16.切り離された世界

 うだるような暑さっていうのはきっと、今日みたいな日のことを言うのだろう。

 コンビニで買ったアイスキャンディーは、信号が変わるのを待っている間に食べ終わった。

 そんな俺を見て柳生は、早いね、なんて笑いながら、同じくコンビニで買っていた炭酸水をあおる。


「お前こそ、もう半分も無いじゃないか」

「だって暑いし。人間水分大事だからね」


 大学生になって初めての夏休み。

 相も変わらず俺は、柳生とつるんでいた。


「田所さん、もう少しでこっち来るんだよね」

「来週とかじゃなかったか?」


 大学どころか住む県さえ離れてしまった田所。

 来週実家に戻ってくるらしく、そのタイミングで会おう、と話をしていた。

 何度かメッセージアプリでやり取りはしているものの、直接会うのは、田所が上京する直前、春休みに会ったぶりだった。


「元気にしてるかな」

「元気だろ、多分」


 そうであって欲しい。

 そんな思いで言えば、柳生が小さく笑う。


「木津はいつ、田所さんに想いを伝えるのかな」

「……いつでもいいだろ」


 どういう感情で言っているんだろう。

 ただただ不思議だった。


 卒業式の日。

 柳生が田所に告白されているところを見てしまった。

 柳生は驚いていたようだけど、俺は、意外だとはあまり思わなかった。

 なにがあったのかは知らないが、秋か冬のあたりから、田所を見かける度に、田所は柳生を目で追っていたから。

 田所を見つけるのは、柳生のほうが先のことが、多い。

 だから、柳生だって、恋愛的な意味合いまでは行かずとも、田所のことを好いているものだと思っていた。


 柳生は、田所を振った。

 友達として一緒にいたいから、と。

 その話は、一切柳生本人からも、田所本人からも聞いていない。


 今告白したところで、田所の心の中には柳生がいるだろう。

 つまり、振られる可能性が圧倒的に高い。

 柳生にだってそのくらいわかるはずだ。

 それなのにどうして、告白を促すようなことを言うのか。

 ただただ不思議だった。


 信号が青に変わる。

 特に周りを確認をせずに渡った。

 それがいけなかった。


「木津っ!」


 音と、衝撃と、痛み。

 突き飛ばされたらしい俺は、痛みに唸りながら、体を起こす。

 車が見える。

 その向こうに、見知った形が見えた。

 柳生だった。

 なにが起こったのかわからず、そのまま固まってしまう。

 車から転がるようにして出てきた運転手らしき男性が、スマホ相手になにか引き攣ったような大声を出しながら、柳生に駆け寄っていく。


 サイレンの音、人の声、その他諸々の音。

 そのどれもがガラスケースを通した向こう側から聞こえてくるようだった。

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