27.どうしたいのか

 三十歳になるまでは、誰とも付き合うつもりがないの。


 田所はそう言っていた。

 だからごめんね、と。


 どうして三十歳なのかは訊いていない。

 理由を言わないときはだいたい、柳生に関わることだからだ。

 この一年で、それがわかるようになった。


 三十歳。


 あと二年。


 出会ってから今までの年月と比べるとあっという間だ。

 だけど、出会ってから三十歳までの月日を柳生にとられているような気がして、なんとも言えない気持ちになる。


「やっぱりずるいよ、柳生」


 自宅の部屋で電気もつけず、つぶやいた独り言は、そっと静けさに吸収されていく。


 死んでからも、ずっと田所の心の中にいるのは、柳生なのだろう。

 きっと本来なら、今頃田所の隣にいたのは柳生だったはずなのだ。

 そんな未来を奪ってしまったのは、誰がなんと言おうと俺だ。


 田所は、柳生のことを知ってからも、俺を責めることは一度もなかった。

 謝っても、木津くんのせいじゃないよ、と返されてしまう。


「なぁ、俺はどうしたらいい」


 俺は、どうしたいのだろう。


 見上げた窓から見えた夜空の星が一つだけ、瞬いた気がした。

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