エピローグ
「とんでもないことをしてくれたな」
後日、ボロボロの事務所にやってきた星尾は忌々しそうに俺を睨みつけた。
「なんだよ。事件は解決してやっただろ」
その後の警察の確認作業によって、昴が犯人であることが確認された。
「この街のシステムを悪用するなよ」
「悪用? お前らは殺人を防ぐための情報を持っていながら、利益を重視していただけだろ」
星尾は一瞬だけ顔をしかめた。すぐに表情を強張らせて、俺に顔を近づけた。
「俺たちが人命を軽視してるとでも言いたいのか?」
「違うのか?」
「この街の捜査支援システムはAIによって運用されている。それが今の捜査体制を確立してるんだよ。頻発する事件の検挙率が今の状況で落ち着けられているのも、この街のシステムの賜物なんだよ。探偵のなり損ないが、1件事件を解決したくらいででかい口を叩くんじゃない」
星尾はそう言って手にしていた大きな埠頭をテーブルの上に叩きつけて事務所を出て行った。
「比嘉探偵をぶっ殺しそうな剣幕でしたね」
アルは苦笑いで星尾が出て行ったドアを見つめた。
「フン、金に目が眩んだ連中の腐った論理に過ぎない」
封筒に手を伸ばす。表面には「探偵評価表」と記されている。
「お、そこに事件解決のスコアが書かれているはずですよ」
ワクワクしたような顔のあるを尻目に、ゆっくりと封筒の中の書類を引き抜く。
【解決スコア★☆☆☆☆】
誤った推理の披露、≪タイムマシン≫の使用、短時間での事件解決がなされなかったことが解決スコアに影響しました。
次回からは手掛かりやヒントを積極的に手に入れて、事件の早期解決に努めましょう。
ビリビリに破り散らしたい書類の前にポップアップが現れる。
【解決ボーナスとして名声を300入手】
【探偵レベルが5になった!】
「おお、おめでとうございます!」
「なにがめでてーんだよ」
アルがどこから持って来たのか、小さな箱を手にしていた。
「事件解決のボーナスとして、支援物資が届いてましたよ」
俺だって、昔はクリスマスにはサンタを楽しみにしていた子どもだったんだ。少しだけ期待感を込めて開けた箱の中には見慣れた茶色い瓶が3つ入っていた。
「≪コカイン≫じゃねーか! 要らねーんだよ!」
「馬車馬のように働けってメッセージですかね」
「あーっ! 腹立つ!」
近くにあった椅子を蹴り飛ばす俺に、アルが不思議そうな目を向けた。
「そんなイライラするのになんでこの街で探偵なんかやってるんですか? 『つまらない』って言いながらテレビ観てるTwitter民ですか?」
「うるせー! 別に理由なんかどうでもいいだろ」
「でも、私もこれから比嘉探偵の助手としてご一緒するわけなんで、知ってはおきたいんですよ」
純粋な好奇心を湛えるその瞳に、俺の記憶が疼く。アルと目が合わないように窓辺からこの狂った街を眺めた。
「俺には兄貴がいるんだよ」
「へえ、初耳です。社会性をお兄さんに取られちゃったんですか?」
「てめー、ふざけんなよ!」
「そのお兄さんがどうしたんですか?」
「兄貴は優秀な探偵だった。この街で姿を消したんだよ」
窓の外の街はいつもと変わらない。
課金しないと迷宮入り確実な世界で無課金探偵の俺は ver.6.7.2 山野エル @shunt13
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