きっと、大丈夫

 木津くんのまっすぐな瞳が、私を見る。


 この三人の中できっと、一番他人に対してまっすぐなのは木津くんだろう。

 嘘を吐けない人。

 だから、だったのだろう。

 柳生くんのことを話したり、訊いたりしたときに、はぐらかしたり、黙ったりしていたのは。

 言えない、と言われることがあったのは。


 そんな人に、本来であれば必要がなかったような気づかいをさせてしまったことが、本当に申し訳ない。


 どう言えばいいのだろう。

 どんな言葉を使って説明すれば、わかってもらえるのだろうか。


 ここに来るまでに何度もそんなことを考えていた。

 だけど、木津くんのまっすぐな瞳を見て、考えることをやめた。


 この人は、きっと言葉で飾らなくても聞いてくれる。

 流されることも、否定されることも、きっとない。

 聞いたままに、受け止めてくれる。

 だったら、私は、まっすぐに伝えよう。


 深く息を吸って、吐いて、吸い込む。

 そして口を開いた。


「私ね、ずっとずっと死にたいって感情を抱えてる」


 心臓が、うるさい。

 その音に、自分が思っていた以上に緊張していることを自覚する。


 否定されることはない。

 そう信じていても、やっぱり怖い。

 それに、傷つけてしまうかもしれない。


 木津くんは一瞬驚いたように目を見開いたが、なぜかすぐに、どこか納得したような表情を浮かべた。


「俺に、なにができる」


 言っていいのだろうか。

 負担に、間違いなくなるだろう。

 いいのだろうか。

 

「田所さん」


 名前を呼ばれて、隣を向く。

 柳生くんが、じっと私を見ていた。

 いつもの、温かな微笑みを浮かべて。


 大丈夫。


 そう、言われた気がした。

 小さくうなずいて、私は再び木津くんに視線を向ける。


「すごく、甘えてしまうことになるけれど……吐き出させてほしい」


 そして、できるのなら否定をしないでほしい。

 きっと、すごくわがままなお願いだ。


「わかった、善処する」

「……本当に?」


 思わず問い返せば、キョトンとした表情が返ってきた。


「田所はそうしてほしいんだろ?」

「そうだけど、木津くんはどうなの? 嫌じゃないの……?」

「嫌とかそういう話ではない気がするが。大丈夫だ」

「私が、嘘ついているとか、そういうのを考えたりは」

「ないな。むしろ、今の田所の話で、納得がいったことがある」

「納得……?」


 木津くんはうなずくと、少しだけ迷うように視線をさまよわせてから、もう一度私を見た。


「どうか信じてほしい、としか言えないのだが……俺には、幽霊が見える」

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