第2話

 いつも夢に見る光景が浮かぶ。焼けた大地と返血だらけの身体それに無数のギラギラと光る眼達。しかしいつもと少し違うのは身体が辛い感覚が全くないだが身体の自由も効かない無理やり身体を動かそうとした時だ。

そこはみたことない天井が広がっていた。

「いって。なんだこれ?」

妙に後頭部が痛い。あたりを見回すとそこは今まで見たこともないような日本庭園が広がっていた。

「やっと起きたか」


 そう声をかけられて振り返るとそこには見たことない女性とその後ろに隠れるようにあの時の黒い服を着た女性が立っていた。

「起きたならついて来い」

そう気の強そうな女性が言う。

「ね、ね、姉さまこの方は怪我をされて…」

後ろに隠れて喋る女性に

「翡翠(ひすい)は黙ってなさい。婆さまがお呼びだから」

そう言われ小さく

「はい…」と答える少女の名前は翡翠というようだった。

 暗がりの廊下を奥へ進むと

「こっちだ。」


薄暗い廊下の奥にはお札の様な柄な分厚い扉隠しがかかっている。

「入れ。婆さまがお待ちだ。」


 そこはこじんまりとした部屋だった。しかし異様な部屋でもあった。息苦しさを感じ少し入るのを躊躇する。

「早く入れ。」そう言われ中に入るとそこには老婆がいた。

「婆さまお待たせしました。この男が新たな五色です。」そういいながら気の強い女性は頭を下げる。

「ありがとうね水晶(すいしょう)お下がりなさい。」そう言われどこかに消えた。

薄暗い部屋で長い沈黙が続く

「あ、あの…」そう口を開いた時だ。婆さまと呼ばれていた老婆が口を開く

「お主は、同じ夢を見るか?...悪夢のような世界を滅ぼす夢を」

「滅ぼすかは知らないけど焼け野原みたいなとこにいる夢はみますけど…」

また長い沈黙が続く

「そうか、ならば残念じゃ」そう老婆が言うと目の前に刀を突きつけられる。

「すまんが世界の為に死んでくれ。」そう言われた。

頭が回らず呆けた顔をしていると後ろから「ば、ば、婆さまその方は翡翠の恩人なのです!」

女の子が自分の前にわって入る。

「翡翠…どきなさい。この方はないずれ羅刹へと堕ちる。人であるうちに死ぬのが幸せであろう。」

そう女の子を嗜める。

「だ、ダメです!」と女の子は婆さまと呼ばれる老婆の前から動こうとしない。

婆さまと呼ばれた老婆は刀を納め「よかろう翡翠の想いしかと受け止めた。お主名は…?」

「倫太郎です…神斬倫太郎」

「倫太郎お前が人である間は生きることを許すだが…」

と老婆は付け加える。

「人の域を出た瞬間から命の保証はないしかと受け止めよ。」そう告げられた。

「後のことは水晶と翡翠に聞きなさい。下がってよい」

翡翠と呼ばれる少女は深々と頭を下げ

「ありがとうございます」と頭を下げ

「来てください」と俺の腕を引いた。


 元の部屋に戻ると水晶と呼ばれる女性がこちらを横目で少しみた後

「なぜまだ生きている。」と怪訝そうに問いかけてきた。翡翠と呼ばれる女の子が必死に説明し不服ながらも了承したようだった。

「私の名は、水晶と言う。こっちが翡翠お前は私達と共に今から妖斬の仕事をしてもらう。」

そう言うとツカツカと押入れの方へ歩いてゆき「これを着ろ」と黒一色の服を渡してきた。「今夜仕事だ今のうちに休んでおけよ」と一切の説明もなく部屋を出ていってしまった。

服を着替えようとすると「あわわわわ…」と焦ったような声が聞こえる。影が薄すぎて忘れていたがここまで連れて来てくれた翡翠と呼ばれる女の子がまだ部屋にいた。

着替えを終えて「いいよ」と言うと襖が開き顔を赤らめたままの翡翠と呼ばれていた女の子が自己紹介を始めた。

「ひ、翡翠とも、申します。よ、よ、よろしくお願いします翡翠と呼んでください。」

そういいながらこちら綺麗な緑色の目で見つめる。

「えっと神斬倫太郎です。よろしく…」と答えると翡翠は深々と頭を下げ

「本当にごめんなさいこんなことに巻き込んでしまって。」

「い、いや大丈夫だよ。それよりもさたかしの事知らない?」

翡翠は言いにくそうに

「た、たかしさま?は無事に元の生活に戻られています。ですがその…」

と何やら言いにくそうなので

「何かあるの?」と聞くとまた深々と頭を下げ

「すいませんもう覚えていないんですたかし様は…もう倫太郎様の事を覚えていないのです」そう言うと小刀を取り出して

「この小刀は記憶の縁を切ってしまうのです。倫太郎様をここに連れてくる時に…」

と一呼吸置き

「倫太郎の縁は全て断ち切られているのです…」と告げられた。

「ど、どうゆこと?じゃあもう誰も俺の事を覚えてないって事?」

「はい…申し訳ありません」と告げられて愕然とした。

「すいません…しかしこれから倫太郎様には私達がいます。」

と言われたがもう何も受け入れることが出来なかった。

「一人にしてくれる?」

そう告げるのが精一杯で翡翠は申し訳なさそうに「すいません…失礼します」と部屋を出ていった。


 何時間くらい経ったのだろう部屋の襖が勢いよく開く

「いくぞ愚図がいつまでしょぼくれている?」そういいながら部屋に入ってきたのは水晶だった。

半ばひこずられるように車に乗せられ

「今晩は翡翠とお前と私の3人で動く遅れるな」そう言われ車は走り出した。

車でどのくらい走っただろう待ったく人気のない田舎に連れてこられた

「ここに雑魚だが低級の妖達が出るらしいお前は翡翠と一緒にこの雑魚共を狩れ使えるところを見せなければお前は…」

と言いながら首を横に一閃するジェスチャーをする

「これだ精々頑張れ」そう言われて車から降ろされる。

「り、倫太郎様あ、あの」

とオドオドしながら翡翠が喋りかける。

「うん、もう大丈夫俺は大丈夫だから」

「そそうですか...で、では戦い方を教えます!」

「あ、でも武器も何もないよ?」

「だ、大丈夫です!武器は倫太郎様の心の中に眠っています!まずは目を閉じて心の中で刀を引き抜くイメージをしてください!」

言われた通りに頭の中で刀を引き抜くイメージをする。耳の奥でギャリギャリとまた鎖を引きちぎる様な音がする

「ぜ、全部抜いちゃダメですよ!」と言われた時だ。


 目の前に腹を大きく膨らませたガリガリの鬼のようなものが数匹取り囲んでいた。

「倫太郎様刀を全部抜いちゃダメです!」

そう言われた瞬間辺りは一面焼け野原になり小鬼達は動揺している。

俺は身体の力が抜けてまるで動きが全部頭の中にあるように小鬼達に向けて刀を振う。

まるで豆腐を斬るように小鬼達を斬り飛ばした「力が溢れるなんだこれ」

と翡翠の方へ振り向くと翡翠は

「早く刀を納めてください!」とこちらにかけ寄ろうとした時だ。


「なんや赤鬼やんか」

ニタついた声が聞こえた瞬間後ろからの一撃をいなし言葉を発した主と相対する。

「あ?今のかわすんか?キモすぎやろ」と悪態をつく男と

「あ、あなたは!」

と驚く翡翠を前に長い長い夜が始まった。


第3話に続く

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世界が終わるまで ぱすてぃー @pasuta1122

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