#010 学生生活再開、憧れとの出会い
僕の名前は栗林有介、ひょんなことからVチューバーとしてデビューしたばかりの新人である。
そして今日は3回目の配信であり⋯⋯また春の連休の最終日でもあった。
「こうして悲しい事件は終わりました⋯⋯いやーまさか、犯人がヤヌだったなんて!」
【知ってたくせにw】
【しらじらしいな】
【地下迷宮で迷いませんでしたよね?】
「えー、何の事だかボクわかんないよ」
【すごく棒読みです、ありがとうございました】
3回目となる今日のゲーム配信はアドベンチャーゲームの開祖ともいう名作の『ポートアイランド殺人事件』だった。
セーブやパスワードが無かったり、探偵物なのに地下ダンジョンがあるという黎明期にありがちな意味不明なゲームである。
「次回の配信は2日後の19時からになる予定です。 もしも変更等がありましたらツイッターで告知しますのでフォローお願いしますね」
アリスには公式ツイッターアカウントがある。
開設してまだ5日目だけど、ものすごい勢いでフォロワーが増えている⋯⋯
このツイッターの更新もボクのVチューバーとしての仕事だ。
── ※ ── ※ ──
「ふう⋯⋯終わった」
僕は機材のスイッチを全て切って配信を終わった。
モニターの上には配信中を示すランプがあって、今は青くなっている。
切断事故を未然に防ぐ為に導入されたものだ。
切り忘れて、服を脱ぎ散らかす音が収録される心配などない。
姉さんの犠牲は無駄にしないよ──。
それはともかく⋯⋯。
「さて、お風呂に入って後は学校の準備しないと⋯⋯」
そう連休は今日で終わり、明日からはまた学生生活に戻るのだった。
昨夜は早めに就寝した結果、今朝の目覚めは快適だった。
僕はコーヒーメーカーに豆をセットしてスイッチを入れて、朝食を作り始める。
今朝はパンにするか⋯⋯
パンをトースターに入れて焼いている間におかずを作る、オムレツでいいか。
よくといた卵が、バターの解けたフライパンの上で踊る。
カシャカシャカシャ⋯⋯くるっ⋯⋯トンットンッ。
よーし、いい出来だ!
すると姉が起きてきた。
「おはよう、ねえさん!」
「あー、おはようアリスケ⋯⋯いい匂いね、お腹空いたー」
「じゃあこれ先に食べててよ」
「ん⋯⋯いいの、これアンタのでしょ?」
「時間には余裕あるし」
そう、引っ越しで学校が近くなったおかげで30分以上はのんびりできるのだ。
朝の時間でこれはかなり大きい。
「んじゃ遠慮なく⋯⋯んー今日のも美味しい」
結局食事当番は毎日僕の仕事になった。
「どういたしまして」
僕は姉が食べてる間にもう一度自分の朝食を作るのだった。
「ごちそうさま」
「アリスケ、前から思ってたけどアンタ⋯⋯なんでこんなに料理上手いのよ? このオムレツなんてプロ並みのフワフワじゃない?」
「あー、ネットの動画の見よう見まねで何となく出来るようになった」
「なんとなくって⋯⋯そもそもなんで作ろうとしたのか?」
「ほら僕は将来一人でレストランに行ってオーダーするのが嫌だったから⋯⋯」
「それで自分で作れるようにって⋯⋯」
「まあ最初の動機はね⋯⋯でもなんか性に合ってた」
最初の動機は確かに後ろ向きだったけど、こうして姉さんにも喜ばれるし悪い事じゃなかったさ。
「将来アンタとお店をするのもいいかもね」
「Vチューバーはどうするんだよ、昨夜も遅かったんだろ?」
姉の昨日の配信は深夜の3時くらいまでしていたようだった。
「将来の選択肢よ、あくまで。 昨夜は1時には配信は終わってたけどその後のスパチャ返しや雑談で気づいたら3時くらいになってたから⋯⋯眠い」
「じゃあこの後寝るのならコーヒーやめとく?」
僕はコーヒーメーカーから出来立てのコーヒーををカップに移す。
「いや飲む。 その後寝る」
あいかわらず姉さんは自由だった。
こうして僕の登校時間になった。
「じゃあそろそろ行ってくるね、姉さん」
「ん⋯⋯いってらさい」
どうも眠たそうな姉だ、この後爆睡確実だなカフェインの敗北である。
そして僕はマンションを出たのだった。
以前の実家からの登校だと30分くらいは電車に乗っていたからな⋯⋯。
今では歩いて登校しても10分程度⋯⋯段違いの速さで快適すぎる。
ホントにいいところに引っ越してくれたよ、ねえさんは。
その分帰りは夕飯の買い物があるが、それもまた楽しいし。
しかし学校か⋯⋯。
まるで夢から覚めて現実に戻ったかのような気分だな。
もしも学校で『アリス』の話題が出たらどうしよう?
いちおう僕は正体を隠すつもりだ。
そもそも周りとしゃべりたくないからボッチになったのだしね。
こうして不安を感じながらも僕の学生生活は再開したのだった。
僕の
まあそんなもんだ、これが現実ってやつさ⋯⋯。
僕のチャンネル『電遊アリスちゃんねる』の登録者は現在5万人といったところだ。
僕の感覚するととんでもない数なんだが、企業所属のVチューバーとしては大した数字ではない。
個人Vチューバーなら1万人にとどかない人も多いらしいが⋯⋯。
僕がこれだけの好スタートを切れたのはやはり『ホロガーデン』所属という看板のおかげなのだろう。
あと姉のチャンネルからの誘導があったからだな⋯⋯感謝しないと。
姉のトークは結構オジサン好みらしい⋯⋯だからなのかそっち経由で僕のチャンネルのレトロゲームに興味を持つ層は多かったようだ。
つまりこの学校でアリスを知っている学生なんてほぼ居ないと言っていいのだ!
⋯⋯悲しくなってきたが身バレよりはマシなので、これでいいのだ。
学校での昼休み僕は図書室をよく利用する。
なぜかって? 図書室では私語が厳禁だからだ。
それを差し引いてもタダで本が読めるのはありがたい事だ、この3年間でここの読みたい本は全部読破するつもりだ。
あった!
その本は前から読んで見たかった本だった。
ジュールヴェルヌ原作の本で昔見たアニメの原案にもなった作品である。
買ってまで読む気はなかったが、こうしてタダで読めるこの図書室はやっぱり素晴らしい⋯⋯。
そう思って手を伸ばした時だった。
その女の子と手が重なってしまったのは──。
僕は驚いた⋯⋯それは相手も同じだったみたいだ。
「ごめんなさい」
綺麗な声の女の子だった。
そしてよく知っている子だった。
僕は無言で手を引く⋯⋯彼女の方が先だったから。
「⋯⋯いいの? 貴方も読みたかったんじゃないの?」
「⋯⋯どうぞ」
僕が会話できるのはこう言った短い受け応えだけである。
それ以上はボロが出るからね⋯⋯。
僕の目とその本を何度か交互に見た後、その女子生徒は──、
「ありがとう、じゃあお先に読ませて頂くわ」
僕はその子をそのまま見送った。
長い黒髪をなびかせて去っていく彼女の名前は芹沢留美⋯⋯僕のクラスメートだ。
まあ向こうは僕の事なんて覚えていないだろうが⋯⋯。
約1月前、高校生活がスタートした。
それは新たな人間関係の始まりでもある。
無論僕は始めっから狙ってボッチの地位を目指した。
初めのうちは何人か僕に話しかけてくれる人は居たんだけど、次第に話しかけてこなくなってきた。
悪いことしたな⋯⋯いい人達だったのに。
そんな特殊な僕と違ってその芹沢さんはいち早くクラスに溶け込んだようだった。
勉強も運動も出来る人当たりもいい、まさに完璧超人って人だった芹沢さんは。
ボッチをしていると人物観察が捗る⋯⋯クラスの中で芹沢さんはとくに目立つ存在だった。
もしも僕が女だったら⋯⋯。
もしも僕の声がまともだったら⋯⋯。
彼女の様になれただろうか?
そんな憧れのような感情だった。
だからよく見ていたのだ、僕は芹沢さんを⋯⋯。
⋯⋯まあ住む世界の違う人だ、気にしても仕方ない!
僕はあっさりと気持ちを切り替えて別の本を手に取り⋯⋯読み始めた。
この時の僕には想像もしていなかった。
この芹沢さんと深く関わっていく事になるなんて──。
◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆
こんばんはルーミアです。
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そしてたくさんの☆☆☆を私に捧げるのよ!
アリス「ハイ、ハ~イ!」
だれ? あなた???
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