祖父のチェロ

ツヨシ

第1話

祖父が死んだ。

遺品の整理をしていると、大きなチェロが出てきた。

これにはみんな驚いた。

父も母も祖父がチェロを持っているなんて、全く知らなかったからだ。

祖母なら知っていたのかもしれないが、祖母は二年前に亡くなっている。

「こんなものがあるとは」

「義父さんがチェロを持っていたなんて」

戸惑う父と母。

どうしようかと話になり、捨てるわけにもいかないので我が家に持って帰ることになった。

チェロは大きなクローゼットの一番奥に押し込まれた。


それから数日のこと。

僕はクローゼットの扉が開いていることに気づいた。

――えっ?

さっきまで閉まっていたし、誰も開けてないと言うのに。

僕がクローゼットを見ていると、母も気づいた。

「あらっ」

そしてクローゼットを閉めようとしたが、その手が止まった。

「えっ、なんで?」

奥が深い大型のクローゼット。

その一番奥にチェロをしまい込んだはずなのに、なぜかチェロは入り口のすぐそばにあったのだ。

母はぶつぶつ言いながら、チェロを再び一番奥に押し込んだ。


その数日後、さらに数日後に、全く同じことが起こった。

ひとりでに動く祖父のチェロ。

父も母も気味悪がり、ついにはチェロを祖父の家に返すことになった。

今は誰も住んでいない家に。

その後、祖父の家は解体されて更地になり、駐車場になった。

あのチェロがどうなったのかは、僕は知らない。


       終

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祖父のチェロ ツヨシ @kunkunkonkon

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