14.さいごの

 三年生になってわかったこと。

 高校生活最後の、が枕詞になる言葉が増えていくこと。

 そろそろ耳にタコができそうだ。


 一学期は余裕をぶっこいていた俺も、流石に二学期真ん中になってくると、落ち着かなくなって、今も単語帳片手に弁当を食べている。

 模試での結果は合格圏内。それでも周りが必死に勉強していると、いつ抜かされるかひやひやしてくるのだ。


「そろそろ文化祭だねー」


 パンを頬張っている柳生の机には、授業のノートが開いてある。

 

「そうだな」

「今年も一緒にまわるでしょ」

「そうだな」

「今年、どこかお化け屋敷やるかな」

「そうだな」

「あったらいこうね」

「そうだな」

「……りんごは英語で?」

「そうだな」

「あ、田所さんだ」


 ドアのほうを見る。

 数人の生徒がたむろしているのはわかるが、田所らしき影はない。

 視線を柳生に戻せば、奴の唇は三日月みたいにニンマリと弧を描いていた。


「素直だねぇ」

「……」

「田所さん、今年文化祭実行委員でしょ? 今忙しいだろうから来るはずないじゃん」

「お前な」

「誘った?」

「なにに、誰を」


 問いに問いで返せば、柳生がぱちくりと目を瞬かせる。


「文化祭まわろうよって、田所さんを」

「……」

「そんな、考えもしませんでしたって顔しないでよ」


 しょうがない。

 実際そんな思考はなかったのだから。


「去年みたいに、クラスの奴とまわるだろ」

「だとしても、声だけでもかけておけばいいじゃん」

「柳生はどうするんだよ」

「どうするって?」

「俺が田所とまわるとして、その間柳生はどうするんだ」


 俺の言葉に、ああなるほど、と柳生が手を打つ。


「別に、その間は一人でまわるさ」

「高校生活最後の文化祭なのにか?」

「高校生活最後の文化祭だけど、見て回る側としては、人生最後の文化祭じゃないんだから。見たければ木津誘ってOGとして来ればいいんだし」

「お前、そこまでの熱意、文化祭にないだろ」

「ないね。授業なくてラッキーってくらい?」


 眼鏡をかけて見た目は真面目そうなくせに、言っていることは真面目さの欠片もない。


「お前も一緒にまわろう」

「お邪魔では?」

「よし決めた、一緒にまわる」

「話聞こうね?」

「田所のクラスに行くぞ」

「だから、田所さん教室にいない可能性のほうが高いって! メール送っときなよ」

「確かに」


 ポケットから携帯を出し、メールを新規作成する。

 そこまで来て、俺は再び柳生を見た。


「なんて送ればいい」


 柳生は、呆れた表情をしたのち、天を仰いだ。

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