28.言い方

「木津、少しいいか」


 上司から呼び出され、告げられた言葉に、ああ、終わったかもしれない、と思った。



 今日は俺の二十九歳の誕生日。

 数日前に上司から告げられた言葉をどう田所に告げるべきか。

 悩み続けたが答えは出せず、結局待ち合わせ場所に着いても、田所と会話しても、食事をしても、ずっとその事について考えてしまった。

 それがきっと出ていたのだろう。


「少しはやいけど、お開きにする?」

「え」


 田所の言葉に、間の抜けた声が出た。


「木津くん、なにか考えてるみたいだから」

「悪い」

「責めてるわけじゃなくて。ゆっくりできる環境で考えたほうがいい案が出るかもよ、と思って」


 あ、それか、と田所が手を打って続ける。


「私が聞けることだったら聞こうか? 役に立てるかはわからないけど。いつもお世話になってるし」


 無邪気な笑顔がこちらを見上げてくる。

 高校時代、あまり見なかった笑顔に、それだけの年月を重ねてきたのだな、とふと思った。


「あー、いや。なんというか」

「私が聞けないことだった……?」

「……田所に、言うことがあって。どう言おうか悩んでた」

「私?」


 聞き返す田所に、俺はうなずく。


「なんだろ」


 心当たりがない、という表情に、そうだろうな、と思わず思ってしまう。

 俺は小さく息を吐いてから、口を開いた。


「関西のほうに転勤することになったんだ」

「転勤?」

「ああ」

「そっかぁ。今ほどは会えなくなっちゃうね」

「そうだな」


 寂しげではあるが、案外あっさりとした反応に、小さくショックを受ける。

 別にすごく悲しんで欲しいだとかは思わないが、田所の中での俺は、やっぱりまだ、友人止まりなのだと突きつけられた気がした。


「言い方、気にしなくて大丈夫だよ」


 唐突な言葉に、わけがわからず田所を見る。

 田所は柔らかく微笑みながら俺を見上げていた。


「言いたいままに言ってくれて大丈夫。木津くんは、酷い意味の言葉はつかわないって知ってるから」

「……そうか」

「うん。だから今回みたいなことも、全然違うことでも、教えてくれたら嬉しい。伝えられずに離れちゃうのが、私は一番悲しいから」


 ね、と田所が確認するように首をかたむける。

 俺は額に手を当てて、深くため息を吐いた。


「田所」

「ん?」

「好きだ」

「知ってる。でも、まだごめん」


 何度目かの告白は、無事振られた。

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