第68話 仮面の少年
「ノクト様! 見ました!? あの金髪の仮面の人っ!!」
自称、戦える美少女メイドことフロースが、僕の
僕たち《セネリアル州軍》は、あの
《革命軍》も崩壊しかけた《王都》からの援軍を吸収し、《レナンディ》には戻らずに、僕たちから一日ちょっとの位置で部隊の再構築を進めているようだった。
そんな中、僕はフロースに正面から迫られていた。
「夜だし遠目だから、よくは見えなかったけど、確かにいたね。金髪の仮面の人」
それは、昨晩の夜襲戦の終盤、少数の兵を率いて僕たちの軍の後方を
後方にいるプリーシアたちを守るために、ひとりで敵の指揮官に突っ込んでいったフロースが
「というか、そもそもひとりで敵に突っ込んでいくっていうのは無謀だし、やっちゃいけないことだと思うんだけど」
「それはそれ! これはこれ!」
僕をゆさぶる勢いが、さらに増していく。
「あの金髪仮面、雰囲気がばっちりシラリス殿下じゃないですか!」
「え、そうだった?」
驚きの
シラリス殿下──旧《トルーナ王国》の末王子シラリス・ファスタ・トルーナのことである。
《革命軍》が《王都トルネリア》を陥落させた日、僕とフロースはシラリスと行動を共にしていた。
しかし、三人それぞれが《革命軍》により、バラバラに引き離される。
「その後、僕は
「そうですよ、なんとかノクト様を救出しようと、シラリス殿下と各地を転々としてたんです」
その後の話は聞いている。
僕を助けるために《セネリアル州》へと向かう途中で、追っ手から逃れるために別行動を取らざるをえなくなったのだ。
だが、その後、探索に出たフロースは再びシラリスと合流することに成功したが、
「って、シラリス様、やっぱり生きてたんですよ! 黒虫レベルの生命力の持ち主でしたからね、あの程度でくたばるワケがないんですっ!」
「また、なんかヒドいこといってる」
「というか、ノクト様、なんでそんなに冷めてるんですか! シラリス様が生きてたんですよ!」
引き続き、少女メイドに揺さぶられながら、僕は逆に問い返す。
「冷めているというか、僕はアレがシラリスだとは思えないんだけど?」
「はぁ? 背格好も髪型も、あの悪趣味な仮面さえなければ、シラリス様まんまじゃないですか!?」
「じゃあ、シラリスだとして、なんで《革命軍》の中にいるのさ」
「うぐっ」
ようやくフロースが僕を揺さぶる手を止めた。
「あと、あんな至近距離でフロースと対峙したら、シラリスだったら反応するでしょ。絶対、なんかツッコミかましてくるはず」
「うっ……そ、それは、あ! アレですよ、昔、ノクト様が話してくれたじゃないですか。仮面をつけた記憶喪失キャラはお約束だって!」
シラリスは崖下に落ちたときかなんかで、記憶を失って、《革命軍》に拾われるかなんかして、今の状況なんですよ! と、フロースが力説する。
だが、僕は変わらず冷静だった。
「もし、記憶喪失だったとしても、部隊を指揮する能力を保持したまま、都合良く自分がシラリスだということだけを忘れるっていう可能性は低いと思うんだよね」
ましてや、本当にシラリスだったとして、《革命軍》がこんな使い方をするとは考えづらい。
「そして、正直、仮面っていうのが、一番引っかかる」
「どうしてですか」
「シラリスらしくないっていう一点につきる」
僕はキッパリと言い放った。
「確かにシラリスは中二病的な属性持ちだけど──」
「中二病的な属性……?」
「そこはツッコまない」
銀製の派手な仮面とか、確かにシラリスあたりは喜びそうなアイテムだけど、それは決してネタ的なノリであって、日常的に装着することは考えられない。
「シラリスは自分の行動に自信を持ってるし、絶対に自らの立場や責任から逃れようとしない。だから、なにをやるにしても、自分の顔を隠すってことは絶対にしない人間なんだ」
その僕の言葉に、フロースはハッとしたような表情を浮かべた。
「もしかすると、フロースを逃がしたときに崖下に落ちて、顔に大きな傷を負ってしまったのかもしれない。でも、それでも、顔をさらけだして前に進むのがシラリスっていう人間なんだ」
フロースの手が、僕の襟首から離れる。
「……そうですね。ノクト様の言う通りです」
その手を僕はそっと握った。
「大丈夫、シラリスは絶対にどこかで生きているから。それに万一、あの仮面のヤツがシラリスだったとしたら、それはその時考えるよ」
敵の指揮官ひとりくらい捕まえることなんて
その思いを汲んでくれたのか、フロースも笑い返してくれた。
「取り乱してすみませんでした。シラリス様を見つけたかもしれないと思って、頭に血が上ってしまったみたいです」
「ううん、大丈夫だよ。シラリスを見つけたいという気持ちは僕も同じだし、この戦いが落ち着けば、本格的に捜索隊を出すこともできるだろうし」
久しぶりにフロースと言葉を交わして、僕は《革命軍》
あの時、三人で交わした「この国をそれぞれの立場から変える」という誓いを、あらためて胸の中に刻む。
「──というワケで」
一連の会話が一段落したところで、フロースは
「──じゃ、敵にひとりで突っ込んでいったことに対するお説教をどうぞ。ごめんなさいでした」
そう
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