第57話 そして、戦争へ
ジェントフォンヌ
「本当なら、もっとここに留め置いて、ひねくれた
ジェントフォンヌ伯爵領の領都《ベリデフェント》から、北の《セネリアル州》との
さすがに抵抗しようとする僕だったが、伯爵夫人が真正面から視線を向けてきたことで、思わず動きを止めてしまう。
「今までだけでも、相当な
そこまで言ってから、一瞬
「──ノクト様おひとり、いえ、《王国の忘れ形見》の子供たちやお仲間たちだけの幸せを考えるなら、他にも方法がないわけでもありません。この国を脱出して、ささやかな幸福のもとで生活する道もあります」
この場で言ってはいけないことかもしれませんが、と前置きした上で、伯爵夫人は今度は僕の両頬を手のひらで挟むように押しつぶしてくる。
「むしろ、ノクト様たちが遠くで幸せに過ごした方が、この《トルーナ王国》から戦乱も減って平和になるのかもしれない」
「そうかもしれない──でも、僕は、いや僕たちは《革命軍》の存在を認めるわけにはいかない」
キッパリと言い放つ僕に、伯爵夫人は笑顔とも泣き顔とも取れる表情を浮かべた。
「……
そう謝ると、伯爵夫人はキリッとした動作で、僕の足もとに膝をつく。
「わたくしも、かつての《トルーナ王国》の
その
「師匠、この戦局、僕たちだけの力だけでは絶対に勝てません。なので、師匠だけでなく、他の反《革命軍》勢力との連携が必要ですし、そのためにも師匠のお力を借りなければなりません」
僕は伯爵夫人の手を握ったまま、そっと立ち上がる。
「あの日の《トルーナ王国》を取り戻すために、ここからが本当の勝負です。ご助力、よろしくお願いいたします」
そう言って頭を下げる僕。
これは純粋な今の気持ちそのものだ──ただ、一点を除いては。
──《革命軍》支配下の王国も、過去の王国も関係ない、この戦乱の先にあるのは僕たちが作る王国なんだから。
○
「エクウスだっ! おかえりなさいっ!! ──あ、ついでにノクト様もおつかれー」
州境の山岳地帯を越えて《セネリアル州》に入った僕たちは、そのまま一直線に《
真っ先に、エクウスへと飛びついたマースベルに続き、他の子供たちも駆け寄ってくる。
「しばらく見ない間になんか身長伸びた?」
「というよりも、大人びた感じですね」
「おれたちだって強くなったんだからな!」
賑やかに盛り上がる子供たちからそっと離れて、僕は、近くに来ていたステューディアさんとファスクルン
「ご無事のご帰還、お喜び申し上げます。目的も無事果たせたようで良かったですね」
「《プテラーム
そのファスクルン卿の報告で、エクウスとはしゃいでる《忘れ形見》の中にフラーシャとフランの双子がいないことに初めて気づく僕。フロースに至っては完全に存在を失念していたが、あとあと面倒なので、このことは綺麗さっぱり忘れることにした。
それはともかくとして、やはり気になるのは《プテラーム城砦》方面の戦況だ。
僕はそう告げて、早々に《州都ネール》から城砦へと向かう旨、ステューディアさんに伝えた。
しかし、ステューディアさんは静かに首を横に振る。
「お急ぎになる気持ちはわかりますが、こちらにはこちらで重要なことがあります」
《プテラーム城砦》の戦線を支えるには、後方支援の
「内政をすべて私に放り投げ──コホン、一任していただくのも
コホンと、ステューディアさんが咳払いをすると、ファスクルン卿が後ろから僕を
「え?」
戸惑う僕にステューディアさんが冷たい笑みを浮かべる。
「大丈夫です、準備は済んでおりますので。貯まっていた案件と今後の方針について一気に片付けてしまいましょう」
○
そして、僕は三日三晩
エクウスたちが手伝ってくれたこともあり、ステューディアさん曰く「予想よりだいぶ早く終わった」とのことだった。
執務室の中でへばっている僕たちに、プリーシアがあたたかいお茶とお菓子を用意してくれた。
「ノクト様、お疲れのようですけど、なんだか嬉しそうにも見えますね」
「え? そう?」
僕は思わず問い返す。
「表情に出ちゃってたか……いやね、内政面では《セネリアル州》が思っていたよりも良い状況にあるっていうことと、外交面では。反《革命軍》勢力も知らないところで連携を深めていたと言うことがわかって、良い方向に戦略方針を変更しないとなって考えてたんだ」
「わたしには戦のことはよくわからないですけど、みんなにとって楽な方向へ動いているということですか?」
「うん、楽になるかどうかはこれから次第だけど、そうなる確率が高くなってるっていうカンジかな」
もっとも、戦争に楽観は厳禁だ。
幾重にも策を巡らせて勝利を引き寄せる必要がある。
その策の選択肢が広がりを見せている現状、この機会を逃すわけにはいかない。
僕はプリーシアのお茶を飲み干してから、勢いよく立ち上がる。
「みんな! 《プテラーム城砦》へ帰ろう! ここからが本番だよ、気合い入れて行こう!」
その
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