見た目によらず

 お化け屋敷は苦手だった。


 怖いものが苦手だから?

 そう、それもある。

 お化けが怖い。

 それと同じくらい、死後の世界があるかもしれないことが怖かった。


 ジェットコースターに乗り、楽しそうに悲鳴を上げているクラスメイトを見上げながら、私は先ほどまでいたお化け屋敷について考えていた。

 置いてあるものは作り物だし、驚かしてきたのは人間が扮したお化けだ。

 わかってはいても、怖いものは怖い。

 複数人で一緒に入ったけれど、私が一番悲鳴を上げていた自信がある。

 なんなら、ずっとうつむいて歩いていた。


 もしも私に、いわゆる霊感があったら。

 ずっとああいうお化けたちが見えているのだろうか。

 案外それが日常になって、怖くなくなるのかもしれない。

 そしてもしも。

 もしも、あの世に属するような彼らと会話が出来たら。

 そしたら、なにか私の中で変わるのだろうか。

 例えば、今もなお死にたいと囁き続けるこの感情が、消えてくれたり、なんて、するのだろうか。


 お化けがいたとしたら。

 死んでもまだ、さ迷わないといけないのなら。

 このまま死んでしまっても、私は死後もずっと、この感情と共にいることになるのだろうか。


 それは、どんなに地獄だろう。


 もう死ぬ手段もないのに、死にたいと思い続けるなんて、そんなの、耐えられるはずがない。

 だけど、耐えられようと、耐えられなかろうと、関係ないのだ。

 いつかそこから解放される方法が見つかるまで、ずっと囚われたままになるのだろう。


 想像しただけで、寒くもないのに鳥肌が立った。


 賑やかな声が近づいてきたのは、そんなときだった。

 振り返る間もなく、その声の主は、友人に荷物を任せて一人でジェットコースターの列に並びに行ってしまった。


「……」

「……」


 隣には、柳生くんに置いていかれた木津くんがいる。

 気づかないふりをするには無理がある、絶妙な距離だ。

 ある意味わざとらしいそれに、私は内心頭を抱えてしまった。

 どうにかしないと。

 そう思って、すぐに出てきた言葉が、荷物を持とうか、という提案だった。

 却下されたけれど、でも話してみて、木津くんは意外といい人なのかもしれない、と思った。

 ガタイがいいし、普段笑顔をあまり見た事がない人だからか、仏頂面のイメージが強くて、いつも不機嫌そうな印象があった。

 だけど、それは間違いかもしれない。


 ジェットコースターから帰ってきた友人たちに荷物を渡しつつ移動していたら、一人が心配そうに私の顔を覗き込んできた。


「大丈夫? 木津に、なんか、絡まれてなかった?」


 心配させていたらしい。

 それに対してうまい返答が浮かばず。

 大丈夫だよ、という当たり障りのないことしか言えなかった。

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