2.似たもの同士?

 教室の中心。

 男女を交えてワイワイと談笑している複数のクラスメイト達。

 クラスの半分、というのは言い過ぎかもしれないが、少なくとも三分の一はあそこにいる気がする。

 その中には田所もいて、いつもと変わらずニコニコと人好きのする笑みを浮かべて相槌を打っていた。


 昨日までと何ら変わらない、なんなら明日からも変わらないであろう光景を見ながら、ミートボールを口に放り込む。


「木津、見すぎー」

「……あ?」


 視線をそちらにやれば、向かいに座っている柳生がパンをかじりながらこちらを見ていた。


「意識してるの?」

「……別に」


 なんとなく気まずくなって、俺は手元の弁当箱に視線を移す。

 わかりやすいなぁ、という言葉とともに笑い声が聞こえてきた。


「ほっとけ」

「はいはい」

「そう言う柳生はどうなんだよ」

「えー、そうだなぁ……」


 少し悩んだあと、柳生は本当に、本当に小さな声で呟くように言った。

 きっと、俺以外には聞こえていないし、俺も、聞き取れた言葉が合っているのか、自信を持てないほどの小さな声だった。


「……お前がそういうことを言う奴だとは思わなかった」

「見損なった?」

「いや、意外だった」

「まあ、僕も人間ですから」


 言って、ブリックパックのコーヒー牛乳を飲む。


「中学の僕を知ってる木津なら、なんとなくわかりそうだけど」

「どういうことだ?」

「昔の自分を見ている気がしてさ」

「あー……」


 視線を、未だ談笑している集団に向ける。

 中学の頃の柳生は、あちら側の人間だった。

 今でこそ野暮ったい眼鏡をかけて、基本的に俺としかつるまないが。

 その眼鏡も、素でいるために必要だ、なんて理由でかけているだけの伊達だとか。


「でもだからって、そうなるのか? 別にいじめられてたわけでも、嫌われてたわけでもないだろ」

「木津にはわからないよ、たぶん。僕と木津は違う人間なんだし」

「……」


 困ったような笑みを浮かべて、違う人間、と言われてしまえば、それはその通りなのだからなにも言えなくなってしまう。

 こういうとき、うまい言葉が出てこないのが腹が立つ。


「でも、違う人間だからこそ、木津とは仲良くなりたいって思ったんだよ」

「つまりは」

「まあ、彼女のことはそういうことだね」


 ブリックパックが器用な指先でたたまれていく。

 購買部で買ったパンの袋と一緒にそれを持つと、柳生は席を立った。


 僕はあんまり好きになれそうにないや。


 ポツッと呟かれた言葉が、頭の中で響く。

 俺はそっと彼女を盗み見てから、ごみ箱に物を捨てている柳生の背中を見た。

 言われてみれば確かに、似ていると思わなくもない。

 だけど、実際の内面が似ているかどうかはわからない。

 俺はまだ、彼女のことを知らないのだから。


 とは言っても、それなら彼女のことを知りたいのか、と問われれば、そうでもない、と答えるだろう。

 そしてそれは、中学の頃の柳生への当時の俺の返答と同じものだ。

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