第5話 辺境へ
「みんな、そこまでだっ!」
迫力のある声が群衆の
《三十九勇士》の先頭に立っていたクラックドール将軍──元クラスメイトの
「今回の革命において、大貴族とその一族は全員死罪と決められたが、十五歳の誕生日前の子供たちは対象外とする。これは、俺たち《三十九勇士》で構成される《革命議会》で決定した内容だ」
一瞬の沈黙──だが、次第にブーイングの声が上がり、急速に広まっていく。
だが、クラックドール将軍は
「もちろん
その言葉に、群衆たちは納得しかねるものの、反論するのも
「……十五歳の誕生日前、か」
僕が
「それが俺たちにできる最大限の譲歩だ。アンジェラ──
「それで、僕が涙を流しながら感謝するとでも思った?」
僕の返事に、リッチは答えようとしなかった。
小さくため息をついてから、僕は言葉を続ける。
「……で、僕とこの子供たちは、これからどうなるの? ──
「君たちは、この国の北東の辺境にある《セネリアル州》の鉱山で強制労働に
「正気か!? こっちには幼児もいるんだぞ!?」
「狭い坑道だと子供の方が都合がいいらしい、まぁ、真面目に働けば、いつか
「
僕は鉄格子を握りしめる。
単純に貴族の一族とは言え、子供たちを処刑したりすれば、一部の層から反感を持たれることになるかもしれない。
それを回避するために、辺境の鉱山に送り込むことで、誰からも見えないところで、
そう指摘する僕の言葉に、リッチは肩をすくめて首を振ってみせた。
「てっきり、みじめに
「どういう意味だ」
「いやね、ここで
「バカにするのも、いい加減にしろ。それに結局考えるだけだったんだろ、僕に恥の上塗りをさせるつもりなんだ」
「オッケー、それが最後の返事だね。ま、せいぜい強制労働を頑張れよ。いつか普通の生活に戻れることを祈っているよ」
そう言うと、リッチはチラリと僕の横の金髪の少年に視線を向けてから、この場から歩み去っていった。
「あっちの世界でもそうだったよな、オマエたちは」
リッチの中の人──
彼らは、クラスの中で目立たない存在だった僕たちを、なにかにつけて下に見るような態度で接してきた。
おそらく、今回も、そんな中の僕を犠牲にすることで、《三十九勇士》──クラスメイトたちを恐怖で結束させた上で、自分たちの影響力を強めようとでもしているのだろう。
「そう思い通りになってたまるか」
僕は小さく呟いてから、不安そうにこちらをみている子供たちを安心させるように笑ってみせる。
と、同時に、僕らを乗せた馬車が動き始めた。
王城前から王都の北門へと向かう大通り、憎しみの声を上げる民衆たちの間を、馬車はゆっくり進んでいく。
僕は《風霊術》を少し強め、外からの投石だけでなく、罵声などの雑音も弱めて、耳を塞いで抱き合うように固まっている子供たちの負担を軽くしてやった。
「せいぜい、今のうちは吠え続けていればいいさ」
狂ったように喚く群衆たち──僕はその光景を目に焼き付けていく。
いや、僕だけじゃない。いつのまにか身を起こしていた子供たちも、沿道の民衆たちの
○
北東の辺境《セネリアル州》は、このトルーナ王国がほぼ全域を占める広大な《グラントヴェント半島》──その東の付け根部分に位置している。
北を《マグナスプラン帝国》との国境である
そのため、交易面で不利な条件が大きく、トルーナ王国全体が商業国家として急成長していく中、取り残されてしまった地方のひとつでもあった。
「で、唯一の稼ぎ頭が鉱山業なんだよね」
僕は元クラスメイトたちが悪し様に言うようにぬくぬくと生活してきたわけではない。
シラリスたちと共に、将来この国を変えるべく、必要な努力は惜しまなかった。
その中に、この国──トルーナ王国の地理、産業、人口、税収などといった情報の勉強も含まれている。
──そう、シラリスやフロースと一緒に。
この先のことを考え続ける一方、脳裏に幼い頃からの親友である二人の姿がずっとはなれない。
おそらく、フロースは
そして、深刻なのはシラリスも一緒だ。僕と一緒に捕らえられた後の消息はようとして知れない。
「国王と
そう緊張感のない陽気な口調で話すのは、僕たちを
《三十九勇士》の中の北の聖女ことアンジェラ・カリタス──
「革命軍が抑えることができたのは、今のところ大運河から北の半分だけなんだよな。大運河を挟んで南は冷血宰相派が抑えていて、逃げ延びた王族や貴族たちは次々と、そっちへ逃げ込んでいるってさ」
「シラリス……国王の末王子の消息は聞いていない?」
「うーん、その名前は聞かないなぁ。あんたと一緒に捕まっちゃったんだろ? 王族が処刑されたって話は聞かないから、まだ囚われたままなんじゃないか? 南との交渉に使われるのかも知れないし」
結局、この隊長からはさほど有益な情報を引き出すことはできなかった。
だけど、別の部分では非常に良心的で、もちろんできることに限りはあるが、最低限の食事も確保してくれたし、衛生面も気遣ってくれた。
これまで人の負の側面に直面してきた子供たちだったが、このことが、ほんの少しではあるが気持ちを立ち直らせるきっかけともなった。
しかし、そのささやかな落ち着いた日々もあっさりと
「ほら、到着だ。俺たちの仕事はここまでだ。あとは《セネリアル州》のヤツらの領分だからな。余計なことは考えずに、素直に言うことを聞いて働くんだぞ」
いつか、無事に外へ出てこられることを祈っている──そういって、王都から僕たちを
「おら、ガキども! なにをボーッとしている、とっととこの中に入れ!」
《セネリアル州》側の兵士が、壁にぽっかりと空いた小さな洞窟の穴を指し示す。
その入口には
「おまえたちは今日から昼も夜もこの中で働くんだからな! サボろうなんて考えるなよ、少しでも手を抜いたらメシ抜きだからな! 生き延びたいのなら、それ相応の働きをみせろ!」
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