第5話
そうして私は先輩に彼との思い出を話すこととなったのだ。
私と彼は物心がついた頃からずっと一緒にいた。あの頃は2人の間に壁などなく、砕けた口調で喋ることができる友達だった。
「麗葉!大丈夫だから、おいで?」
「うん!風維、ありがとう!」
優しい風維の笑顔に思わず麗葉は顔を赤らめる。
風維の家の近くの河原は2人の遊び場だった。
足場の悪いところでは、必ず風維が麗葉の手を取り、駆け回っていた。
夢中で遊んでいると、あっという間に時間が過ぎてしまい、辺りは薄暗くなっていた。
「はぁ、もうこんな時間だ。帰らないと…。麗葉!明日も遊ぼうね。」
「やだ!まだ風維と一緒にいたい!家に帰らない!」
毎日帰る時間になると、麗葉が帰らないと駄々をこねるのはいつものことだが、今日は様子が違うことに風維が気づく。
「いつもと違うね。どうしたの?」
泣きじゃくりながらも麗葉が辿々しく言葉を紡ぐ。
「あのね…。パパが帰ってこないの。そしたらね、ママが他の女のところにいるんだーってずっと怒るの…。ママずっとおこったら、その後ずっと泣いちゃうの。パパはママと麗葉が嫌いだから帰ってこないの。どうして!ママと麗葉の何が悪いの!」
徐々に平常心を失っていく麗葉を風維が力強く抱きしめる。
「大丈夫…。僕が麗葉のことずっと大事にするよ!麗葉のこと大好きだから!」
優しい風維の声に麗葉は徐々に落ち着きを取り戻していく。
そして縋るような目で風維を見つめた。
「じゃぁ、ずっと一緒にいて。」
「もちろん。約束するよ。今日は僕の家に泊まりな?お母さんには家から電話するよ。」
「うん!」
こうして、麗葉はその日風維の家に泊まることになったのだった。
麗葉は風維の両親が大好きだった。
(風維のお母さんとお父さんは仲良しでいいなぁ。ママとパパと全然違う。)
風維の両親もまた懐いてくる麗葉を可愛がっていた。風維がお風呂に入っている間、風維の父と麗葉は一緒にリビングにいた時だった。何気ない風維の父の言葉が、2人の関係を大きく帰ることになる。
「いやぁ、麗葉ちゃんは本当に可愛いなぁ。風維がずっと麗葉ちゃんの話ばかりするのもわかるな。」
「ほんと?風維ずっと麗葉の話ししてるの?」
ほおを染め、高揚した顔で聞き返してくる麗葉を微笑ましく見つめて、冗談めかして話を続ける。
「麗葉ちゃんが風維と結婚して娘になってくれればいいのになぁ。」
「結婚?したらここにいられるの?」
「もちろんだよ。夫婦は一緒にいなくちゃな。」
それはすとんと落ちてきた求めていた答えだった。
「…する。」
「どうした?」
「風維と結婚する!どうすれば結婚できるの⁉︎」
あまりに必死な様子に風維の父は動揺しながらも風維が同意すれば婚約者にすると約束したのだった。
「風維!風維!」
(風維がいいって言えば結婚できる!ずっと一緒にいられる。風維は麗葉とずっと一緒にいてくれなきゃだめなんだから!)
「麗葉?どうしたの、そんなに慌てて。」
これから一緒にいられる喜びのあまり、風維に飛びつく。
「風維!お父さんがね、麗葉と風維が結婚していいって!結婚すればずっと一緒なんだよ?風維は麗葉と一緒にいてくれるって約束したんだから、結婚するよね?」
そう捲し立てる麗葉を困ったような表情で風維が見る。
(なんでそんな顔するの?)
「風維…。ずっと一緒にいてくれるって言ったの嘘だったんだ。」
その言葉に弾かれるように風維が顔をあげる。
「違うよ!」
「じゃあ、結婚して!」
一瞬視線を彷徨わせた後に風維がうなづく。
こうして2人の婚約が決まったのだった。
卑怯な私の恋 白宮 つき @shiromiya
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