第2話


「起きろ陽葵ぁ!!!」

 散々今までの人生について振り返ったり、一緒に過ごしてきた悪ガキの姿を思い出しながら寝れば夢にも出てきた。

 それこそ、出会った日の遅くまで遊んで結局親に怒られた記憶すらも思い出して夢にも見たんだけども。

 帰り道であら不思議、常会違いのご近所さんと判明。そのあとは、夜遅くまですいません的な謝罪をしに先方に親と赴けばまさかの意気投合。そこからやたら一緒に遊ぶようになって休みになれば家にいるように。


「ねぇ! ひーなーたぁ!」

 ぎゃんぎゃんと聞こえる声。こんな感じで俺を起こし始めたのは中学二年ぐらいからだ。なんで始まったかいまいち思い出せないが確かそのぐらい。

 朝、アラームよりも先に耳元で聞こえた大声にどれだけ心臓が冷やされたことか。

 あれ、俺が高齢者だったら逝ってるわ。縁起でもねぇけど。


 つまるところ何を言いたいかといえば。

「ひーーなーたぁ!!」

「だぁ!! うっさい怜奈!」

「はぁ! 起きねぇ―のが悪いんじゃん!」

「わかったからほんと悪かった」

「あれ素直じゃん?」

「ああ、だからもう少し寝かせてくれよ」

「だーめ!」

 目の前。現実逃避に走っていた思考をたたき出し瞼を開ければ15センチもないような距離にあった怜奈の顏。

 昨日の今日で心臓に悪い。

「ねぇ。 起きなって!」

「だからねみぃの」

「寝すぎだから。 遅刻するから」

「はぁ?」

「今日まだ金曜だよ」

「はぁああああ!!!!???」

 信じられない衝撃の発言にスマホを見れば

『08:10 5月20日(金)』

「.....やった」

「ほら起きろ馬鹿!」

「んな!?」

 俺を包んでくれていた布団をバッと剥ぎ去り、ベットから引きずりだす怜奈。

 距離なのだがなんとも余裕の無い時間に思わず1限さぼりという伝説の技を決め込もうか考えてる俺をよそにてきぱきと壁に掛けた制服を投げてくる。

「ほら! はやく着替えろ!」

「あー、んー」

「ああ! もう! 遅れるからほら!」

「いて!」

——こいつベルト投げてきやがった。

 文句の1つでも言おうと思えば、明らかに抗議の視線を向けられているのがわかるのでそんなことは出来ない。

「じゃあ、ブレザーは任せた!」

「はいはい」

「あぁ、あと...」

「イヤホンに財布でしょ? わかったから」

「お。おう」

「なに? 早くその頭治してこい!」

「うす!」

 まさか全部あてられるとは。

 視界の端で俺のカバンを準備している怜奈を置き去りにブレザーとシャツを持って部屋を出る。


シャーーーー!!!

 

 軽快な音を出す洗面所の蛇口に頭を突っ込み寝癖を鎮圧する。

 あとはそれをタオルで乾かして軽くワックスで髪を立てて仕上げれば完成だ。

 ツーブロックのベリーショートはこれが楽だからやめられない。

 昔、中学校あたりで襟足伸ばしたりロン毛にしようとしてめちゃくちゃ怜奈にキモがられたのがきっかけだった気もするが。

 寝巻のパジャマを洗濯かごに叩き込んでスラックスとシャツを身に着け洗面所を出れば、

「お、おう。 おはよう」

「ああ。 おまえ怜奈ちゃんに迷惑かけんなよ」

「そうよ陽葵。 ちゃんとお礼しなさいよ」

「いえいえ、気にしないでください」

「あ、ブレーザーはい!」

「おう」

 廊下に両親と怜奈の姿が。

 てか感謝も何もたまにはあんたが起こしてくれてもいいんだぞマジで。


 ただそんな言葉を言う余裕があるわけでもない。

「怜奈。 いきにコンビニで好きなのかってやる」

「よっしゃ! じゃあフラッペにサラダに.....」

「五百円までな」

「えぇーーー」

「甲斐性ないなお前」

「お小遣い増やそうか?」

「いやおかしいだろ?」

——500円も大金だろうが。

 てかなんで親にまで言われなきゃならんのだ。

「てか仕事はいいのかよ」

「ああ、午後出勤だから」

「フレックスタイムだ」

「じゃあいってきます!」

「はい! いってきまーす!」

 もはや比較してはいけなかった。

 挨拶も手短に玄関を押し開ければそれに続いてくる怜奈。

 なんとも見慣れた光景なのだが。 

——こいつ家に順応しすぎじゃね?


「ねぇ、なんで今日あんなに寝てたの?」

「トイッター」

「馬鹿だ」

「うっせぇ」

「いや馬鹿でしょ? 女子かっ」

「......はいはい」

「ほんとにどうしたん?」

 柄にもなく心底心配そうに聞かれるが、言えるわけがない。

 自分の気持ちを確かめるためにもトイッターの恋愛話を読み漁っていたことを。

——趣味アカあってよかった。

 深夜二時くらいにも関わらず答えてくれる人がいたのは、他人ごとなのか、それとも面白いネタと思ったのかは知れないがいろいろな話が聞けた。

 そのせいか寝るときに、日付が変わっていたのに寝れば休みだと思ってしまったのだ。

「別にネットが面白かっただけだよ」

「......ふーん」

 ずっと横から来るおにぎりとフラッペで武装したこいつの視線にそう付け足しても訝し気に見られてしまう。

 唇に海苔をつけながら、コンビニおにぎりを食べ歩き。

 かくいう俺も、野菜ジュース片手に唐揚げをつまんでいるのだが、

「朝飯食ったのか?」

「ん? うん、いつも通り家で食べてきたよ」

「だよな」

「もちろん! なんで?」

「いや、それウマいか?」

 もはや何も言うまい。話を逸らすべくフラッペを指させばなんとも渋い顔をする。

「うーん、おにぎりには合わん」

「だろうな」

「んー飲む?」

「いらん」

「いいから飲んでみって!」

 グイッとネクタイを引かれ目の前にはストローが。

 一瞬ドキッとしたがそれもつかの間。

「さぁさぁ」

 リップの代わりに海苔をつけた奴に煽られればもはやいつもの感じで一口。

「あま」

「でしょ! チョコバナナフラッペだからね」

「糖分おばけじゃん」

「気にしない気にしない」

 満足そうにまた飲み始める怜奈を見ればなんともいつもの感じ。

 ——勘違いだったのかもな。

 深夜のことを思いだしながら俺は歩幅を広げた。


「一ノ瀬、ここわかるか?」

「あー。X=8っすか?」

 1限の数学。朝からゴリゴリの計算を出すのはいただけないが答えて見せればこちらを化け物でも見るような視線で見る我らが数学教師、原和重。

「お前、頭でも打ったか?」

「おい、どうした陽葵!」

「一ノ瀬君!?」

——いや、クラスもひでぇなおい。

「なんすか、違ってました?」

「いや、あってる。 だから私が間違ったのかもしれん」

「は?」

「先生、スマホで計算してもそれになります」

「よし! 鈴木! とりあえず没収だ」

「えぇー、ふざけんな陽葵!」

「いや、俺関係ないだろ?」

 人の答えを疑った挙句に、まさかの俺のせいかよ。

 ただ俺のそんな気持ちは知らずか、原ちゃんは俺を熱い目で見てくる。

「ようやく、ようやく勉強する気になって」

——おいまて、俺はそこまでバカじゃねぇ。 

 まぁこれも普段試験でポカす俺の責任なのかもしれんが。

 そこからは1限だというのに愛車のスポーツカーばりにエンジンのかかった原ちゃんがみんなに熱弁するわするわ。

 ただ、せっかくの原ちゃんの熱烈講義だったが半分も頭には入ってこなかった。


『本当に異性として好きなの?』

 トイッターで言われた一言。それが延々と俺の思考の大半を支配していた。

 最初は訳が分からなかった。達也との話で俺は怜奈が好きなんだろ思ったはずで、緊張した晩飯を過ごして、どうにかして怜奈を送り返したはずなのにあの時のドキドキは何だったというんだ。

 ほかのトイッター民も疑問を持ったのか、その言葉に様々な反応を見せていたが、

『妹やお姉ちゃん、近所のお姉さんみたいな感じじゃない?』その一言で頭がいくらか冷静になったのを俺は覚えている。

 ただ、『いや、それは恋だろ?』そういった返信も多くおかげで俺は、怜奈を異性なのか親愛なのかわからない状態で朝を迎える羽目になった。

 それで朝一番に彼女の声で目覚めたもんだから一瞬パニックにありかけたが、親愛じゃないか。そう思えば随分落ち着いたのだ。しかし落ち着かせたはずの思考も今朝の登校や、意味ありげに振り向いてくる達也のせいで狂ってくる。

——ほんと達也しねや

 行き場のない怒りをサムズファックに変え、2限に備えて机に伏した。

 

「おい、陽葵」

「なんだしね達也」

「つなげるな、しね陽葵」

 なんとも学のない会話だが、こいつにはこれで十分だ。

 まだ肌寒い時期だからか、半袖と長袖が入り混じる体育館で上下を青のジャージで統一した達也は俺のもとに寄ってきた。

 それも何かにやにやしながら。

——このやろう

「バスケ、ペア頼むわ」

「うざい」

「あー、じゃあいつもみたいに野崎さんか?」

「.......しかたねぇな」

「じゃあボール持ってくるわ」

 俺の状態をわかっていっているからかタチが悪い。

 本来、女子と男子が混じるなんて言うのは高校の体育にもなればありえないのだが、基本男な怜奈は、男女比17:17のクラスだからかやたら俺とペア運動は行っていた。

 俺も特に気にしたことはなかったが、改めて言われれば別だ。

「あ! 陽葵ペア!」

「わり怜奈。 今日達也とやるわ」

「え?」

「ごめん、野崎さん」

「いや、いいけど」

「あ、怜奈! 今日あいてんの!? 一緒にやろー」

「え? ちょ、陽葵?」

「わり」

 いつもの感じで怜奈が一瞬、達也をじっと見ていたが他の女子に見事に連れ去られた。

 あいつ、女子の癖に女子人気えぐいからな。

 まさか普段癪だった点に救われるとは。

「って? 何してんだ達也」

「いや」

 隣でずっとボールを構えた達也に視線を送れば、こっちはこっちでやらかした時のような顔で、

「野崎さん怖かった」

「は?」

 訳の分からんことを言っていた。


「で? 結果告ったの?」

「は、何言ってんだよ?」

 質問と同時に飛ばされるパスを受け取りミドルシュート。

 ボールはボードを使ってガコンッ!といい音で入るが俺たちの最優先はそこじゃない。

「だって、一緒に登校してたし。 進展ぐらいあるでしょ?」

「ねぇよ」

「ええ、きも」

「てめぇがな。 大体親友的なあれだろ」

「ヨシ!」

 目の前を通過したボールにカットを合わせればボールは達也のもとへ。

 それをスリーで決め、振り返りこっちをマジでキモがる目で見てくる。

——マジでこの顔にシュート決めようかな

 次のパス覚えとけよ、そう思ったとき試合終了のブザーが鳴り響いた。

「45対12で白の勝ちだ!」

「バケモンだろお前ら!」

「話ながらとか引くわ!」

「てか部活やれよ!」

 試合で間違いなく貢献したはずの俺らは散々なことを言われるが、それもふざけながらの言葉だとわかるので別に怒ったりはしない。

「やだよ、てかバスケ部はもっとつえーだろ」

「俺はクラブで十分」

 正直、俺が部活で通用するかよりもやる気はない。達也は社会人の方でやってるみたいだから実際ずるいんだが。

「よし! 次は赤と黒。 女子もだ!」

 黒チームは連戦ドンマイだが、おかげで時間ができた。

「で、親愛はないと思うぞ」

「なんで」

 休憩で開口一番にそういう達也に抗議の視線を向ければあきれたように笑われる。

「だって、俺お前となかいいよな?」

「まぁ。 え、達也きも」

 突然、ホモっ気のある言葉に自分の体を抱きしめれば冷たい視線を向けられる。

「じゃあ、俺に彼女が出来たら嫌か?」

「なわけねぇだろ」

「そーゆーことだ」


 明確ではないような言葉なのにやけに情報量が多く感じた。


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ずっと親友ポジだった女友達に.... 紫煙 @sienn

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