壮大なお節介

 弓野を案内したあと、消えた吉持。結局、どこへ行ったのか、わからずじまいだった。

 彼は、メールに返信するという常識を持ち合わせていないようなので、キガクレから戻ったあとに電話をかけてみたが、つながらなかった。

 あの時の彼の態度も含め、少し心配になったが、おそらく、迷惑がられているのだろう。

 自分が間違っていたかもしれない、と弓野は思った。あの彫師たちに対しても、吉持に対しても、自分は、親切の押し売りをしていたのかもしれない。

 そもそも、今携わっているこのライセンス制度自体、裏がないとすれば、親切の押し売りなのではないか。どうせ他人事だから、高圧的に、「よりよい未来」を押しつけようとする。本人たちの努力や苦しみを無視し、無礼な明朗さでもって不格好な基準を疑いもなく掲げる。

 だからといって、どうすればよかったのだろう。鶴寿とかいう彫師も、最初はライセンスを取ろうとしていた。弓野は、助けようとしただけだ。自分の評価につなげたいという気持ちもあったが、だからこそ、上司との苦手な交渉も頑張った。吉持のことだって、向こうからしたら、考え方が違いすぎてウザいのかもしれないが、完全に善意で接してきた。

 しかし、だからと言って、すべて自分が正しかったとは言い切れない。すべての善意が受け入れられるべきものだとは限らないし、すべての救済措置が歓迎されるべきものだとは限らない。つらくても自分だけで歩きたい人もいれば、日陰のほうが心地よいという人もいる。

 諦めるのが最善なのかもしれない。そう思い、弓野は自分から行動することをやめた。

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