エピローグ
「やれやれ、やっと終わったな。砂漠のバラも無事で何よりだ」
警備主任は後片付けを指示しながらぼやくように言う。
「明日までに警備システムを元に戻しておけよ。外の足場と照明も忘れず片しとけ。それと何だ今日の失態は。バッテリー、ちゃんと充電しとけって言っといたろう!」
外装を担当した警備員は「急だったもんで……」と悪びれる。
「あと、時計も正しい時間に合わせとけ」
「あの……、何だったんですか? アレは」
若い警備員は釈然としない面持ちで主任に聞く。
確かに何も盗まれていないが、不法侵入だとか、威力業務妨害だとか罪状はありそうだ。なのに誰も警察に通報しようとしない。
「ああ、お前さんもよくやってくれたからな」
簡単に辞めそうな奴には教えないんだが、お前ならいいだろう、と声を落として言う。
「あの人はこの美術館グループの会長なんだよ」
は? と若い警備員は耳を疑う。
「自分の所の警備が万全かどうか、時々チェックしに来るんだ」
そういう事なのか、それで警察には言えないんだ。乱暴に捕まえられなかったのも分かる。
しかし、それじゃあ……、と顔を引きつらせ、
「ぬ、盗まれちゃってますけど……。いいんですか?」
若い警備員の目から見ても今回の警備はお粗末だ。
主任は更に声を落として言う。
「盗ませないともっと大変な事になる。随分前に捕まえた主任はその場では褒められたんだが、その後クビになったよ」
「そんな……」
無茶苦茶だ、と若い警備員は苦笑とも唖然とも言える微妙な表情になる。
公には別の理由だが、皆「絶対捕まえたのが原因に違いない」と思っているくらい不条理な処分だったと語る。
「あっさり盗ませても、捕まえてもクビが飛ぶ。適度に楽しんでもらわないとダメなんだ」
と主任は心底ゲンナリした調子で続けたが一転して、
「ま。今回は無事終わったんだ。次は数年先になるかな。その頃はお前さんが主任になってるかもしれん。その時はよろしく頼むぜ」
お前なら大丈夫、と笑いながら若い警備員の肩を叩き、去って行った。
若い警備員はしばしその場で呆然と立ち尽くす。
「そんな……」
若い警備員はもう一度呟いた。
オー・ドロボー怪盗紳士小池が盗む 九里方 兼人 @crikat-kengine
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