卑怯な私の恋
白宮 つき
第1話
好きな人と結婚できる権利なんて…。誰かに恋焦がれる人ならみんなが欲しいと思う、まさにシンデレラになるためのパスポートだ。
でも、本物のシンデレラは愛されていなくてはいけない。私は…。
(私は愛されているわけじゃない)
私は綾波 麗葉(あやなみ れいは)今日から都内の進学校、新城学園に通う高校1年生だ。新城学園は学問と芸術に力を注ぎ、学生の身でありながら画家や華道家などそれぞれの分野で活躍する生徒が多くいる。
芸術家の卵でもない私がこの学園に通うのにはもちろん訳がある。
「おはようございます。麗葉さん、15分後に出られそうですか?」
切長の目に周囲に冷たさを与えるほどの美貌。表情を変えることなく、さらりとした黒髪を耳にかける美青年。
琴織 風維(ことおり ふうい)私と同じ高校1年生の幼馴染。彼は華道家として活動もしている私の婚約者だ。
「おはようございます。風維さん。鞄を取りに行くだけですから、すぐに出られます。」
彼を待たせないよう足早に玄関に向かう私に彼は穏やかに声をかける。
「時間は十分にあります。天気もいいですしゆっくり歩いて行きましょう。」
表情が変わらない分、気遣わしげな優しい声にとくんと心臓が跳ねる。
私が婚約者だから、幼馴染だから他の人よりも優しく扱われているとはわかっている。
でも、好きな人に特別扱いをされるとやはり期待してしまうのだ。
そんな気持ちを押し殺し、一呼吸置いてから声をかける。
「ありがとうございます。お天気も良くてよかったです。」
微かに彼の口元に笑みが浮かぶ。
また私だけがどきどきしている。慣れた人の前でだけみせる彼の笑顔が好きだ。少し雰囲気が柔らかくなるから。この瞬間だけは、彼と私だけの世界になる気がするから…
「ねえ、あの2人見て!すごく綺麗…」
「知らないの?綾波 麗葉さんよ。艶やかな黒髪に雪みたいな白い肌…。まさに大和撫子!中学ではファンクラブだってあったんだから!そして隣にいらっしゃるのが、氷の貴公子!琴織 風維様よ!全く表情が変わらないんだけど、クールなところがいいのよね…。華道家としても有名で気品あふれる優雅な作風がより貴公子って感じ!」
「素敵…!付き合っているのかしら?あんなにお似合いだし。」
「婚約者って噂よ!」
(みんながこっちを見ている。風維さんの話で盛り上がっているのね、こんなに素敵な方だもの。)
「麗葉さん、僕は放課後にコンクールの準備があるので、今日は送れません。せっかくなので、部活動など気になるところがあれば見てみてはいかがですか?」
放課後に私を1人にしてしまうのが気掛かりなのだろうか。コンクールの準備なら仕方がないのに。
「実は私も高校では部活を始めてみたいと思っていました。今日は見て回ってみます。」
「あまり遅くならないよう、気をつけてくださいね。」
「はい、ありがとうございます。」
彼の気遣いに思わず頰が緩みそうになってしまう、浮かれているふわふわとした気持ちで登校初日は始まった。
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