第4話
職員室に入部届を出した私は、美術部を訪ねることにした。
(もしかしたら、朝切先輩に会えるかもしれない。)
「失礼します。入部させていただく綾波麗葉です。」
「麗葉ちゃん!早速入部してくれたんだね。部長の朝切和也です。これからよろしくね。」
そう言い、人懐っこい笑顔を向けた先輩が握手を求めてくる。
「はい。よろしくお願いします。」
美術部の雰囲気はよく、初心者であっても歓迎してくれるようだった。
「驚いたでしょ?他の部活はエリート意識の高い子たちが多いけど、我が美術部はアットホームな雰囲気が売りなんだよね。」
「正直、あまり歓迎されないことも覚悟していたので、驚きました。」
「あはは、そうだよね。みんなには麗葉ちゃんが僕のモデルになってくれる話はしているから、このままアトリエに行こうか。」
「はい、わかりました。」
「早速で悪いんだけど、僕被写体のことを理解した上で描きたいんだ。麗葉ちゃんのこと色々聞かせてくれないかな?」
「はい、わかりました。」
(そういえば、いつの間にか名前で呼ばれてる。昨日会ったばかりなのに、でも嫌な感じがしないのは先輩の人となりなのかしら?本当に太陽みたいな人。)
「麗葉ちゃんはどんなものが好き?」
「そうですね、綺麗なものが好きですね。花…とかでしょうか?」
「それって風維くんの影響かな?」
(この瞳…。見透かされてるみたいな気持ちになる。私の全てが彼によって作られていることがこの人といると自覚させられる…。どうしてこの人の前だと誤魔化せないの?)
気づくと素直に答えてしまっていた。
「はい。風維さんも花が好きだから。」
「そっか…。」
(何か言われるのかな、中身のない私なんか描いても仕方ないよね…。)
「風維君のことが好きなんだね。」
「え…?」
「あれ?違うの?」
「いえ!違くないです!好きです、彼のこと。」
思っていたことと違うことを言われ、思わず拍子抜けしてしまう。
「誰かを好きになって、はっきり言葉にできるのはすごいことだよ。」
「でも、私は好きなものでさえ、彼に関するものなんですよ?中身のない私を描いていいんですか…。」
(あぁ、言うつもりもなかったのに。先輩の前だとつい思ったことを言ってしまう。取り消してしまいたい!)
先輩が静かに微笑んだ。
「大丈夫。麗葉ちゃんは空っぽじゃないよ。だって、自分で選んだ人を好きになってるから。他の人がなんて言っても大丈夫だよ。」
(どうして…。先輩がずっと言ってほしいと思っていたことを言ってくれる人なんだろう。はっきりと私を認めてくれる人、こんなところにいたんだ。)
「よければ麗葉ちゃんと風維くんの話を聞かせてくれないかな。」
「はい。先輩も知っているかもしれませんが、私と風維さんは幼馴染で婚約者です。」
「噂はほんとだったんだね。」
「でも、親の決めた婚約者です。」
先輩が優しく微笑む。
「でも好きなんでしょ?」
「はい、もちろんです。彼は私にとって特別な存在なんです。でも、私は彼に償わなきゃいけないことがあります。聞いてもらえませんか?」
「うん。」
(私きっと誰かに聞いて欲しかった。そして許されたいと思ってる…。先輩って天使みたいだからかな、この人に許してもらえたら、風維さんとずっと一緒に…。)
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