第2話
ふわふわとした気持ちのまま、オリエンテーションは終了し、放課後がやってきた。
「ちょっと!あんた風維はどこよ。」
横柄な態度で私に声をかけてくるのは、姉の綾波 真友理(あやなみ まゆり)だ。
姉といっても私達は母親が違う。姉は愛人の子供だけれど、私の母と父が結婚する前から関係していて、母が亡くなってすぐに再婚した。つまり、父にとっても愛娘は真友理だ。
真友理もそれがわかっているから、私に彼のような婚約者がいることが許せないのだ。
彼女は私のことが嫌いだけど、私は真友理のことは嫌いじゃない。
彼女は両親に溺愛されていることもあり、自由に思ったまま行動している。
私にはそんなことできないから羨ましい。
「風維さんなら、コンクールの準備のために既にお帰りになりました。」
「はあ?せっかく風維と帰ろうと思ったのに!あんたも気を利かせて、朝も声をかけるとかしなさいよ。本当に使えないわね。」
ブツブツと悪態をついて、さっと身を翻してさっていく。私とは違う焦げ茶色の癖っ毛に垂れ目の真友理、父の愛した女性によく似た子供。
「私とは違う愛されている子…。」
「ねぇ、モデルになってくれない?」
思わず振り返った私の目に映ったのは、蜂蜜色のふんわりとウェーブのかかった髪に、同じ蜂蜜色の瞳を持つ日本人離れした美しい青年だった。
(風維さんとは違う。同じくらい綺麗だけど陽だまりみたいな人…。)
「あー、突然で驚かせちゃったかな?物憂げな表情が綺麗だったから。それじゃあ、だめかな?」
困ったように首を傾げ、こちらを伺っている。
圧倒的な存在感に思わず、答えてしまっていた。
「私でよければ…。」
「ありがとう!僕は朝切 和也(あさぎり かずや)2年生だよ。」
これが朝切先輩との出会いだった。
「急に声をかけちゃったから、断られるかもと思っていたけど、君が優しい子でよかったよ。本当にありがとう。次のコンクールは初めて人物画を描きたかったんだけど、なかなかイメージに合う人がいなくてね。君しかいないと思ったんだ。」
「朝切先輩は絵画を描いているのですか?」
「うん、画家として活動しているんだ。ここが僕のアトリエだよ。」
聞いたことがある。この学園では高い才能を持つ生徒には専用の部屋が用意されると。
(風維さんと同じ、学園に認められている人…。一体どんな絵を描いているの?)
先輩が扉を開けた瞬間、私の目に飛び込んできたのは一枚の風景画だった。
月並みな言葉だけれど、私の今までの絵画への印象を覆してしまうような心を奪うほどの美しい絵画がそこにはあった。
「すごい…。朝切先輩が書かれたんですよね。」
「うん、ここにある絵画は全部そうだよ。」
「他の作品も見せていただけないでしょうか。」
「もちろん。自由にみてもらって構わないよ。」
時間が経つことも忘れて、夢中で先輩の絵画を見ていた。
(こんなに感動するなんて…。私は先輩の作品にどうしようもなく惹かれてる。風維さんの作品も素晴らしいものなのに、どうして先輩の作品に惹かれてしまうの?)
人の心なんてどうしようもない、そんなことはわかっているはずなのに彼ではなく先輩の作品に惹かれている自分が、まるで彼を裏切っているような気持ちになり、私は言いようのない罪悪感を感じていた。
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