疎外感

 目的地は、喫茶店だった。

 木津くんのお気に入りの喫茶店で、夜遅くまで営業しているから、よく仕事帰りに寄るらしい。


 店内に入れば、心地よい音量のBGMに迎え入れられた。

 こぢんまりとしていて、すべての席を見渡すことができる。

 一番奥の席に、柳生くんはいた。


「お待たせ」

「全然。こっちこそごめん、抜けちゃって」


 席に着くと、店員さんがやってきた。

 メニューを確認しつつ、飲み物は木津くんにお勧めされたものを頼んだ。

 ポツポツと会話をしている間に、注文したものは全部そろった。

 変わらず、柳生くんの前にはコーヒーしかなかったけれども。


「相変わらず、田所はオムライスが好きだよな」

「うん、なんか、メニューにあると気づいたら頼んでる」

「もはや本能だろ、それ」

「かもしれない」


 手を合わせていただきますの挨拶をし、食べ始める。

 ここのオムライスのオムは昔ながらの薄めだ。

 バターの味がして、ケチャップライスとの相性も良く、とても美味しい。

 また来ようかな、なんて考えてしまう。

 コーヒーも、口当たりがよくて飲みやすい苦さだった。


「今日は本当に楽しかった」


 喫茶店を出て、比較的人が少なくなってきた道を歩いていたら、柳生くんが呟くように言った。


「そうだね。喫茶店も心地いいところだったし、三人で沢山話せたし」

「だな」

「また、こうして三人で会おうね」


 微笑みながら、二人を見上げる。


「そう、だな」


 妙に歯切れの悪い言葉が、木津くんから返ってきた。

 どうしたんだろう、と首を傾げると、横で柳生くんがニヤッと笑った。


「なに、木津。もしかして、僕邪魔だった?」

「そんなはずないだろ」


 怒鳴ってはいない。

 静かだけど、確かな怒りと悲しみを感じる、重たい声だった。

 まるで、泣いているかのような、そんな声に、私はなにも言えずに二人を見る。

 対する柳生くんは、やってしまった、という表情を浮かべていた。


「ごめん、冗談だよ」

「その冗談は、笑えない」

「そうだね、忘れて」

「えっと……?」


 私の知っている木津くんなら、先ほどのからかうような柳生くんの言葉を、呆れたような口調で流しただろう。

 なにかおかしい。

 少なくとも、私よりも先に柳生くんと会っていたらしい木津くん。

 その、私が柳生くんと再会するまでの間に、二人の間でなにかあったのだろうか。


 さっきまで楽しく三人で話していたのに、急に二人を遠くに感じる。

 まるで、私と二人の間に、見えない壁があるようで。

 やっぱり私は、学生時代からなにも変わらないんだと、思い知らされた。

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