第153話 帰還と決意
ネムレリアとミステリオの両軍、各100名らは、夢斗達と共に〈深淵なる迷宮〉のゲートのある山間の座標に集まっていた。
メルフィーとボゾオンの両国の最初の友好の証として、夢斗達を送り出すことにしたのだった。
再会した夢斗達一向は、各々別れを惜しみながら、わちゃわちゃと交流していた。
夢斗はエルフ軍の一同と握手を交わす。
レグナスやゴルゴルムらとは全開の握力で握った。
『千人将……。あなたは若かったが智と力があった』
『次に会ったら俺が勝つからな!』
「楽しみにしているよ」
戦士達と握手を交わしたのは、夢斗と氷川だった。
過ごした時間は短いが戦場を共にした仲間だ。感慨があった。
『氷川サン! あんたはロリコンの星ダ!』
『犯罪ダケは、やらないように。お互い紳士デいましょう!』
「当然だ。紳士の加護を祈る!」
やがて氷川はもみ教授をみつけ、お姫様だっこをする。
「うわっ、何をする氷川!」
「教授。もう離しませんよ。ロリコンに恥じぬよう、最後までお守りします」
「私のことはどうでもいい。今はあの巨人を夢斗君が操縦していたのが気になるんだよ」
「私もいずれは、巨大化します。ぜひ私を研究して欲しいものです」
「うん。君はいつも絶妙に気持ち悪いね」
「光栄です」
PPが氷川に「ロリコン!」と蹴りを入れていた。
だが氷川より重症なのはロココのようだ。
「夢斗さん、夢斗さん……」
夢斗の背中には、ロココがひっついてきていた。
真菜が解説をくれる。
「夢斗君が消えてから、ロコちゃんはずっと冷静だったんだ。でも全部が終わったら安心しちゃって気持ちが溢れちゃったみたい」
「夢斗さん、夢斗しゃん~」
ロココは背中に顔をおしつけてぐりぐりとしていた。
「動じないっていってたのにな」
「実はね。夢斗君がいなくなって一番折れてたのは私なんだ。ロコちゃんには助けて貰ってたのは私なんだよ」
「真菜……」
「だから今は、ロコちゃんを甘えさせてあげよう」
夢斗はロココを背負いながら、奇妙な気持ちになってくる。
いままではロココのことは相棒としか思っていなかった。
だが同じ姿のネムレリアと恋めいた時間を過ごしたためか……。
(俺はロココのことも……。いや、ダメだ。こんなこと。こいつはずっと相棒だったのに……)
ふとロココが耳元で囁く。
「夢斗さん。上限値解放の履歴を調べましたよ」
「う!」
「ふむ。【すけこまし上限値解放】に【ヤリチン上限値解放】ですか。これをダシに真菜さんに言いつければ、私の月のお小遣いはもっとあがりそうですね」
「感動の再会の後に、お小遣いの話はするなよ! つうか働けよ!」
「ロココォーン」
「なにそれ」
「泣き声をあげたら許してくれるかなって」
いつもどおりのロココだ。
うん。やっぱり駄目だこいつ。
ロココを背中に張り付けていると、ネムレリアが夢斗の元にやってくる。
「あ、私と同じ顔の姫!」
「話には聞いている。パクったのは君だろ。不届きものめ。そこをどけ!」
「ロココォーン」
ネムレリアはロココを夢斗から引き剥がし、真菜に預けた。
「ったく。なんだこの無様な生き物は。私とは似ても似つかん。別れの邪魔だ。ぺっ」
「ひぐっ! わ、私とは似ても似つかない凶暴な……。なんて姫です!」
「ぎろり」
「ひえぇ、真菜さぁん……」
ロココは真菜の背後に隠れる。
ネムレリアは「軟弱な」と鼻を鳴らした。
「さて夢斗よ。見送りはここまでだ。何か言い残すことはないか?」
ネムレリアは名残惜しそうな眼をしていた。
夢斗はそんな彼女に握手を求める。
「あんたとは色々あった。俺の噐が小さかったから応えられなかったこともある一緒に寝なかったことなど。それだけが心残りだ」
「自分の弱さと非を認められるだけでも、十分大きな噐だ。だが、まだまだ育つだろう」
ネムレリアは真菜とパルパネオスを一瞥して、夢斗の耳元で囁く。
「貴殿はいつか……。【十三の異世界の戦争を調停する】と言っていたな」
「あまりに夢物語だとわかっている」
「実現できたならば、妾の元に来るがいい。……待っている」
「ネムレリア……」
「第三夫人でも構わん。多元異世界系の皇帝となるならば、第三夫人でも十分頂点だからな」
「なんだよ。多元異世界系の皇帝って。姫様って、おもしろい奴だったんだな」
「もう行け!」
背中からは『元気でな』『達者でな』『ありがとう~』と声が聞こえてくる。
一向は深淵の新緑迷宮へ至る山間で、帰りのゲートへと足を踏み入れる。
夢斗と真菜、ロココとPP。
氷川ともみ教授。
パルパネオスとマルファビス。
yoppiこと春日部芳乃とプロデューサーD達……。
バラバラだったはずの勢力が、団結し森羅世界から科学世界へ至る迷宮へと戻っていった。
宇宙空間を飛翔する竜〈クォ・ヴァディス〉の内部には、異世界探査船の居住区が広がっている。
森羅世界で知り合った人々を招いた、宴を開催することにした。
牧場エリアには冥淵獣が住まい、家畜も歩いている。
天候装置で雨は降るので畑でも自然の野菜が育っている。
各々温泉に入ったり、鍋を作ったりしながら寛ぎの時間を過ごした。
宴の後。数時間後。
夢斗と真菜は〈旅館区画〉で、浴衣姿でふたりきりになっている。
「まさかクォ・ヴァディス内部に旅館区画なんてものがあるなんてな」
「旅館の謎スペースも完全再現しているよね」
謎スペースとは旅館にある〈窓を見渡せる和風椅子のある空間〉である。
浴衣でふたりきりになり、外の景色を眺めた。
窓の外には滝が流れている。クォ・ヴァディス内部の自然体系なのだろう。
「宴会、楽しかったね。いい話も聞けたし」
「まさかもみ教授のツテで特例推薦入学できるとはな」
迷宮探索業で忘れがちになるが、ふたりは予備校生だった。
「私たち勉強する暇なんかなかったから。正直、受験は諦めかけてたよね」
「特例推薦っていっても。もみ教授に直接しごかれるけどな」
実際夢斗と真菜は、成績が芳しくなかった。
このまま大学受験は諦めて迷宮探索で生きた方が良いとさえ思えていた。
だが迷宮探索を仕事にするのは、命がいくつあっても足りない。
真菜は、このあたりが潮時だと考えていた。
「夢斗君はさ。おじいさん……。文治郎さんに影響されて〈十三の異世界の調停〉をしたいっって言ってたよね」
「あのときは自分に役割があることが嬉しかったんだ。何にもなかった俺が壮大なことに関われるんだって……」
「でも私を選んだよね」
真菜の眼は潤んでいた。
「ああ。俺は君を選んだ。学生結婚だって堂々としてやる」
「覚悟が決まってるならよろしい。〈上限値解放〉まで使って、愛してくれたんだから……。異世界まで行って取り返した甲斐があったよ」
「俺を追ってくれた女の子を好きにならないわけがないからな」
「じゃあパルパちゃんは?」
真菜の眼がいじわるに細められる。
「あいつは機巧世界での人生がある。それに……。奈落デスゲームだっていつ作動するかわかんないからな」
夢斗は左腕に沈んだ〈奈落の腕輪〉をみた。最近はなりを潜めているが、冥種族のしかけた〈奈落デスゲーム〉には登録されたままだ。
「俺は【君を選んだ】。異世界にだって十分影響を与えた。だからもう、異世界迷宮の諸々に巻き込まれるのはごめんだ。自分の手が届く範囲で守るべきものを守るだけで精一杯なんだ」
真菜を選んだことで夢斗の中には、スイッチが入っていた。
それはパパになることへのスイッチだった。
異世界のことも迷宮のことも、以前ほど勝ちたいと思えなくなっていた。
もう十分に、世界を圧倒し凌駕してきた。
実際、力も持っている。
重要なことはもっと他にある。
家族をつくるんだ。
何もなかった自分に、家族が……。
「ありがと。私も嬉しいよ」
「楽しかった冒険は終わりだ。ネムレリアには色々言われたが……。【大きなものを動かすってのは】しばらくはもういい。俺にとって君は、世界よりも大事だからな」
真菜が夢斗の肩に頭を乗せる。
「じゃあ次に夢斗君が異世界に乗り出すとしたら?」
「愛する人に何かがあったときだな」
夢斗は現実的な考えを知っている。
すでに世界は救ってしまった。
ならば、もう多くは望まない。
想いも成就した。
人生の上限値は解放された。
だから平凡な幸せを願おう。
圧倒的な力は盤石な力に変えて、幸せを守っていこう。
このとき夢斗は、平凡な幸せに手が届くと想っていた。
だが数多の〈上限値を解放した〉積み重ねは、運命にまで影響を与えていることに気づかなかった。
もはや平凡では居られない。
自転車が加速を得なければ倒れてしまうように。
速度を失った飛行機が墜落するように。
彼の運命もまたすでに【加速の中でしか成立しえない】ものとなっていたのだ。
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スペース
第三部、終了です! エクストラでえちえち上限値解放を、R18にならないように置いておこうと思います。
ネムレリア→パルパ→真菜さんの順番で、救っていった女の子とのエピソードになります。
また四部は機巧世界が部隊でパルパメインの話になります。三部では難しい話をしすぎたので、反省しつつ、四部では爆発メインでやりたいと思います(ロボもでたことだし笑)。
【異世界迷宮で俺だけリミットオーバー(上限値解放)】な件。~【リミットオーバー・ダイヤモンドハート】~ リミットオーバー≒サン @moriou_preclay
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