第5話 もう一つの蓋

 あれからどれぐらいの時間がたったのだろうか。康介は、直美の叫び声を覚えているがその後の記憶がない。


 ゆっくり目を覚まし、辺りを見渡した。真っ白な壁とベットの上。足の包帯を見て、病院だと言うことに気が付いた。


「目を覚ましたか?」


 隣には酷い顔色を残して座っている直美と真斗だった。


「康介さん、丸2日ぐらい寝ていました」

「そうか……晴馬は?」


 寝ながら質問をすると、「死んだ」と直美は言った。


「私達の目の前で飛び降りてね。まっ、容疑者死亡って形で事件は幕を閉じたけどさ」


 直美は半笑いで頭を振った。


「なぁ、俺」

「あぁ、安心しろ。お前はただ単に足を少し切られていたのと、骨にヒビが入ったぐらいだ」

「えっ。でもあいつ、俺の指先を切ってゆっくりと大量出血死にさせようと」


 康介が言いかけると、直美は「思い込まされていたんだよ」と言った。


 直美の言葉に「えっ」と言うと、ため息を吐いて説明してくれた。


「ノーシーボ効果って知ってるか?」

「……知らない。なんだそれ」

「簡単に言うと催眠的な物だよ。昔ある人達が実験をした例だ。目隠しをさせて、足をほんのちょっと切って、血が沢山出ることを言いかけ続けながら傷口に水を流すんだ。人間は少しの傷ぐらいで死なないことは分かるだろ?」

「あぁ、絆創膏を貼れば済む話だけど」

「そうだ。だが、その実験にされた人物は本当にたったそれだけの傷で死んだ」


 直美の言葉に康介は驚いた。


「なっ、なんで」

「目を隠された状況、何をされているかわからない。だから相手はやられていることをそのまんまやられていると思っちまうし、相手の言葉でパニクっちまうんだよ。それにほら、証拠に写真も撮ったから見ろ」


 直美はポケットから2枚の写真を机の上に乗せた。手に取り見てみると、確かに桶にはただ無透明な水しか入っていなかった。


「言っとくが、このノーシーボー効果は異常なほど危険なんだ。お前がやられた通りに目の前が真っ暗の中、どんなことが行なわれているかがわからない中、ある時は相手の言葉に寄って恐怖が沸く。そして幻聴まで聞こえてくるらしいからな」


 直美の言葉に康介は晴馬にされたことを思い出した。


 あの時、晴馬の言葉で心底死にたくないと感じた。死ねば、あいつらは険しい目つきで来世まで恨み事を聞かされるなんて本当の地獄よりはごめんだ。


「あっ、それとさ」

「ん?」

「直美、どうやって俺の居場所がわかったんだ? 晴馬のことなら俺の携帯だって壊しているはずだけど」

「あぁ、それなんだが、匿名の電話が入ったんだ」

「匿名?」


 康介がもう一度言うと、直美は頷いた。


「あぁ。男性の声で、廃墟に不審な車があります。の後にお前の車の番号を言ったから、すぐにそこに向かったんだ。まっ、その通報してくれた肝心の人は見つけられなかったがな。声が少しこもっててわからないからね」


 直美は説明し終えると、深いため息を付いた。


「そうか……あっ! 冬真は。あの子はどうなった! あいつは目を覚ましたか?」


 3日前に晴馬に殴られ、意識不明だった冬真を思い出した康介は直美に必死に言った。


 そこで真斗が説明をした。


「あの子は、あんたより先に2日前に目を覚ましました」


 真斗の言葉に康介は安堵の息をはいた。


「けれど、あんな酷いことをされたせいで、いつ話すかは分かりませんが、今は何も話さないでただぼーとしているだけだそうです」


 真斗が苦い顔をしながら説明した。康介はその説明に少しの絶望と安堵が混ざった感情が浮かんだ。あの衝撃のせいでまだ小学校を1年もまだ通っていない冬真は今はただ喋られなくなってしまった。


「それからなんだけど」


 直美はポケットの中から折りたたんだ紙を渡した。


 広げてみると、緑色の紙。横には離婚届書かれていた。


「百合さんにお前がして来たことを全て言ったよ。そしたら、一旦家に帰って病院に来たらこれさ。まっ、自分達の大切な息子が殺されかけ、おまけにはトラウマでしばらくの間は喋られなくなってしまった。当然の結果よね」


 直美の言葉に康介は涙が再び滲んできた。自分の過去の行動のせいで大事な息子に一生消えない傷、いつ喋り出すかわからないのを与えてしまった。


「あなたは今後この先、彼女、いや妻というものを作らない方がいい。どうせ自分がしてきたことなんて話さないでしょうけれど」


 真斗は厳しい視線を送った。


「それと長い伝言だ。慰謝料や養育費などは一切要りません。ですが月額の治療費はだけはいただきます。冬真が早くにも言葉を直せるようにしたいからです。そして、二度と私達の目の前に現れないでください。あなたがそんな人だとは思いもしませんでした。そんなことをしなければ、犯人は冬真に危害などは加えなかったはずです。過去のことを背負いながら生きてください。ってさ。良いかな?」

「……あぁ、これは今度書いて出す」


 康介は離婚届の手紙を優しく折りたたんだ。


 その後、医者には今日で退院が出来ると話をされ、直美が家まで送ると言ってくれた。送ってくれる最中のことはあまり覚えていない。ただ感じるのは足の痛みだけだった。


 家に付き、荷物などを直美は家の中に入れてくれた。


 直美は車の中に戻り、窓を開けた。


「今日まで、色々ありがと」


 康介は直美に向かって言った。


「あぁ、でもお前と会うのは、これで最後が嬉しいな。何だって、アンタがしてきたことのせいで、犯人が死ぬまで復讐心しか残っていなかったからな」

「えぇ。僕もです。僕も、あなたのような人とは会いたくもありません」


 直美と真斗はそう言うと、車を走らせてその場を去った。


 康介は慣れない杖で歩きながら家の中に入った。


 入るとしんみりと静けさが伝わってくる。笑顔で出迎えてくれるはずの百合と冬真の姿を見ることは一生見ることが出来ないだろう。これが虐めをした人間の末路かと心の中で思った。


 テーブルの上に離婚届を置き、ソファに座った。


 これからどうしようか。この件を知ったら親は何て言うのだろう。そんなことを考えながらしばらく呆然としていると、インターホンがなる音が聞こえた。


「ん? 誰だ」


 康介は立ち上がり、よろよろしながら扉を開けた。


「あっ。先輩」


 目の前には聡が何かが入ったビニール袋と何処かに出かけていたのかキャリアケースを持ったまま立っていた。


「おぉ、聡。どうしたんだよ。それに、そのキャリアケース」

「実は遠い親戚が死んでしまって、この前行ってきたんです。日通り終わってから帰っている時に部長から康介さんが病院に運ばれたことを聞いて、それで帰りの最中に百合さんが退院されたことを」

「あぁ、聞いたのか」


 康介はそう言うと聡は頷いた。


 康介は聡を家に上げた。


「すまん、今足が」

「いえ、良いんですよ。先輩はソファの上に座ってください」


 聡は康介にリビングに招き入れながら言った。


 静かになったリビング、静けさだけが残っているのを見て聡は康介に聞いた。


「百合さん、出ていったんすね」

「……あぁ、今頃は実家に戻っているよ」


 康介はソファに座って言った。聡は話題を変えるようにして、笑みを浮かばせた。


「俺飲み物作りますよ。先輩はコーヒーで良いですよね」

「ありがと、あとなんだが」

「まだ会社には伝わっていませんんよ。でも、こんだけのことが起こったんですから何日かしたらバレそうですし、会社止めた方がいいっすね」


 聡の言葉に「そうだな」と言った。


「それよりも先輩が虐めとはね」

「聞いたのか?」

「あー、病院のことのついでに百合さんから聞いたんですよ。先輩の昔したことをね」

「ショック受けただろ。過去の俺に」


 康介は半笑いに言った。


「まぁ少しだけ。まぁこれで虐めがどんだけ悪いことなのかが分かったんじゃないですか?」


 聡の言葉に康介は頷いた。



「でも、まだ疑問があるじゃないですか?」


 聡の言葉に康介は振り返った。


「だって、犯人の晴馬はそれぞれ働いている会社とかを何処で知ったんですかね? あと、BAR相手だってわかっていないでしょ」


 聡の最初の言葉に晴馬は同感をした。


 確かに晴馬がどうやって自分達の働いている会社、そして電話をしていた相手が未解決のままだった。樹の嫌いな虫だってそう簡単に聞き出すことなんて出来ないはずだ。


 そして、電話相手だ。晴馬は一体誰に電話をしていたのだろうか。


 康介はこめかみに指を置いた。


(……待てよ。今なんで、聡は晴馬がBARで話していることを知っているんだ? 本来だったらわからないはずだ)


 康介は聡の言った言葉に、首を傾げながら考えた。


「本当にひどいですよね」


 聡がコーヒーをコップの中に注ぐ音が聞こえた。


「……なぁ、聡」

「はい」

「……お前、なんで晴馬がBARで誰かと電話をしていることを知って」


 康介が言いかけると、聡は側にあった包丁で太股を刺した。


「うがぁ!」


 あまりの痛みに康介はソファからずり落ちた。


「さっ、聡。お前、なんで」


 康介は聡を見上げ、顔を見た。


「なんで俺が警察だけしか知らないことを知っているって?」


 聡は真顔で言うと、小さく微笑んで言った。


「……俺ですよ。晴馬さんに会社、そしてあなたの家の鍵に電話番号とあなたの家族や友人クズの嫌いな虫を伝えたの」


 微笑みを崩さない聡と衝撃の事実に康介は絶句した。そして、今の言葉で全ての辻褄が合わさった。


「じゃあ、あいつが働いている時に裏で連絡をしていた相手って、お前だったのか?」


 息を荒くして言うと、聡は笑顔で答えた。


「はい、康介がどんな事をしているかも全て伝えていたのは俺です。だから今まで学校、会社が同じだったんです。BARの話はきっと警察の方から聞いたんでしょ。何回も呼ばれているから」


 聡の言葉に、康介は頷いた。


「そうですか」

「どうして、どうしてお前があいつと」


 康介は太股を押さえながら言うと、聡は「どうして?」と同じく言った。


「康介さ、中学生時代のことを覚えていないんですか? 一度、百合さんじゃない女性と付き合ったじゃないですか?」


 聡の言葉に中学生時代の記憶が再び蘇った。確かに中学生時代、1人だけ付き合った女性がいた。


 名前は林杏。黒髪でウェーブのかかった髪型をした女の子だった。


「あぁ、でもお前になんの関係が」

「俺の姉さんです」


 聡の言葉に唖然とした。


「姉? でも、お前の苗字は」

「佐藤。これはただ親が離婚したんですよ。母親は姉の死に精神が病んでしまい、おまけに自殺までするようになって、父親はそんな母親の側に居させたら何かあるんじゃないかと思って、俺を引き取って離婚をし、苗字を変えました。でも、時々はお見舞いをしていたんですけど、母親は病院で手首を切って自殺をしました。本当に、あの時は地獄だった」


 聡は血塗られたナイフを見ながら言った。


「話を戻すけどあんたさ。俺の姉さんを襲ったんでしょ。それも無理矢理で」


 聡は一歩ずつ康介に近寄ってきた。


「お陰で、お前のせいで姉さんは子供を授かってしまった。そして」


 聡は包丁を床に刺した。


「アンタはその責任を逃れる為に姉さんを捨てた。それのせいで姉さんはどうなったか、この話を聞けばお前にだって分かるはずだ」


 聡は憎しみの眼差しを向けながら康介に言った。


 聡の話しの通り、丁度その時親がいなかったため、自分の部屋に招いたあと、思春期というものがあったせいか、それとも彼女だからという考えがあったせいかその時は何も考えずに強引にした。


 気よつけようとしたが中にしてしい、その1ヶ月後に妊娠をしたと報告をされた。その時は受験の前だったために堕ろせと言い聞かせて、メールを目の前で消したり、色んなことで脅して無理やり別れた。


 別れたあと、杏の連絡先を消し、写真などは全て燃やしたのだった。


 数日後に、杏が自殺をしたと聞かされた時は心臓の音が鳴り止まなかった。それを忘れる為に勉強に没頭をして、記憶の中から杏の存在を消した。


「あっ、あぁ、わかるよ。わかる、けど怖かったんだ。あの年での妊娠、それから、俺がしていたことに家族に勘当されるのが」

「はぁ? そんなわけないだろ。本当は楽しくして生きたい。責任なんて取りたくないから別れたんだろ! 姉さんは、死ぬ前に俺宛てに手紙を残してくれたんだよ。強引にヤられた挙句に目の前で証拠を消され、別れさせられたって」


 聡の握っている拳が震えているのが分かる。


「でも、聡、お前いつから晴馬と」

「あんたをどうしようかと必死に考えながら屋上に付いたときに晴馬さんと出会ったんだ。そこでお互いに協力をしながら生きていたんだ。あんた、疑問に思えなかったんすか。大学や会社が同じな意味。まっ、それほど馬鹿って言う事はこのことで分かったんすけどね」


 聡は包丁を握りしめた。


「それに現に言わなかったじゃないですか。一緒に食事している時」

「は?」

「何かしたんすかって言ったとき、アンタは何もやっていないってね。それが、虐めた野郎クズ共の本性です」


 そう言うと聡は包丁を振り下げた。


 康介は目の前が暗闇になるまで、虐めたこと、そして自分の記憶に閉ざした中学の頃の自分に後悔し続けていたのだった。



 直美と真斗は自動販売機で買った飲み物を飲んでいた。


「ふぅ、どうだ真斗。初めてのこの、残虐な事件は」


 直美は左にいる真斗に今回の事件に関する質問をした。


「胸糞悪かったですよ。やっぱり、人って環境とかで変わってしまうんですね。あんなふうに」

「あぁ。でも、環境だけではなく、元々そうゆう奴もいる。人間っていうのは、中には醜いもんもいるっていうことを覚えとけ」

「はい。むしろ俺、まだあの言葉が頭に残ってますもん。犯人の、晴馬が死ぬ前の言葉」


 真斗は蒼い顔をしながら言った。


 真斗の言う通り、直美の頭にはまだ晴馬が言った言葉が響いている。


 “世界は恨みに満ちている!”


(恨み、か)


 これからも、復讐に満ちている奴を捕まえることに心が痛んでいた。


 様々な恨みの形が世界中に満ちているとしたら、そいつらは隠れて相手を消すかもしれない。


「……恨みは怖いな」


 直美は一言呟くと、思わずポケットに手を入れた。


 固い感触がし、小銭かなと思って取るとそれは百合の指輪だった。離婚届と同時に指輪を渡されていたことを忘れていた。


 このまま持っているのも嫌な気分になり、ポストに入れれば良いだろうと思い入れながら真斗に康介の家に向かうように言った。


 案の定、真斗は嫌な顔を見せた。


「いやですよ俺。あの人の家に行くの。それになんで行かなきゃならないんですか?」


 真斗は聞くと、直美は指輪を見せた。すぐに察し、ため息を漏らした。


「わかりました。だけど俺、あの人には会いたくないので」

「わかってるし、それに会わないから安心しろ。何せ、これをポストに入れるだけなんだからさ」


 直美は言いながらシートベルトを閉め、真斗は車を走らせた。


 家に付こうとすると、家の前に誰かが立っている。よく見ると、それは百合だった。


 車を止めると、百合はこちらに気が付いたのか顔を向けた。


「百合さん」


 直美が声を掛けると百合は姿を見て「あっ、直美さん」と声を出すと軽く頭を下げた。


「どうしたんですか? もぉここには二度と来ないかと」


 直美がそう言うと、百合は神妙な顔を見せながら言った。


「ちょっと家の中に大事なものを忘れてしまって、でも、冬真をあぁゆう風にした同然の人と会いたくないし、どうすればいいかと思いまして」


 百合は暗い表情をしながら直美に言った。


「そうですか。あの、冬真君は」

「冬真ならまぁ相変わらず、何も言いません。きっとあの時の記憶がフラッシュバックをするんでしょう」


 冬真のことを質問すると、百合は顔を曇らせた。直美はすぐに話を変えた。


「そうでしたか。あっ、私が大切な荷物などを取りに行きましょうか? 場所などを言ってくれれば取りに行きますけど」

「それは嬉しいです。でも、自分で取りに行きます。出来たら何ですが、一緒に良いですか?」

「もちろんそれは構いません。あっ、呼び鈴押しますね」


 直美は百合に言いかけながらインターホンを押そうとした。


「押したんですけど、出ないんですよ」

「えっ? そしたらもぉ出ているはずですよ。片方を骨折しただけだし、ゆっくり歩ける程度なんですから」

「確かに、シカとでしょうか?」と真斗

「そうかもしれなね。鍵は?」

「実は、二度とこの家には来ないようにっと思ってこの家の中に置いたんです」


 百合は気まずそうにしながら答えた。


「そうですか」


 直美は扉の前に行き、扉を叩いた。


「おい! 康介。私、直美よ。あんたなに無視して」


 直美はドアノブを回すと、ガチャリと音を立てながら扉が開けられた。


(あれ? 鍵が開いている? 何でだ)


 直美は疑問に満ちながらも、家の中をゆっくり入って行った。


「康介ー。いるだろー」


 直美は声を掛けながらリビングに向かおうとすると、生臭い匂いが鼻に付いた。


(なんだ、この匂い)


 ほぼ毎日のように嗅いでいた匂いがリビングから匂ってきている。おまけに何かがピチャピチャするような音が聞こえてきた。


(まさか!)


 直美はリビングに駆け寄った。


「ッ!」


 直美は目の前の光景に吐き気が込み上げた。


 目の前には無残な死体となった康介がいた。顔には釘を打たれ、左腕は右横にあるバケツの中で何かに食われていた。思わず見てみると、それはピラニア。下半身は粉々、右腕は透明なケースの中に入れられた水に付けられた状態だった。


(なっ、なんで、晴馬はあの時死んだはずだ。なのになんで)


 直美は目の前の光景に呆然としていると。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 百合の声に我を帰った。


「百合さん見るな!」

 

 直美は百合をリビングから離れさせた。横には、真斗が腰を抜かしてその惨状を見ていた。


「おい! 真斗!」


 直美の叫び声に真斗は我に帰って返事をした。


「すぐに警察と救急車を呼べ! それから百合さんを外に」

「はっ、はい」


 真斗はなんとか立ち上がり、百合と一緒に外に出たのだった。


 直美は再び康介に目をやった。


「康介、お前どれだけ恨みを買っていたんだよ」


 直美は大きくため息をつきながら壁に身を任せると、ずるずると座り込んでいった。



 翌日の朝、聡はスーツを整えながら会社に行った。


「聡君。体調の方は大丈夫かね。君はあまり休まなかったから休むことにビックリしたし、心配したよ」


 部長は心配しそうな顔をしながら聡に話した。


「御心配かけてしまって申し訳ありません。部長。でも大丈夫ですよ。元気バリバリで働きます」


 聡はそう言うと、自分のデスクに着き、仕事を再開しようとすると後ろから小さく2人の女子の動機が何やら話していた。


「ねぇ昨日ニュース見た?」

「えぇ、見た見た。あの康介さんが家で死んだんでしょ。それも無様に殺されたんでしょ」

「えぇ。でも自業自得よ。あの人なんて」

「えっ? なんで?」


 一人の女子が疑問に思っていると、隣にいた女子が訳を話した。


「えっ! あんたその後のニュース見ていないの?」

「うん。夜、友達とクラブに行っていたから少しだけしかわからないんだよね。今日も寝坊しそうになったから見なかったし、まぁそんなことはどうでもよくて、何があったの?」

「なんでもその人、犯人のことを中学時代、虐めていたらしいわよ。その他被害者の4人もね。中学生の頃に酷く虐めていたって奥さんがテレビの取材で話したんだって。おまけに、そのせいで子供が被害に遭ったらしいわよー」

「うわっ。ひっど、特に子供悲惨すぎない? 父親が犯した罪のせいで犠牲になるなんて」

「そうねー。今頃深い傷を追っているぐらいだわ。だけど、あぁゆう風に殺されてざまーみろって感じだね」


 女子社員はそう言うと仕事を続けた。


 休憩時間になり、煙草を吸おうと喫煙所に行こうとすると、通りかかった後輩の女性が声を掛けた。


「あれ? 聡さん、なんか顔が晴々していませんか?」

「えっ。そうかな?」

「えぇ、スッキリしたような感じですね」

「ハハハ、そうですかねぇ。病気が治ったからですよ。それじゃ」


 聡は女性に手を振りながら喫煙所に向かった。


 喫煙所に入り、ポケットの中に入れていた煙草を取り出し、一本口に咥えて火を付け、思いっきりに吸い込んだ。


 顔を上に向け、口の中に詰め込んでいる煙を吐いた。聡は後輩が言ったことを思い出した。


 清々しい顔。康介の前では猫被り、健全な男として役を演じていた疲れが取れたのだろうと思った。あのクズと一緒に仕事をしている時はとても窮屈で、憎たらしくて溜まらなかった。姉を殺した挙句に、幸せに暮らしていることに大いに腹だった。


 煙草を咥えたまま、二台のスマホを見た。片方は自分の物で、もう一つは晴馬の物だった。


 前日、晴馬は聡を人気のない場所に呼んできた。


――どうしたの? 何か手伝う事があるの?

――いや、君に渡しておく物があるんだ。


 晴馬はそう言ってスマホを渡した。


――もし警察が調べられたら大変だ。壊して構わない。だから代わりに盗んだスマホであいつをおびき寄せるから安心しろ。あと、計画はわかるよね

――えぇ、最初はあなたに。二番目に俺。

――あぁ、目隠しをするからその時に出てくれ。それで私の合図と共に近くの公衆電話にしなさい。それで大丈夫なはずだ。

――はい。わかりました。それじゃあ。存分に楽しんでくださいね


 あの時匿名で連絡をしたのは聡。場所はすでに指定されており、仕事をいつもより早く終わらせてその場にいた。


 拷問をしている最中に晴馬の合図と共に駆け足で公衆電話で連絡し、そのまま自分の自宅に帰っていった。


 思い返しながら、丁度人がいないことにスマホを地面に起き、足で踏んずけた。バキッと鈍い音が喫煙所に響いた。すぐさまポケットにしまい、自分のスマホを見た。


 着信履歴を開くと晴馬の連絡だけが残されていた。


 そっと、晴馬の連絡先を削除してポケットの中に入れた。すると、同僚の男性が煙草を持ったまま喫煙所の中に入って行った。


「ふぅ、あれ? 聡。お前珍しいな煙草を吸うなんて。どうしたんだよ急に」


 同僚の男性は煙草を取り出して聡に言った。


「ちょっと晴々してるんです」

「えっ。晴々って、お前何か悩んでいるのでもあったのか?」


 聡はどう言い訳をしたら良いかと考えていると同僚は、察したかのように手を叩いて話しだした。


「お前、俺らに隠れて彼女でもいたんだな?」


 意地悪そうにニヤリとしながら言う同僚に、聡も笑顔で答えた。


「はい、いましたよ彼女。でも、とても傲慢でめちゃくちゃイラつく性格だったんですけれど、キッパリと別れたんで気持ちが晴々しくなったんです」


 聡は、同僚の男性に嘘の話しをしながら満面な笑みを見せつけたのだった。


最後まで読んでくれださりありがとうございました!

完全に最後の言葉を書いていなかったため今書かせてもらいました。

こんな高評価になることは思いもしませんでしたし、たくさんの方に見てくださってくれてとても感謝しております。是非とも感想などお待ちしております。

 


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長年の復讐 羊丸 @hitsuji29

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