自室にこもり配信を見る。

 なんか不思議だな⋯⋯こうして隣同士の部屋に居るのに。


「姉さんのチャンネルも、一応付けてやるか⋯⋯」


 よく考えると僕のパソコンはモニターが3つもある。

 中央のメインモニターにルーミアちゃんを映して⋯⋯隣のサブモニターに姉のマロンを映しておく。

 あと1つのモニターはコメントを書き込む用に使うか。


 ジュースOK! プリンOK! ポテチもある!

 宴の準備は完璧だ!


 5・4・3・2・1・0!


『みんな―、今夜もルーたんに会いに来てくれて、ありがと──!』


 ルーたんだ! 今夜も可愛いよ! ルーたん!

 画面の中でルーミアの3Dアバターがピコピコ動いているのが可愛すぎる!

 薄紫色の耳としっぽが時どき動くのだ! アレが僕の心を惑わせる!


 やっぱりいいな3Dは⋯⋯。

 今のアリスはまだ2Dだからな⋯⋯3Dアバターは発注済みらしいが時間がかかるので春の連休中にデビューさせたかった事務所の意向でアリスはとりあえず2Dのままデビューしたのだった。

 そうしたら3D化でまたブーストがかかるからという戦略もあるらしいし。


 でも、そんな事はどうでもいい!

 僕は歓喜を上げながらコメントを書き込んでいく。


【アリス:こんばんはー、ルーたん!】


 一瞬で流れて消えていく僕のコメント⋯⋯それにまだ誰も気づく事は無かった。

 この僕が大きなミスをしでかした事も⋯⋯。


◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆


こんばんはルーミアです。

私のチャンネル『ルーミアの耳と尻尾のソサエティー』へようこそ。

チャンネル登録してくれる方はそこのフォローを押して私の『使い魔』になってください。

そしてたくさんの☆☆☆を私に捧げるのよ!


アリス「ハイ、ハ~イ!」


だれ? あなた???


https://kakuyomu.jp/works/16817330649840178082/reviews

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る