6 大人2枚
誠が有給を取れたのは、一週間後の金曜日だった。
すぐに晃大に連絡をすると、同じ日に休みが取れたというので、取り敢えずはほっとした。
ただ行き先はまだ決まっていない。
だから誠は、今週火曜の仕事終わりに、予定の相談を兼ねて晃大を食事に誘うことにした。
今回も二人の職場から近い店を選び、お好み焼き屋で会うことになった。
当日は思ったよりも仕事もスムーズに進み、待ち合わせにも間に合い、二人はほとんど同時に店先に到着し、のれんをくぐった。
「いらっしゃーい」
陽気な声の出迎えに包まれ、誠は席へ座るとすぐに、壁に並んだメニューを指差しながら、晃大に注文を聞いた。
「どれにする?」
「僕は豚玉とジンジャーエール」
「だったら俺は、モダン焼きとウーロン茶。自分で焼く?」
「そうだね、やろうか」
気合を入れるため、晃大はネクタイをゆるめて、シャツの袖を折り始める。すると、それを見ていた誠も、
「やる気だね。俺もやろ」
負けじと袖をまくり上げた。
注文してすぐに、具材の入ったどんぶりが運ばれてきて、二人は早速焼き始めた。
「こういうのって、性格でるよな」
誠は混ぜた具を鉄板の上に乗せ、きれいな円形を作り、炒めた焼きそばをのせた。
「でも、食べたら一緒だよ」
鉄板の上の具を形よく整えようとしても歪んでしまう晃大は、悔しそうにコテをぺたぺたと押し付ける。
「よし、そろそろ返すぞ。これがうまくいったら、晃大に奢ってやるから、応援して」
「いいの!? 頑張れ誠!」
「せーの!」
誠がひっくり返したお好み焼きが、きれいに着地した。
「上手いね! じゃあ、お返しに、僕がきれいに出来たら、うーん、何が欲しい?」
「そうだな、今のところ思いつかないから、お願いキープでもいい?」
「いいよ。じゃあ、いくよ」
肘を張った晃大が、勢いよく返してみる。だが、持ち上げが低すぎ、よれて崩れてしまった。
慌ててコテでなんとか形を作り直すと、
「これ、セーフでいい?」
舌を出し、笑顔でごまかした。
「うん、いいよいいよ、セーフで」
誠が激甘なジャッジで答え、最後にマヨネーズとソースをつけると、食欲をそそるいい匂いがして、美味しそうに出来上がった。
焼き上がってからは、お互い半分ずつを食べる事にした。
先に晃大が、大きな口を開けて頬張る。
「うーん、久しぶりに食べたけど、おいしい」
あまりにもいっぺんに口に入れために、晃大の口端にソースが付いてしまった。
それを、
「ここ、ついているよ」
と、誠が、指で口元を指して教えるが、
「ん? どこ?」
舌を出してペロリと舐めても、今ひとつきれいに拭えない。
「違う、そっちじゃなくて、もう少し下……」
もどかしくなり、誠はつい手を伸ばして拭おうとし、途中でハッとして手を止めた。
「ああ、こっち?」
そうしている間に、やっと自分で拭えた晃大は、
「どうしたの?」
きょとんとした顔で、口をもぐもぐとさせ、水をぐっと飲み込んだ。
「いや、なんでも……」
(まずい、うっかり触れるところだった……)
慣れてきて、つい気が緩んでしまっていた。
久しくなれば、それなりにボディータッチも多くなるのが普通だが、晃大との場合は、逆に慣れた頃こそ気を付けなければならない。
気持ちを引き締めながら、半分ほど食べ進めたところで、早速今日の本題を切り出した。
「それで、今度の予定なんだけど、どこ行きたい? 車出すから、遠くても問題ないよ」
「一度行ってみたいところがあるんだけど、でも、誠は嫌かもしれない……」
晃大は、遠慮をしているのか、ジンジャーエールを飲んだ後で黙ってしまい、それからなかなか希望を口にしない。
「嫌じゃないよ、どこ?」
安心させようと、誠が優しくにこやかに聞き直すと、その柔らかい言い方に、晃大は躊躇いながらもようやくぼそっと答えた。
「……遊園地。子供の頃から行きたかったけど、結局行けなくて」
遊園地はここから結構距離がある。
いきなりの遠出になるが、誠だったらだめとは言わなそうな気がしたから言ってみたのだが、子供でもないのに、いい大人の男二人が一緒に遊園地など、普通は嫌だろう。
そんな風に、晃大が言ったことを少し後悔していると、
「いいじゃないか、行こう」
意外にも笑顔で、了承してくれた。
「ほんと!? よかった!」
言い終えてほっとした晃大が、手を伸ばして誠のモダン焼きを味見した。
「あ、僕が焼いたのよりも、美味しいね」
悔しそうな顔をしながらも、パクパクと食べ進める。
これで会うのは三回目。ようやく晃大のリラックスした姿を見られるようになったと、誠は内心大喜びだが、表面はあくまで冷静を装い、遊園地の開演時間を検索する。
「あとは、出発時間か。そうだな、晃大の家からは、1時間半かかるから……7時半に迎えに行けば丁度いいと思う。それでいい?」
「うん。駐車場は会社の敷地にあるから使って」
「わかった。他に行きたい場所ある? 帰りはどこかに寄りたい?」
「遊園地がO Kになると思わなかったから、考えてなかった。ドライブしながらでもいいかな」
「それもいいね。旅って感じがする」
「予定のない旅か〜。憧れるね」
「晃大がしたいなら、俺はいつでも付き合うよ」
「そんな、悪いよ……」
「いつか、絶対行こうな」
「……うん、ありがとう」
誠は断らなかった。
それだけで晃大は嬉しかった。
朝の5時30分、軽快なデジタル音が部屋に鳴り響く。
目覚ましを止めると、誠は窓を開けて空を確かめた。
快晴。
そして、今日は晃大と遊園地へ行く日だ。
起き抜けでベランダへ出て、気持ちのいい風にあたると、体が徐々に目覚めていくのが分かる。
誠はパジャマのままキッチンへ立った。棚に置いてあるカゴから、小ぶりのりんごを取り出して、食べやすいようにカットする。
次に、焼いた卵とハム、チーズを食パンに挟んで皿に乗せた。
バナナはそのまま、ヨーグルトもカップのまま、男飯は手間をなるべく省き楽にするのがいい。
それから、冷蔵庫から牛乳をカップへ注ぎ一口飲むと、テーブルへ座った。
「いただきます」
一人暮らしを始めたばかりの頃は、朝はあまり食べられなかった。しかし一時期体調を崩してからは健康を考え、意識的に増やすようになった。
食後、片付けをしていると、晃大からメールがきた。
『今日はよろしく(ピースマーク)』
余程楽しみなのだろう。今までのメールには無かった絵文字がついている。
だから誠も、笑顔の絵文字だけをいくつか並べて返信した。
洗面所で身だしなみを整え歯磨きを済ませ、パジャマを洗濯機に入れベッドルームへ戻る。
先日買ったシャツを着て、バッグに必要なものを入れ車に乗り込むと、すぐに出発した。
北園商店の駐車場では、すでに晃大が待っていた。
「おはよう」
運転席に駆け寄った晃大は、車の窓を開けた誠に満面の笑みで声をかけてくる。
「行きは僕が運転するよ」
「いいのか?」
「うん。仕事でたまに運転してるから、大丈夫」
「じゃあ、お願いするね」
「任せて」
交代した晃大が、意気揚々と運転席に座った。
「道わかる? 一応ナビつけようか?」
誠が気を使い、あれこれ補佐しようとするが、晃大はあまり気にしないらしい。
「頭に入れてきたから行けると思う。じゃあ、行くよ。掴まって!」
そういうと、ハンドルをぐっと握った。
「ちょ、ちょっと待って、まさか飛ばす気じゃないよな!?」
焦った誠が、助手席でおろおろするのを横目に、
「なんてね。僕は無事故無違反ゴールドだから、安心して」
笑いながら、舌を出した。
「びっくりした……運転すると性格変わるタイプかと思ってヒヤヒヤした」
「ごめんね。それじゃ、ほんとに出発!」
「ったく、もう……」
誠は苦笑しながらも、茶目っ気のある冗談を言う晃大に、親しみを感じていた。
「この車、運転しやすいね。シートも座りやすい」
晃大は、初めて運転する車だからと慎重に走っていたが、慣れてくると会話にも余裕が出て、車の時計をちらり気にしながら、片手でハンドルを握り、
「さすがに出勤時は混むね」
などと言いながら、朝の通勤や移動のラッシュで、押し合いへし合いの道路をゆるゆると進む。
さらに晃大は、途中で何台ものトラックや社用車などに先を譲ってしまうから、なかなか進まない。
だが、そんな優しさも、誠にとっては好印象でしかないのだが。
「混んでるけど、もう少し進めば国道に抜けるから」
そんなことを言っているうちに、激混みだった幹線道路を抜け見慣れた町を過ぎると、田園風景が広がる清々しい景色に変わった。
二人は窓を全開にして爽やかな風を車内に入れた。
「気持ちいい〜」
「晃大、髪が凄いことになってるぞ? って、俺もだけど」
「あはは、誠の変な髪型、見たいけど、見れない」
「いいよ、見なくて。安全運転でお願いします」
そして、通り過ぎる道なりの店舗などを眺めては、
「あ、あの店なんだろう」
「帰り寄ってく?」
「こっちも良さそうだね」
どんどんと立ち寄り候補リストが増えていった。
目的地に近づき、誠が遊園地のサイトを見ながら晃大に聞いた。
「とりあえず、初めに何に乗るか決めてる?」
「ジェットコースター!」
晃大は迷わず即答した。
「え? いきなり?」
口コミを見ると、この遊園地のジェットコースターは、かなり高低差が激しくスピードも速くて、「地獄の旋回弾」と呼ばれるほど怖いらしい。
「マジか……」
誠は思わず絶句してしまった。
子供の頃、別の遊園地だが、両親と遊んだことがあった。
だが、ジェットコースターは危ないと、乗せてもらえなかった。
元々あまり高速の乗りものは得意ではなく、子供向けの回転や落下がない遊具でさえ、恐怖のあまり泣きそうになったのを覚えている。
一度も乗ったことがないのに、大人だから乗れるかというと、いきなりは厳しい気がする。
「初めはさ、もっとゆっくり揺れる系にしないか? あ、ほら、船が前後に動くオーソドックスなものとか……」
「えー」
呆気なく、秒で拒否されてしまった。
「だったら、お化け屋敷は? スリルあると思うよ、違う意味で」
「一番初めに乗るのは、ジェットコースターって決めてるんだけどな」
「だよなあ……」
ダメ元で変更を誘うが、晃大は不満なようだった。
でもまあ、仕方がない。今日のメインの目的は晃大が楽しむこと、これに限る。
誠の意見や好みよりも、優先されるべきは、晃大の趣味嗜好だ。今日は、そのために来たのだから。
「あ、そろそろ到着するよ」
前方にそびえ立つ、大きな観覧車を指さす晃大の声は、今までで一番楽しそうに弾んでいた。
ここまで来れば、もう乗るしかない。誠は彼のためだと諦めて、従うことにした。
「大人2枚」
さすがに平日だけあって、チケット売り場は並ぶ人もまばらだった。
園内も閑散とまではいかないが、待ち時間はほとんどないといっていい程空いている。
晃大はジェットコースター目指して、誠の半歩前を進んで行った。
「そんなに急がなくても大丈夫だよ」
「別に急いでないよ」
本人の自覚はゼロらしい。
脇目も振らず、お目当てに向かってスタスタと進んでいく晃大の後を、誠は慌てて追いかけながら、目の前に迫る巨大ジェットコースターに目が釘付けになった。
近くで見ると想像以上に落差が大きく、そしてかなり距離が長い。
「一番前に、乗りたかったんだ〜」
嬉々として先頭に並び、乗り込みを待つ晃大に、誠は冷や汗まじりに最後の足掻きで食い下がった。
「別に一番前じゃなくても、いいんじゃないか?」
「初めてなんだから、一番前でないと意味ないよ」
もうワクワクが止まらない晃大には、何を言っても無駄だった。
そうこうしているうちに、目の前にジェットコースターが到着した。
係員の案内で、晃大は即座に先頭に乗り込んでしまう。
そうなると自動的に、誠も最前席に乗車することになる。
目をキラキラさせて、安全バーを握る晃大の隣で、誠は顔を引きつらせた。
「安全バー下ろしまーす」
係員にバーを押し込まれ、誠はもう逃げられないと腹を括った。
発進のベル音がけたたましく鳴ると、荒々しい音を立てて、まずは軽く速度を出して進む。
コースターがいよいよ登り始めると、カチカチとカウントダウンのような音が響いた。どんどん地上のアトラクションが小さくなり、両足の血の気が引くのを感じる。
誠は晃大が気になり、
「大丈夫?」
声をかけるが、
「怖い怖い怖い、どうしよう!」
そう言いながら、セリフとは真逆の満面の笑みが返ってくる。
「全然怖そうじゃないね……」
誠が青ざめながら苦笑している間に、とうとう頂上に到達してしまった。
スルスルと流れるように加速したコースターが、一気に落ちていく。
「わあああああああ!」
乗客のほぼ全員が、歓喜と断末魔のような大声を上げる。
晃大はその後の回転や斜め走行の間中、ずっと声を上げて楽しんでいた。一方の誠はというと、声を出せずに目は開けたり閉じたりして、必死にバーにしがみつくだけで精一杯だった。
体を激しく揺さぶられながら到着して、やっとの思いでコースターから降りられたと思ったら、晃大がすぐに、
「続けて乗ってもいいかな?」
連続で乗るために、また列に並ぼうとした。
「ええ!?」
誠は焦り、両手でバツを作り、
「無理無理! 高さは平気だけど、速さがダメ。斜め走行も気持ち悪くて、ごめん! もうギブ!」
懇願する形で、戦線離脱を申し出た。
「そっか……。じゃあ、一人で乗る。誠は下で待ってて」
「怖くないのか?」
「ずっと乗りたいなと思ってたから、怖いけど、楽しい!」
「わかった。下で待ってる……」
晃大を乗せたコースターがレールを登る間、誠は下の広場から手を振った。
気づいた晃大も手を振り返して、また約二分と少しの絶叫を楽しんだのだった。
連続で乗りとりあえず気が済んだのか、晃大は待っていた誠と合流し、それから二人は順序よく園内をめぐった。
晃大の好みは、割とスピードのあるものが多く、対して誠はメリーゴーランドのようなゆっくりな遊具に乗りたがった。
「次、観覧車に乗ろうか?」
誠がなだめるように誘うと、
「ジェットコースターまた乗りたいな……」
遠くで悲鳴と轟音が聞こえてくる度に、乗りたそうにさりげなくリクエストをしてくる。
晃大のジェットコースター欲はこうして時折再熱し、二人で乗れるようなアトラクションに移動するのは苦労した。
「な? 観覧車も乗ろうよ、せっかくだし」
動きの少ない乗り物は、晃大には全く面白くないらしい。誠に促され仕方なく、観覧車に乗り込んだ。
それでも頂上付近になると、そこからの抜群な景色に大きく目を開き、遠くの景色を指差した。
「僕らの街はあっちだよね」
「そうだね」
空の上を少しずつ移動しながら、空中で隔離される二人きりの時間。
出会いから再会を経て、誠はこの不思議な縁に感謝していた。
高校の頃、あれほど晃大の役に立ちたいと願いながら、結局何一つ出来なかった悔しい思いは、もう二度と繰り返したくない。
(やっとここまで……)
いや、まだまだこれからだ。もっとよく晃大を知り、近くならないことには、どうにもならないだろう。
そんな誠の思惑など露とも知らぬ晃大は、無心で観覧車からの眺めを満喫している。
その誰とも似ていない、遠くを眺める晃大の純粋な横顔を、そのまま留めておきたくなった。
「写真撮らないか?」
急に思いつき、誠が声をかけた。
晃大は頷き、席の端に座り直し、それから誠は彼に触れないように気をつけてその隣に座った。
体は離していたが、顔はなるべく近づけて、シャッターを押した。
写真を確認すると、晃大は笑顔が硬く、誠も微妙にぎこちなかった。
今日で会うのは4回目。親友といっても日が浅く、お互い妙に緊張してしまうのは仕方がないだろう。
「どう? よく撮れたと思うけど」
誠にスマホを向けられ、晃大がその画面をそっと覗き込む。
「あー、ちょっと緊張してるね。でもいいと思う。後でその写真もらえる?」
「いいよ」
観覧車を降りると、何か甘いものを食べようと、フードショップへ向かった。
晃大は叫んだせいで喉が乾いたと言い、冷たい苺スムージー、誠はマンゴースムージーを買い、店の前のベンチへ腰かけた。
「少し疲れたな」
誠がゆっくりとベンチへもたれ、足を伸ばす。
「休まず乗ったからね。僕はほとんど回れたから満足だよ」
「晃大は思ったよりタフなんだな」
「そんなことないよ。ずっと来てみたかったから、テンション上がってるだけだよ。誠、ありがとう。夢を叶えてくれて」
テンションが上がっているという割には、落ち着いて感謝をしてくれる。
だから誠も、微笑みながら、
「どう致しまして」
丁寧に返事をした。
「おいしー」
晃大はスムージーを飲みながら、遠くを見つめる。その視線の先には、家族連れが歩いていた。ほんの少しだけ寂しそうに見え、誠は心の中で晃大に声をかけた。
(ほんとうは、ずっと来てみたかったんじゃなくて、「ずっと前に来たかった」だよな……きっと)
それから、昼もたいぶ過ぎた頃、そろそろ帰ろうかと話していると、晃大がもう一度ジェットコースターに乗ると言うので、誠も付き合うことになった。
最後はもう意地のようなもので、乗り終えた時はぐったりしてしまったが、満足げな晃大の笑顔でなんとか回復できた。
「もう2時か……お昼はドライブ中に晃大が食べてみたいって言ってた中華風料理店へ行こうか」
「やった!」
遊園地を出て車に乗り込み、今度は誠がハンドルを握った。
目当ての店に着き入店すると、時間が遅かったせいか空いていて、食事はすぐに提供された。
「けっこうお腹すいてる。いただきます」
「僕も、ペコペコ。うん、美味しい」
こじんまりとして古びた外観だったが、さすが長年続いているだけあって、味は抜群だった。
店を出て、自動販売機でお茶を買い、再び車を走らせる。
しばらくして、お腹がふくれて眠くなった晃大がうとうとし始めた。
「着いたら起こすから、寝てていいよ」
誠は、寝やすいようにシートも倒すように言った。
「大丈夫。誠だって疲れているのに、僕だけ眠るわけにいかないから」
そう言って晃大は、健気にも起きていようと頑張った。
だがやはり、猛烈な睡魔には勝てなかったようで、話している途中で急に無言になり、いつの間にか眠ってしまっていた。
誠は静かになった車内で、今日の晃大の行動を考えていた。
遊園地に行きたいと言われた時は、初めは子供っぽいところがあるのだなと微笑ましく思った。
だが、いざ遊び始めると、絶叫系ばかりに乗りたがる。これは意外で驚いた。しかも、大きな声を出しはしゃぐ姿は生き生きとして、いつも大人しく周りに気を使う晃大とは正反対だった。
初めて二人で写真を撮れたのもよかった。今までで一番距離が近づいた気がした。
とにかく遊園地という非日常の中で、普段とは違う晃大の様々な表情を見られたのは嬉しい。
きっかけなどは何だっていい。少しでも晃大の気持ちが楽になればそれでいい。誠が願うのはそれだけだった。
北園商店の駐車場へ着き、
「晃大、起きて」
誠は声をかけたが、眠りが深いのか、全く起きる気配がない。
しばらく様子を見ようと、一度エンジンを止めると、微かな晃大の寝息が聞こえてくる。
耳元で少し大きな声を出せば、確実に起きるだろう。そう思い、誠はシートベルトを外し、晃大に顔を近づけた。
そういえば、こうして間近でまじまじと顔を見るのは初めてだ。
(可愛い感じだとばかり思っていたけど、割とキリッとしていて、男らしい凛々しさもあるんだ……)
安心しきって眠っている晃大を起こすのは、何か寂しい気がした。
(このまま、しばらく見ていたいな……)
つい、そんな事を考えてしまう。
だが、いつまでもこのままというわけにもいかず、声をかけてみる。
「起きて、着いたよ」
声が小さかったのか、全く起きる気配がない。
また少しだけ声を大きくして、呼び掛けてみた。
「晃大、起きて」
「う……ん……」
「着いたよ」
「……あれ? ごめん、寝ちゃった!」
やっと気づいた晃大は、慌てて、体勢を戻そうと体を捩った。
「いいよ、ゆっくりで」
「ここ、もう家?」
「そう。駐車場に着いたよ」
晃大は目を擦りながら、シートベルトを外し、体を左右に伸ばした。
「誠、疲れてない? うちに寄って休んでいけば?」
「大丈夫。俺の家、車だったらすぐだし」
「そうだったね……。今日は本当にありがとう。じゃあ、また今度」
晃大が車を降りると、誠は軽く手を振った。
バックミラーで確認すると、晃大は見えなくなるまで手を振ってくれていた。
それから、誠が自宅マンションの駐車場に着いたちょうどその時、メールの着信音が鳴った。
『忘れてました。時間がある時でいいので、観覧車で撮った写真送って欲しいです』
誠はそれをすぐに転送した。
車を降りて、エレベーターに乗る直前で返信がきた。
『ありがとう! ロック画面にするね』
そんな風に言ってもらえて、嬉しくなった誠は、
「俺も、します」
独り言をいい、無機質だった画面を、二人の写真に変えた。
「ただいま」
玄関の鍵を開けて、靴を脱いだら、急に睡魔が襲ってきた。
脱衣所に行くのも面倒になり、寝室で服を脱ぎ捨てると、そのままベッドに潜り込む。
次に会うのは、いつにしようか。
楽しかった1日を思い出すより先に、意識が消える直前まで、次に会える時間を考えていた。
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