第三部 クラスメイトたちへの反撃開始!

第十二章 舞台は戦場へ〜北領抵抗戦争

第58話 出撃準備!

 僕が《セネリアル州》東端の入口を守る《プラテーム城砦じょうさい》へと久しぶりに帰還した頃、《トルーナ王国》は控えめに言って混乱のただ中にあった。

 城砦の会議室の大テーブルに、ステューディアさんから引き継いだ資料を所狭しと広げる僕。

 そして、その側ではエクウスとドラックァも同様に資料に目を落とし、積極的に戦略の検討に加わってくる。

 ドラックァが書類の一枚を手に取って首をひねってみせる。


「《革命軍》はどうしてすぐにでも攻めてこないんだろう。南領なんりょう制圧せいあつして、あとはボクたちだけなんだから、一気に全軍を投入してくればイイだけなのにね」

「そうだね、《革命軍》にとって理想的な展開は全軍を北に向けることなんだけど、そうもいかない現実があったりして」


 僕はドラックァの根本的な状況把握をめつつ、現状認識について少し補足していく。

 もちろん、自分の頭の中の情報の整理も兼ねていたり。


「南領を制圧したと言っても、実は完全に敵対勢力を掃討そうとうしたワケではないんだよね」


 父上──冷血宰相れいけつさいしょう率いる《宰相派王国軍》は《革命軍》に撃滅げきめつされた。

 だが、兵士ひとりひとりまで殺され尽くしたわけではない。

 少数ではあるが、びた《宰相派王国軍》の士官しかんや兵士たちが地下に潜って抵抗活動を組織しはじめている。


「その抵抗組織と繋がりを作ろうとしているのがジェントフォンヌ伯爵夫人はくしゃくふじんたちなんですね」


 エクウスが感心したようなため息をついた。

 それに対し、僕も素直にうなずく。


「あの師匠、ついつい脳筋系統のうきんけいとうに分類されちゃいがちなんだけど、政戦両略せいせんりょうりゃくどちらにも通じていたりするんだよね」


 もっとも、すぐ目の前にエサをぶら下げられたら、本能的に突っ込んでいく一面を持っていたりするけど。

 その説明にエクウスはクスッと笑った。


「そうなんですね。もしかすると、ジェントフォンヌ伯爵夫人と冷静で現実的なステューディアさんが手を組んだら無敵かもしれませんね」

「あー、確かに。あの師匠の手綱をステューディアさんが握ったら、僕もそう簡単に対抗できないかもだ」


 肩をすくめて見せる僕に吹きだしてしまう二人。

 コホン、と咳払いしてから僕は話を元に戻した。


「それはそれとして、南領の抵抗勢力への支援を続けてくれていたおかげで、ここに来て南領の情勢も不安定になって、《革命軍》は一定数の兵士を残しておかないといけなくなったわけ」


 大テーブルの真ん中に広げてある《トルーナ王国》地図の南領の上に、僕は黒く塗られた大きな木のブロックを乗せる。

 続けて、北領ほくりょう部分の数ヶ所に小さめの白いブロックを置いていく。

 エクウスが僕の顔を見上げてきた。


「白い積み木はぼくたちを含めた北領の《反革命軍勢力》ですね」

「そう、僕たち《セネリアル州軍》の他にジェントフォンヌ伯爵軍、他にも元王族、貴族派の残存勢力が各地に散らばっている」

「でも、これじゃ、フツーに考えてボクたち各個撃破かっこげきはされちゃうよ? 《革命軍》の方が総兵力では上なんでしょ」


 不安げな表情になるドラックァの頭を僕はポンポンポンと三度ほど軽く叩く。


「いや、ホントにそうなんだ。フツーに考えると各個撃破以外にありえない。だけど、《革命軍》のヤツらは十中八九、僕たちの元に動かすことのできる全軍で突っ込んでくる」

「……それは、ノクト様と《革命軍の三十九勇士》との間のが理由なんですね」

「うん。ヤツら──というか、《革命軍の三十九勇士》とか言うヤツらの中でもリーダーぶってるヤツらだな。アイツらは僕のことを邪魔に思ってる。なので、機会を見て叩き潰せるときに殺してしまおうと考えてるらしいよ」


 それは、酔い潰れる前にテオ将軍──上住うわずみ 恒太こうたが漏らした警告だった。

 僕は淡々たんたんと説明を続ける。


「彼らにとって、今の僕は危険な力を持つ可能性がありつつも小規模な敵──っていう認識だと思う。だから背後で他の敵が動いたとしても、僕を《セネリアル州軍》ごと撃破して、その後、返す刀で他の勢力を粉砕するつもりなんじゃないかな」


 実際に《革命軍》がそう動いてきたら、僕は《革命軍》を《プテラーム城砦》まで引きつけて持久戦に持ち込む。

 さらに、僕の《風霊術ふうれいじゅつ》の力や罠を仕掛けることにより、敵の戦力を消耗させていく。

 そして、最終局面では背後からジェントフォンヌ伯爵軍ら《反革命軍勢力》の攻勢で補給線ほきゅうせんや後方部隊を攪乱かくらんしてもらい、敵本隊が混乱したところを、僕たちの全力を持って押し返す。


「──たぶん、これが理想的な展開」


 地図上の積み木を動かしながら説明していくうちに、エクウスとドラックァの顔が紅潮していった。

 だが、さすがエクウス、いったん我に返って息を吐き出した後、遠慮がちに尋ねてきた。


「でも、絶対にこうなるとは限りませんよね。たとえば《革命軍》が各個撃破に出てきたらどうします?」

「そうなったら、正直厳しい」


 再度、地図の上で積み木を動かし直しながら、考えつつ言葉にしていく。


「どこの勢力から潰そうとするかにもよるけど、その場合、僕たち《セネリアル州軍》は一定のところまで押し出していく必要があると思う。その上で、《革命軍》の背後を襲えたら襲うし、逆に相手を挑発してから、できるだけ北へ誘い込んで最初の策と同じような状況に持ち込めるように動くしかないかな」

「わざと隙を見せて、僕たちを誘い込む策もありますよね」


 あえて異論を挟んでくるエクウスに対し、僕は逆に驚きを感じていた。人質生活のうちにいろいろ学んだのだろうか。


「その通り、なので僕たちは敵の誘いには絶対乗ってはいけない。これはみんなが肝に銘じておかないといけないことなんだ」


 僕とエクウスのやりとりを黙って見ていたドラックァがうんうんと頷きながら、何やら自らの手帳にメモを取っていく。

 その時、バンという音とともに会議室の扉が開かれた。


「ノクト! そろそろ兵士たちへ檄を飛ばしてもらわないと!」

「すでに、兵士たちの戦闘準備はできてるから、あとは気持ちの問題だけだよね」


 それは、フラーシャとフラン、僕とともに今回から兵を率いることになっている双子の姉弟だった。

 エクウスとドラックァは僕の側に、そして、剣術組のマースベル、ティグリス、パークァル、レイファスも今回は親衛隊しんえいたい的な役割をになって出陣する。

 一方で、回復担当のプリーシアは幼いサーミィ、オーヴィ、シーミャたちと《プテラーム城砦》へ残ることになっていた。

 急に騒然とする会議室の様子を眺めながら、僕はちょっと前に《山の民》族長の息子フォルティスと交わした言葉を思い返していた。


 ○


「──《山の民》の大迷宮? ああ、もちろん《プテラーム城砦》の近くにも入口はあるぜ」

「万が一の時は、子供たち、《王国の忘れ形見》のみんなを連れて帝国へ逃れてほしい」

「別に構わないけど、ノクトはどうするんだ?」

「僕は残ってみんなが逃げる時間を稼ぐよ」

「ふーん、それも構わないけど、ちゃんとみんなには事前に説明しとけよ」


 フォルティスが真剣な面持おももちで僕を見つめてくる。


「じゃないと、いざというときになって、みんながノクトと一緒に残る! っていうのが目に見えてるからな」


 そのツッコミに、僕は一瞬言葉を失う。

 そして、エクウスたちみんなに、この話を切り出すきっかけをまだつかめずにいた。

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