第2話 躾が必要かもしれない
「ハローハロー、ペットと迎えるはじめての朝はどうなのかな、ハルハル!!」
「今はまだグットモーニングの時間だ。おはよう、マイテル。スサノヲの機嫌がすぐれず困っているところだ。あといつ合鍵を掠め取った?」
「昨日ペットショップで買った荷物を運ぶ手伝いしてあげたでしょでしょ、そのついでにぃ、ちょいちょいと、ね?」
「アパートの合鍵は一つしかないんだ、勝手に持ち帰られると困るのだが」
「窃盗したボクが言うのもなんだけど、盗んだことはいいの?」
彼はマイテル・エメラルダ、野生味のあるハルトよりもしなやかな尻尾と耳を持つケモマ族の青年だ。ハルトが給仕として働くゲイクラブで売り上げNo. 1を新人の頃から守り抜いている売れっ子である。華々しい水商売の中でも裏方、単なるボーイであるハルトと仲が良い理由は簡単な話、同期かつ腐れ縁なのだ。地球人を飼ってみないかと誘ったのもこいつである。流石に手ぶらでくるほど非常識ではないようで、大きめの紙袋と共にリビングに入ってきた。
1LDK(風呂トイレ別ペット1匹まで可)のアパートに住むボーイと、高層マンション最上階に住む売れっ子キャストと言った感じに格差社会の体現のようなコンビではあるが、仕事終わりにラーメンを食べに行く姿が度々目撃されている(お陰でマイテルのファンである男達から警戒されている)。お転婆で図々しく面の皮が厚い割には面倒見のいいマイテルと、一見常識人かつ大人しいが本性は他人を振り回すタイプのど天然であるハルト、このようにすれば相性がいいように聞こえるのではないだろうか。
「スサノヲって名前なん? ちょい渋すぎじゃね? いや雄だからいいんか?」
「カッコいい方が喜ぶだろう、男の子なんだから。女の子ならイザナミとかアメノウスズメも案としてあったが、男の子だからな」
「うん、命名ワンパターンでウケる!」
「……???〜〜〜〜!?」
スサノヲはキョロキョロしながら要領を得ない、どうやら怯えているようだ。無理もないだろう、目覚めて小1時間、いろんなことが起きすぎている。目に涙が溜まり半泣き状態であった。
「そうそう、スサノヲっちにプレゼント! これでハルハルと親交深めてね!」
「……なんだそれは?」
「ーーーー!!!!ーーー!?!?!?」
そう言って紙袋からガサゴソと出されたアイテムの数々を見て、ハルトは困惑してスサノヲは悶絶した。男性器を模したピンク色の棒に、振動する卵型の機械とリモコンらしきものが紐で繋がれた物、挙句の果てには先にいくに連れ小さくなっていくように出来た玉が連なっている謎の何か。
「これはなんだ?」
「ディルドとローターとアナルプラグ」
「どのように使う代物なのだ?」
「〜〜!?!?」
「む、痛いぞ。暴れるな、どうしたんだ?」
スサノヲは飛び上がるように逃げた。ハルトの腕の拘束をなんとか解き部屋の隅まで駆け寄る。最初に言っておくがハルトに下心と言ったものは一切としてない、例え地球人のペットのほとんどがそう言った理由で飼われていると言う事実を知っていたとしても、初対面のスサノヲ相手に下心を持つことはなかっただろう。逆に他人に対して異常に淡白なハルトの今後を考えて地球人を飼うことを勧めたマイテルとしては、地球人用のアダルトグッズの使い方を心得ていないハルトに驚きを隠しきれなかった。
「え? その地球人の飼い方本に載ってない? 地球人との○ックス」
「ああ、これのことか? 前立腺という器官をほぐすだの、まずは脱力させることだの、体調管理のために必要なマッサージのやり方かと思っていたぞ」
「セッ○スの事マッサージっていう奴実在するんだ」
とにかく両者ともに怯えているのを不憫に思ったのか、おもちゃの数々を隠すとようやくホッとしたようだ。
「そう言えば、地球人とは定期的にセック○をしないと体調不良になる生き物なのか?」
「この子雄でしょ、個体によるけど定期的に射精しないと悪いもの溜まるらしーぜ?」
「……なんだと?」
その瞬間、ハルトの悪いスイッチが入った。決して邪な意志はない、ただ自分の元に来てくれたペットを守るという飼い主として至極真っ当な考えのもとに入ったのだ。悪いスイッチが。華麗なターンを決め駆け寄ったかと思えば隅に隠れるスサノヲの持つシーツを引っ剥がす。真っ赤な顔で泣きながら威嚇するのもなんのその、ベットまで運び脚を開かせる、もう何をするかお分かりだろう。
「あちゃーハルハルこうなったら聞かんもんねー」
しかしその後泣き叫びながらも堪忍袋の緒が切れたスサノヲにより、ハルトは男子高校生の全身全霊顔面キックを喰らってしまう。片方は単純な痛みにより、もう片方は恥ずかしさによりベットの上で七転八倒する様をマイテルは介抱に使う濡れタオルを準備しながら楽しげに見ていた。
地球人のオスを飼ってみた 荒瀬竜巻 @momogon_939
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