4.役割

「……」

「……」


 俺の隣で、田所が困ったようにこちらを見たり、ジェットコースターを見上げたりしている気配がする。

 柳生は、俺を例のジェットコースターの前まで連れてくると、じゃあ僕楽しんでくるね、なんて言って自分の荷物を俺に押し付けて順番待ちの列に並びに行った。

 口を挟む隙も、荷物持ちを拒否するタイミングも、なにも与えられなかった。

 間違いなく、確信犯だ。


「……あの」


 おずおずといった調子の声が話しかけてくる。

 そちらを向けば、多少のぎこちなさはあるものの、彼女がよく浮かべている笑顔があった。


「よかったら、私、荷物見てようか?」

「は?」


 意図がわからず、そう返せば、彼女は困ったように目を泳がせる。


「あ、えっと、不快に思ってたらごめんなさい。その、木津くんも柳生くんと一緒にジェットコースター、乗りたいのかなって」

「……ぜってぇ乗らねぇ」

「え?」


 思わず漏れた声は、どうやら完全には届かなかったらしい。

 別に聞こえてほしいとも思っていなかったので、それでいいのだけども。


「もし俺が荷物を頼んだとして、田所はどうするんだ」

「どうするって?」


 大きな瞳が不思議そうに、俺を見上げてくる。


「お前の友達は今、ジェットコースターに乗ってるんだろ」

「うん」


 平日の昼間だからとは言え、うちの学校の生徒以外誰もいないわけではない。

 柳生の前には、数人のカップルやグループが並んでいる。


「そしたら必然的に、俺らが乗る頃にはお前の友達も戻ってくるわけだ」

「そうだね」

「お前はそいつらに、俺たちが戻ってくるまで待ってて、なんて言うのか?」

「まさか!」


 彼女は驚いたように目を丸くすると、首を横に振った。


「彼女たちには、先に移動してもらうよ。遊園地にいる間は携帯使っても大丈夫だから、連絡取って、あとから合流すればいいもの」

「いいのかよ?」

「別に、迷惑は掛からないと思うけど……」

「そうじゃなくて。お前はそれでいいのか? せっかくの遊園地なんだし、友達と遊びたいんじゃないのかよ」


 やっと、俺がなにを言いたいのかを理解したらしい彼女は、ああ、と声を出す。

 そしていつもの笑みを浮かべた。


「私、絶叫系と高い所と乗り物がダメで。大体のものを楽しめないんだ。でも、それこそ遊園地で、一人でぶらぶらするのはなんだか寂しくて。役割をもらってるの」

「役割って」

「私が率先して言ったことだから。彼女たちも、最初は一緒に乗ろうって誘ってくれてたよ。だから、大丈夫」


 彼女は一息にそこまで言うと、ジェットコースターに視線を戻す。

 俺もつられてそちらを見れば、クラスメイトが楽しそうな悲鳴を上げていた。


「俺も」

「ん?」


 クラスメイトが乗った車体が、緩やかに搭乗口に近づいてくるのが見えた。

 そろそろ、この時間も終わる。


「柳生に、役割をもらっただけだから」

「……そっか」

「未結ー!」


 クラスメイト達が駆け寄ってくるのが見えて、俺たちはどちらからともなく、そっと距離を取った。

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