第69話 大軍を相手にする恐怖
《反革命軍勢力》と称される部隊は、僕たちが率いる《セネリアル州軍》だけではない。
僕たちと同じ
今、《トルーナ王国》は
そんな中、僕は目の前のローザ将軍率いる《革命軍》の《レナンディ
「ぶっちゃけ、完全に手詰まり状態。正直ヤバイ」
そう言って髪の毛をクシャクシャと搔き回す僕の姿に、エクウスやメイリス将軍たちが不安そうに顔を見合わせる。
何がヤバいのかというと、ローザ将軍の《レナンディ駐留部隊》は、《レナンディ》の街から出撃してきたものの、僕たちの陣から一日半の距離に
「てか、
総指揮官たる者、他の部隊指揮官や兵士たちに不安を与えるような態度は
そんなことはわかっているけど、たまには感情を発散させないと、僕自身がストレスで押しつぶされてしまう。
なので、みんなには事前に断った上で、この場では素直な気持ちを吐き出させてもらっている。
「敵の狙いはわかってるんだー」
それは、相手より圧倒的多数の兵力を集結させて完全有利な状況を作ること。
「そうなったら、小細工なんて要らないんだ。正面からの一撃で押しつぶせるんだからさー」
むしろ、大軍に小手先の戦術なんか必要ない。
逆に軍が大きくなればなるほど、隅々までの意思伝達に時間がかかるし、連携も難しくなる。
だからこそ、数の暴力で一気に攻め寄せてくる可能性が高い。
「迎え撃つこっちとしては、今までみたいにコントロール可能な規模の戦闘を繰り返して、敵兵力を削り取ると同時に、敵兵士の士気を下げていって、敵軍の崩壊を誘うくらいしか手段はないんだよー」
なのに、ローザ軍は命令が徹底されたのか、こちらからの挑発に対しても陣を固く固めて出撃してこようとはしなかった。
見かねたエクウスが声をかけてくる。
「でも、ノクト様には、なにか策があるんでしょう?」
「あるように見える?」
「見えます」
キッパリとエクウスは答える。
信頼に満ちた眼差しを向けられ、僕は、はたと我に返った。
「……実はある」
それは《山の民》族長の息子フォルティスからの提案をもとにした作戦だった。
だが、それは僕たちの陣の後方に広がる森林地帯に敵軍を引きこむ必要がある。
それに、準備完了まであと数日は必要との報告が今朝届いていた。
「なので、今は逆に相手が動かないことが好都合だったりするんだよね。まあ、この様子だと大丈夫そうだから、僕たちも本格的に作戦準備を始めよ──」
その語尾を掻き消すかのように
「敵軍が動き出しました! 一直線に我が陣に突っ込んできますっ!!」
みんなが、一斉に色めき立つ。
そんな中、僕は冷静に指示を飛ばす。
「全軍、
一箇所にとどまって戦うとしても、平地地帯で圧倒的多数の兵力に半包囲されてしまえば、その時点で詰んでしまう。
「
何か言いたげな双子だったが、僕の真剣な眼差しに気づいたのか無言で
「本隊はメイリス将軍にお任せします、《
こうして、僕たちは進んできた道を戻らざるをえなくなってしまったのだった。
◇◆◇
「敵軍、逃げていきます!」
ローザ将軍と金髪の仮面少年のもとへ、先陣からの報告が届く。
女将軍は小さく舌打ちをしたが、すぐに気を取り直して指示を飛ばす。
「かまわない、このまま敵軍を追いかけよ! 数は圧倒的にこちらの方が上、たとえ罠をしかけていようとも力で粉砕する!」
「「「ははっ!!」」」
ローザは自らも陣頭に立つべく、馬に飛び乗った。
仮面の金髪少年が後ろから声をかける。
「じゃ、オレは自分の隊に戻るよ。しばらくは別行動になるけど、オレがいなくても大丈夫そうだな」
半ばからかうような口調に、頬を赤らめるローザ。
「余計なことは言わないで」
その様子を見た少年は笑みを浮かべて馬に跨がった。
一時期は精神的に落ち込んでしまっていたローザも、いつもの様子に戻ったようだ。
それに《王都》から来たサーリアたちも痛い思いをしたせいか、基本、ローザの指示に従うようになっていた。
彼女にとっての状況は良い方向に動いている。
「負け戦も良い薬ってことかな、オレの手間も省けたし、結果オーライってとこで」
「お前の力は私だけのモノだ」
そう言って睨みつけてくるローザに、少年が「こわい、こわい」といった風に両手を掲げてみせる。
「もちろん、わかってるよ。オレは
仮面の少年の口元が少しだけ
◇◆◇
「撤退速度が鈍ってきた!?」
《セネリアル州》がある北東方向へと撤退を続ける僕たちだったが、森林地帯を抜けて草原が広がるエリアまで駆け抜けてきたあたりで、そのスピードが落ちてきたのだ。
もちろん、ずっと走り続けるわけにいかないのはわかっている。
だが、敵軍の追跡を受け続けている中、足を止めるワケにはいかなかった。
「《革命軍》のヤツら、諦めが悪い……」
隣を走るエクウスが苛立たしげに声を吐き出す。
僕は《風霊術》で後方を
「こっちは遠征軍だからね、ただでさえ体力を使うのに、さらに相次ぐ連戦で疲労が溜まっていたんだよね」
だからといって、休憩タイムを取ることはできない。
少なくとも、敵が止まらない限りは。
「このままだと、ちょっとヤバイかも……」
最後尾に着いている僕だからこそ気づいているが、敵とこちらの距離が詰まっていくペースが上がってきていた。
次第に見えてくる敵の大軍の圧は、想像していたよりも精神的にくる。
「逃げるところを背中から襲われたら一撃で崩壊だ。かといって、ここで
僕は覚悟を決める段階に来たことを悟った。
《風霊術》の限界突破。
正直、どこまで風を操れるかはわからない。けれど、持てる力のすべてを敵軍にぶつける──
「エクウス! あとの指揮は任せた、ここは僕が食い止めるから、みんなで先にいって!!」
「ノクト様!? 何を言ってるんですか!」
「いいから、行って!!」
《風霊術》でエクウスの馬に走り続けるように指示を出す。暴走し始める馬を御しようとするエクウスだったが、猛スピードで僕のもとから離れていった。
「これでよし」
僕は馬を止めて、迫ってくる敵軍に向き直る。
頭の中から胸の中へと風の力を呼び込むようなイメージで、《風霊術》を急速に練り上げていく。
身体の周りに風邪の渦がいくつも生み出されて、それらが合体して巨大な竜巻のようにうねりをあげはじめる。
「くるならこい、みんな吹き飛ばしてやる!」
右手を掲げて、僕が《精言》を解放しようとした時──
「──!?」
迫ってくる《革命軍》の軍隊の動きが、突然大きく乱れた。
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