あともう少し。

 スーパーのポスターや、郵便受けに投げ込まれたチラシから、クリスマスがいよいよ迫っているのだということに気がついた。


「柳生くん、クリスマスどうする?」

「どうするって?」


 コーヒーを飲みつつ、柳生くんは、こてん、と首を傾げた。


「ご飯やケーキとかを食べるのか、とか、家にいるのか、とか」

「あ、なるほど」

「食べ物はとりあえず、食べないよね」

「そうだね。ごめん」


 断られるのが嫌で先に言えば、謝らせてしまった。

 謝られたい訳じゃないのに。


「ううん、大丈夫。家にはいるの?」

「とりあえずは。田所さんは?」

「私は仕事かなぁ」


 言いながら、食べ終えた食器をながしに運ぶ。

 横に並んだ柳生くんと一緒にそれらを洗った。

 

「よし、終わり。じゃあ、今日もお散歩する?」

「する」


 あの日以来、仕事がない日は、朝ごはんを食べたら一緒にお散歩をするのが日課になっていた。

 やりたいことリストは、変わらず空白のままだけど、無理やり埋めるのも苦しくなりそうだから、これでいいのかもしれない。

 クリスマスが終われば、私の誕生日が来る。

 そして、期限の一カ月も。


 こんなにのんびり過ごしていていいのだろうか。


 そんな焦りがチリチリと胸を焼くけれど、じゃあどうしろと言うのか。

 

 いつものようにお散歩をして、コーヒーを買って、一緒に飲んで。

 それでいい。

 そんな日常が続けばいい。

 続かないのだ、という事実を知ってはいても、無意識のうちにそんなことを祈っている。


 時間をどんどん消費している。

 自覚はあるけれど、だからってなにができる訳でもない。

 思い出は増えている。

 ならそれでいいじゃないか。

 そう言い聞かせる自分がいる。


 私の中にいる、この、隙あらば私を飲み込もうとする感情。

 それを、軽くしたいのだと柳生くんは言ってくれた。


 軽く、なんてなるんだろうか。

 ずっとずっと私を見張っている、この感情が。

 でも、せめてお別れの日までには、この感情をなんとかしないといけない。

 だって、柳生くんが言ってくれたのだから。

 がっかりさせたくない。


 外の寒さは、どんどん鋭さを増していた。

 きっと刃物だったら、私たちは傷だらけになっているだろう。

 寒いね、なんて笑いながら、買ってきたホットコーヒーをすすりつつ、歩く。


 幸せが重なっていくのに、なんで、どうして、この感情はそれに覆われてはくれないんだろう。

 どれだけ幸せだと思っても、じっと私を見つめているその感情は、消えてなくなってくれないし、隠れてもくれない。


 残っている期間は、もうそんなにはない。

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