ひとり
あのあと話していたら、いつの間にか結構な距離を歩いていた。
そろそろ戻ろうか、というタイミングで、レンタルショップを見つけた。
もしかしたら、色々な物語に触れることで、やりたいことが見つかるかもしれない。
そんな柳生くんの提案に乗る形で、私たちは何枚かのディスクを借りたのだった。
家に帰ってきて、借りてきた映画たちを並べる。
お菓子を食べつつ、時折会話を交えつつ。
ただただ時間がゆったりと過ぎてゆく。
誰かと一緒に過ごすのって、意外と心地いいのだと、この数週間で感じていたつもりだったけど、今日はより濃くそう感じた日だった。
仲がいい人とだから?
それとも、やっぱり、まだ好きな人と、だから?
「田所さん? おーい」
隣にいるはずなのに、遠くから、柳生くんが私を呼ぶ声が聞こえる。
頭が揺れるような感覚がどんどん深くなっていって、私はそっと眠りの世界へと引きずり込まれて行った。
目が覚めたときには、窓の外が真っ暗だった。
朝食べたきりだからか、お腹の虫が鳴いている。
テレビは消えていて、広げていたお菓子も片付けられたのか消えていた。
「……柳生くん?」
気配がしない。
なんとなく胸騒ぎを覚えて立ち上がる。
肩に肩掛けがかかっていることに、そこでようやく気づいた。
おそらく、柳生くんが掛けてくれてのだろう。
のそのそと動きつつ、名前を呼ぶ。
まるで私だけが世界に取り残されたように、恐ろしいくらい私の声だけが響く。
「柳生くーん?」
「あ、起きた?」
柳生くんの部屋のドアが開いて、ひょこっと彼が出てくる。
その瞬間、ようやく耳がほかの音を拾い始めた。
「……良かったぁ」
ホッとしたからか、思わずその場にへたり込む。
追いかけるように、柳生くんはしゃがみこんで、私と目を合わせた。
「どしたの」
「気配、しなかったから……どこか行っちゃったのかなって」
「なにも言わずに、どこも行かないよ。」
眉を寄せて、困ったような笑みで、柳生くんは言う。
「ごめんね、寝ちゃって」
「ううん。沢山歩いたからね。明日筋肉痛になるかもよ」
「嫌だなぁ……」
思わずふふふ、と笑いをこぼしてしまう。
こんな日が続けばいい。
願うくらいはきっと、バチは当たらないよね。
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