第3話

(今日は風維さんが夕食を食べにきてくれる日なのに…。気がつくと先輩の絵を思い出してる。)

そう、あの絵を見てからずっと頭から離れないのだ。

そのため今日は何度も声をかけられても上の空で、真友理を怒らせていた。

ぼんやりと絵のことを考えていたが、真友理の甘えた声で徐々に引き戻されていく。

「ねぇ、風維。今日は泊まっていってよ、だめ?朝ご飯は私が作ってあげるから。ね?いいでしょ。」

「真友理さんが料理が作れるとは知りませんでした。せっかくですが、コンクールに向けて準備をしたいので遠慮します。麗葉さん?今日はぼんやりしていますね。体調でも悪いですか?」

「もうっ!真友理って呼んでって言ってるのにぃ。風維は気にしなくていいよ、その子帰ってきてからずっとそうだから。」

「そうなんですか?心配ですね、麗葉さん?大丈夫ですか?」

「はいっ、ぼーっとしてしまって…。何かお話しされてましたか?」

「ぼんやりしていたので、体調が悪いのかと思いましたが、その心配はなさそうですね。」

「ご心配をおかけしてすみません。」

彼が優しく微笑み、私の耳に髪をかけてくれる。

「今日はどの部活動を見ていたんですか?」

「あ…。美術部を見ました。」

(正確には先輩のアトリエなのに、もしアトリエと言って、風維さんが何も言わなかったら嫌。風維さんは気にしないってわかっているけど、この場で分かりたくない。)

「美術部に入るつもりですか?」

「…?はい、そのつもりです。」

「そうでしたか…。何か気になることでもありましたか?」

(どうしたの?風維さんがいつもと違う…。こんな苛立ってるみたいな雰囲気の風維さんは初めて。)

「絵が素敵だったので。私も入ってみようかと思っています。」

苛立ってるようないつもと違う彼に戸惑ったけれど、顔を上げたときにはいつもの彼がそこにいた。

「麗葉さんの絵を見るのが楽しみです。完成したら見せてくださいね。」

「はい!ぜひお願いします。」

(さっき様子が違うと思ったのは気のせいだったのね。)


コンクールの準備のため、風維は麗葉の家を後にした。

「何故急に美術部に入るつもりになったんだ?」

(彼女には好きなように過ごしてほしい、その気持ちに嘘はないはずなのに。どうして僕はこんなにも苛立っているんだ…?何が気に食わないのか、自分でもわからない)


「今日は衝撃的な日だった…。先輩の絵、モデルになるって約束しちゃったし、美術部に入るつもりだけど、風維さんと一緒に帰れなくなってしまうかもしれない。でも、確かめたい先輩の絵の何に惹かれたのか。はっきりさせれば、この罪悪感も消えるよね…。」

(そうと決まれば、明日入部届を出さなきゃ。)

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