ここはアル中バイク遊園地・タテハマ異世界店の日常

 異世界にだってバイクはある。だからニッチな産業、タイヤ屋もある。


『オレぁゃあよ!酔ってない!お前のバイ!クッヒックっ!ならな!最高に雑にやってやっからよ!オメェみてぇな乞食からはよっ!ヒック!金とらねぇっ!からよ!ヒック!』


 しゃっくりしながら【鶴王】と書いてある1Lの紙パックの酒を持って、カウンターからピットに向かう。

 彼女の名前はキリさんという、フォクシー(狐)とエルフの亜人、背は小さく顔もなかなかで、外見は俗に言うロリのじゃ狐女である。


 異世界にもバイクはあり、バイクの足廻りメインで取り扱うニッチなバイク屋…というかタイヤ屋である。

 彼女曰く


〜専用の交換機器があれば交換はそんなでもない、むしろ機械が無かったら死んでもしない〜


 更に最近は


〜面倒くせえのはしない、ローダウンしたスクーター、アレ無理、というよりか、全部したくない〜


 何故、足廻りメインかというとバイクの電気系統は色々頭を使う事が多く、若い時のバイク屋修行の時に、電気系統になると頭の悪いギャルみたいな思考になり脳内一色『ヤダァー』となるかららしい。


 面倒くさい事が嫌いな…しかし、なかなかモテる♀である。

 そんなキリさん…俺の兄貴の友達であり、尊敬する先輩だ。

 

 つなぎの腕を腰に結んでダボダボさせた下半身、タンクトップノーブラのワイルドなキリさんが、フラフラ〜っと俺のバイクに近付く…


 ガシャァアァン!


 何か引っかかって倒れた…と、思いきや踏ん張った。


『キリさん?ねぇ大丈夫?マジで大丈夫?』


『倒れてねぇ!たおれてねぇんだよなぁー!なぁ!おい!ドラちゃん!オレはいつもこんなんだよなぁ!?酔ってないっての!ヒヒヒヒーーーー!しっかし、オメェ!きたねぇバイクだなぁ!?カアアァァア!』


 この変な声、キリさんはヒヒヒヒーーーーとか、カアアァァアという不思議な笑い方をする。


 カウンターで騒いでいると奥から大人しそうな優しい顔の、ハウンド(犬)とヒュム(人)の亜人、ドラさんが出てきた。


『ハハハ、いつも通りですね、本当にいつも通り大体こんな感じですよ、大体いつも通り(笑)』


 ドラさんは紳士的な人だがちょっとオタク趣味で良い家の人らしい。噂によると給料(手渡し)を貰った瞬間に机の端に奥から現金が数年分積み上がっている。

 ちなみにこの店の店員は、この2人だけだ。

 

『マジッすか?…こんな酔ってんすか?』


 眼鏡を上げながらニヒルな笑いをするドラさん。


 気付けばバイクをピットに入れ、閉店1時間前なのに勝手にシャッターを閉めてるキリさん。


『ウオオオ!オイルのネジがあかねぇ!誰だぁ!これやったの!?』


『俺のバイクはキリさんしか触ってないよ…』


 俺はバイクは走れば良いと思っているし、今は小型のスクーターだが、格好つけてアメリカンやらレーサーレプリカなんて乗ってた時からキリさんにお任せである。


『オレかぁ!?こんなに締めやがってこの野郎!馬鹿野郎が!ヒヒー!』


 ガンっ!ガンっ!ガンっ!


『昔のオレ!この野郎!ネジがナメるじゃねーか!カアアァァア!!』


 俺はこの異世界に転生し、何十年…この世界で尊敬する狂った先輩が数人いる。


 そのうちの一人、キリさんは今、40半ば。

 不思議な人で、エルフの血か、はたまた童顔のせいか異様に若く見える。


 若い頃は謎のバイトを繰り返し、定職については辞めを繰り返し、辿り着いたのが足廻り専門のバイク屋。大企業の子会社、ボーナスあり。

 そして仕事してるふりをしつつ夜には壊れたバイクを直して転売…このエルフ、恐ろしい。


 しかし、やっと安定した生活を手に入れたと思ったら親会社の大企業がこの富強の煽りを受けて『ろくでなしに予算無し』と決断、バイク分野から半分撤退…潰す潰さないの瀬戸際で、そのまま店の権利を買い、キリさんは自営業者をしている。


 俺はそんなキリさんとは学生時代からの知り合いだから20年以上の歴があり、弟分のような気持ちで接している。

 キリさんもそういう気持ちであると俺は勝手に思っている。


 ちなみにこれでバツ4というツワモノである。

 モテる理由を聞くと、異性と話してる時はラリる。人見知りだから合コン前にカーッと酒を煽る。

 コレが大事、後モテてない、コレが大事と言っていたが…


 本当にキリさんの人生は、波乱万丈そのもの。

『10円ハゲが出来てる…』となれば何故か酢で髪を洗う(臭い)、『見えない所にお洒落が必要』と言い出せばアンダーヘアーをハート型に剃る。


 自営業者だから異世界の税金申告をしなければいけないがやりたくない、めんどくさいという理由でギリギリまでやらず、やらないと洒落にならない事に気付き異世界税理士に相談、目茶苦茶怒られるというのを毎年繰り返す。

 何故、ちゃんしないのか問われれば『ホントは仕事辞めたい、働きたくないからだ』と、どストレートな答えが返ってくる。


 夕方に店に行くと大体酒を飲んでいる。昼間に行くと飲んでないから普通に説教とかしてくるが、夕方過ぎてから行くとひょうきんか、何を言ってるか良くわからない人になる。


 キリさんがバツ4になる理由は他にもある。

 色々理由があるかも知れないが…第1はその性質だ。

 

『早くファイアーしてええええ!!仕事やめてえええ!!』


『ネッ◯フリ◯クス見ているだけで金使わねぇから、将来はそれだけして生きる』


『ユウウウウウウウちゅうううばばばば!!一緒にユウチューブァァァァで遊んで暮らそうぜ!』


『酒を飲んでない日がない。でも酩酊はほとんどしない。アレ、オレアル中じゃない?』


 酒を飲むと異性や真面目に生きている生き物にとって最悪の絡み方をする。俺は大好きだか。

 そしてこの人、結婚した相手に宣言するらしい。


『オレは貯金していつか仕事やめる、一度辞めたらもう二度としない、子育てもしない、もう一回働くとかするならナマポに…『いや、もう良い、離婚しよう』


 理解されないのが不思議だとキリさんは言う。


 そして今、タイヤ交換をお願いしているが…ドローンとした眼のまま『地震…地震が来るぞ、来た時…枕元にゴーグル…ヒック…火山が噴火するから…ゴークルん…んふーーーーー…』とか意味分からない事を言って、目がとろ~んとしている。

 もう駄目なんじゃないか?面倒くさくなってるな。

 先程から俺の後輪タイヤが外れたままだ…煙草も10本以上は吸っている。


 俺は果たして、今日このバイクで帰れるのか?

 いや、ツマの(・(ェ)・)が漫画を読みながらゴロゴロ、子供達は見たことも無いネットアイドルの動画をダラダラ見て待っている。


 意識を覚醒させる為、最近はどうだ?という100回目ぐらいの同じ質問に、試しに小説を書いてる事…はキリさんは知っているが、内容までは言ってなかった。ちょっと意識を覚醒させる為に今回はヒロインを伝えた。

 ちなみに何故言ってないかというと、途中で俺の事を大先生と言って騒ぐからだ。


 ヒロインが浣腸ばかりする喧嘩が鬼強い女の子で、驚いた事にそれなりに評価されているの話をした。


『ヴァイ!?ヒイイイイイイイイイイキイイイイイ!カアアァァア!オマエエエエ!ヒヒヒヒヒーーーーイイイ』


 想像出来るだろうか?それなりに綺麗な年齢を感じさせないロリのじゃ狐エルフが、紙パックの酒を飲みながら、奇妙な笑い方で腹がよじれんばかりに笑っている。


 本当に今日…帰れるのか?


※続くのか?

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ウチの妻は熊なんだかクソの話を良くするクマのツマだ クマとシオマネキ @akpkumasun

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