ケンタウルスとエレベーターで一緒になった話

チュウビー

ケンタウルスとエレベーターで一緒になった話

 仕事終わりの帰り路、いつものようにエレベーターに乗った。すると途中の階で止まり扉が開いた。


そこには……。


イケメンが立っていた。確かにイケメンだ……。


上半身は……。


 だが下半身が明らかにおかしい。

まるで競争馬のごとく鍛え上げられた4本脚だったからだ。


 俗に言う「ケンタウルス」というやつだろう。

 そのイケメンケンタウルスがエレベーターに乗ってきた。

 入ってくるや否や、いきなりとんでもない事を言い出した。


「兄ちゃん。財布落とした。」

(いきなり何を言い出す……。)

 唐突な発言に対する正直な感想だ。

「彼女のとこへ行きたい!」

見た目に反して拙い発言に驚きながらも、

「行けばいいでしょ?」

と至極当然の事を言う。

「お金がない……。財布落とした。」

(対面して数秒でどんなやり取りなんだよ……)

 そう思いながらも、何かと入り用なのだろう……。そう思い、

「いくら要るの?」

と聞く。


「1000円!」

(えらい高いな……)

「彼女待ってんだ!」

(それなら来て貰えよ……。)

「彼女に来てもらえばいいじゃん!? 電話貸すから。」

(これで納得するだろう……。)

だが、その期待は見事に裏切られる。

「わからん。」

「わからんって…どういうことよ?だったら警察に行きなよ。」

「わからん。」

(流石に警察はわかるだろ……。)

「1000円!1000円!」

 まるで子供のように駄々をこねる。

 俺は神経質だ。

 ここで金を渡さなかったら、こいつは警察にお世話になるかも知れない……。そう思うと枕を高くして寝れんほどに……だ。

 だが、電車で終点まで乗っても500円で行ける事を知っている俺はこう告げる。

「終点まで500円で行けるから。はい、500円。」

とさらりと渡す。しかし……。

「ダメだ。1000円。」

当然のように拒否された。

「500円あったら行けるって!」

何回も行き来してる俺が言うのだ。間違いない。

「タクシー乗るんだ!」

(その脚で走らないでタクシー乗るとか言い出すなよ……。)

「どこまでタクシー乗るの?」

(タクシーとなればどこまで行く流石に気になるからな……。)

「わからない。」

(わからないって……!)

流石に予想できる答えではなかった。

「わからない所までタクシー乗るな!だから彼女と会えないんだよ!」

誰が聞いてもそう言うだろう。

 何を言っても無駄に思えてきてついに折れてしまった。

「わかった。1000円だな。」

 ため息をつきそうな感じてそう言いながら、仕方なく渡す。

「ありがとう。今度礼言いに行くから家教えて!」

(絶対教えんよ……。)


 間もなく扉が開き、イケメンケンタウルスが出て、後に続くようにエレベーターを出た。

 そして、別れてからすぐに自販機から商品が出てくる音が後ろから聞こえた。

 振り返ると、イケメンケンタウルスがタバコを自販機から取り出しているではないか。


 驚いた俺はすぐさま、

「おっさん!おっさん!何買ってんだよ!タクシー乗るんじゃないのか!?」

 明らかにおっさんという見た目ではないが、あまりの無礼さについ、おっさんと叫んだ。

 するとイケメンケンタウルスはにこやかに言い放つ。

「ご褒美。」

「何のだよ!?」

とツッコんだが無視して煙を吹かし、傍にあるタクシー乗り場とは明らかに違う方向へ勢いよく走り去っていった。


「せめて釣りは返せえぇぇー!!!」

 その声はイケメンケンタウルスに届くことなく、虚しく木霊した。

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ケンタウルスとエレベーターで一緒になった話 チュウビー @Tuebee

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