第5話「僕の目に映るのは君だけでいい」最終話
エルマには妖精の声は聞こえないので彼女は無邪気に猫と戯れている。
「エルマ、次の目的地が決まったよ。
隣町のがけ崩れが発生し怪我人がたくさん出たらしい。
助けに行こう」
「はい、ルー様。
あっ、でもこの子は……」
エルマは抱えていた猫を見て眉を下げた。
「一緒に連れて行こう」
「飼ってもいいんですか?」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます! ルー様!」
エルマを笑顔にした猫だからね、特別に飼ってあげるよ。
宿屋に荷物を取りに戻らなくてはいけない。
「ねえ、エルマは光魔法を授かって聖女になれて幸せだった?」
「幸せですよ。
孤児院のお友達を助けられましたし、病気や怪我で苦しんでいる人を助けられましたから」
「一度失った光魔法が戻ったことに不安はない?」
「それはあります。
いつかまた消えてしまうかもしれない力ですから。
だから光魔法を過信せず、もっと医術を学び光魔法なしで人々を助けられるようになりたいんです!」
キラキラした表情でそう言ったエルマの言葉に嘘はないだろう。
「でもルー様、どうして急にそんなことを聞いたんですか?」
「ううん、ちょっと気になっていただけ。
さあ急いで宿屋に戻ろう。
土砂崩れに巻き込まれ怪我人が心配だ」
「はい!」
宿屋を引き払い荷物をアイテムボックスにしまった僕は、エルマをお姫様抱っこした。
「きゃあ」
エルマが顔を真っ赤に染める。
「急いでいるから飛んでいこう。
エルマは猫をしっかり抱っこしておいてね」
「はい!」
『魔法のじゅうたん持ってるのに〜〜』
『竜の姿になって背中に乗せることもできるのに〜〜』
『セクハラ〜〜セクハラ〜〜』
妖精たちが何か言っているが聞かなかったことにした。
隣町に着くと土砂崩れの現場は騒然としていた。
僕たちを見かけた村人が険しい顔で「女、子供が来るところではない!」と言った。
「女」はエルマのことだし「子供」は僕のことだよね。
竜族の欠点は成長が遅いところだ。
この前も宿屋の主人に「ご姉弟で旅ですか?」と言われた。
エルマと旅をしていると弟にしか見えないのが辛い!
僕の方がエルマより五百歳近く年上なのに!
やはり魔法で大人に変身して旅を……。
そのとき、
『助けて……!
反省してるので助けてください……!』
という声が聞こえてきた。
この声はぼんくら王太子か。
しつこいな、僕はもう君たちの国の神様を辞めて不良になったんだ。
だから君を助ける義理はないんだよ。
それに僕は心の綺麗な人しか助けないって決めたんだ。
「ルー様、どうかされましたか?」
「なんでもないよ。
僕は魔法で土砂をどかすからエルマは怪我人の治療にあたって」
「はい!」
役割分担してテキパキと人を助けていく。
『助けてくれーー!
死にたくないっっ!』
はるか遠くで王太子が喚いている。
国王や宰相や王太子妃の声もかすかに混じっているな。
僕は神を辞めたんだ。
今さらそんなことを言われても、僕には関係ないよ。
僕は
――終わり――
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「神様を辞めて不良になる!〜僕のお気に入りの少女を虐める奴らなんて助けてあげない」完結 まほりろ @tukumosawa
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