霊感
木津くんからの言葉を、脳内で復唱する。
幽霊が見える。
それはつまり……。
「霊感があるってこと?」
「まあ、そういうことになるな」
「だから、木津くんには柳生くんが見えるってこと?」
「そうだけど……あっさり信じるんだな」
「……本当だ」
苦い笑みを浮かべている木津くんに、自分でもその通りだと驚いた。
普通なら、唐突に幽霊が見えるんだ、と言われても信じないだろう。
だけど木津くんの言葉は、信じられる。
「でも木津くん、そういう嘘は吐かないでしょ? それに、お互い様だと思う」
「お互い様?」
「木津くん、私の死にたいって言葉をあっさり受け入れてくれたでしょ」
「それは……そうだな」
思わず、といった調子で木津くんが笑う。
幽霊が見える、ということを、木津くんはどのくらいの人数に言っていたのだろうか。
そのうちの何人が、彼の言葉を信じたのだろうか。
柳生くんには言っていた。
そして柳生くんは木津くんの言葉を信じた。
でも、もう、明日から柳生くんはいなくなる。
今、私は霊感について教えてもらった。
だったら、私がするべきことは決まっている。
「木津くんに対して、私は、なにができる?」
「なにが……。なんだろうな」
木津くんは顎に手を当ててうなる。
私ばかりがわがままを言うのは落ち着かない。
だからこその言葉だったけれど、逆に困らせてしまったようだ。
「無理に、じゃないし、今すぐじゃなくても大丈夫だよ」
「……あるでしょ、木津」
ずっと黙っていた柳生くんが、じっと木津くんを見て言う。
「あるか?」
対する木津くんは、本当に見当がつかないらしく、首をひねっている。
その様子を見た柳生くんは、もうしょうがないな、と呆れたように、でもどこか優し気に目を細めて笑った。
「木津はときどき、生きている人とそうでない人との見分けがついていないときがあるんだ」
「そうなの?」
柳生くんの言葉を確かめると、木津くんはようやく思い至ったという様子で、あー、と声を漏らしたのち、照れたような、自分に呆れたような、そんな笑みを浮かべた。
「そうだな。だからそういうところにでくわしたら、俺に教えてほしい」
「教えるって?」
「例えば、俺が誰もいない空間に話しかけていたら、そこには誰もいないよって教えてほしい」
「なるほど。私が見えているままを伝えればいいってことだよね?」
「そうしてくれると助かる」
「わかった」
うなずいて、ふと私は柳生くんに視線を向ける。
それに気づいたらしい柳生くんが、こちらを向いて首を傾げた。
「なに?」
「私、霊感ないはずなんだけど、どうして柳生くんのことが見えているのかなって思って」
「ああ、それはね」
柳生くんがざっくりと説明をしてくれる。
その説明の中で理解できなかったところは、木津くんが補ってくれた。
「……幽霊って、すごいんだね」
なんだかファンタジーな印象を受けてしまい、息が漏れてしまう。
おとぎ話の魔女の話を聞いたとき、みたいな感じだ。
「信じてないでしょ」
「ちゃんと信じてるよ」
からかうような言い方に、むぅっとなって返せば、小さく笑われる。
「改めて、幽霊っているんだなって思ったの」
「というと?」
「……死んでも続くんだなって」
「嫌になった?」
いたずらっ子のような表情を浮かべて柳生くんが問いかけてくる。
だけどその瞳は、どこか心配しているように見えた。
私はうーん、と首を傾げる。
「正直わからない」
「そっか。まあ、僕みたいによっぽど強く残りたいと思わない限りは、皆あの世に渡っていくよ。そこから先がどうなっているのかは、今の僕にはわからない。今の僕みたいに、柳生晃太としての意識を持ったままなのか、それとも全部消えてなくなるのか」
ただ一つ言えるのは、と柳生くんは続ける。
「あの世に渡ってしまえば、もう二度と、こちらには戻ってくることはできないってこと」
星よりもずっとずっと遠いところに、柳生くんは行ってしまう。
「柳生くんは」
これを、訊いていいのだろうか。
悩んでしまうけれど、柳生くんのまっすぐな茶色い瞳に促されるようにして、もう一度口を開いた。
「この一か月、どうだった?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます