第20話 石の歌とピケット

「石の歌とピケット」


 クリケット・カラアリ・ピケットは河原で真っ黒な体を丸め、小さな丸い石をこちこち集めておりました。ピケットだけでなくほかにもいく匹かのクリケットが同じように石を集めておりました。森の掲示板に『歌う石を集めた方 賞金だします 銀貨10枚』と書かれた紙が貼られていたからです。石を拾っては耳に当て、これも違うと川の中に放り投げます。そんなことを昨日からずっと繰り返していたのです。

「こまったなあ、蜜月酒屋へのツケもたまってるし、歌う石なんて本当にあるのかな」

 そこに通りかかったのがカラアリ・ポポッコです。ポポッコも掲示板を見て歌う石を探しに来たのでした。

「やあピケット。歌う石は見つかったのかい?」

「駄目だよポポッコ。手あたり次第ひろってみるけど、どれもこれも歌なんか歌ってないよ」

「やっぱり探し方が間違ってるみたいだよ。ただこんなことをして見つかるんならわざわざ賞金なんてかけないだろう」

 ポポッコは一冊の本を持っていました。ページをペラペラと捲くり、あるページを開いて止めました。

「ここに歌う石について書かれているよ。『水の中の温かな石を割ればその歌は聞こえる』。探すのは河原じゃなくって水の中なんだよ」

「さすがポポッコだね! じゃあ僕が水の中で温かい石を探してくるよ!」

「頼んだよピケット」

 ピケットは帽子トップハットを外し、冷たい川の中に勢いよく飛び込みました。ポポッコはピケットほど泳ぎが得意でなく長い間潜れないので、石を割るための硬い石を探しに行きました。石と石を打ち付けて硬い石を探している間、何度かピケットが息継ぎをしに上がりました。

 しばらくの間そうしていると、ピケットが水面からポポッコに声を掛けました。

「ポポッコ、あったよ! 温かい石があったよ!」

「本当かい! ピケット!」

 それは手のひらに収まるほどの小さな石でした。びしょ濡れのピケットはぷるぷると短い尻尾をふるいます。石は水の中ですっかり冷えてしまった手の中でぽかぽかと熱を持っていました。耳を当てると、かすかになにか聞こえるような気がするのです。

「ねえねえ、さっそく割ってみてよ」

 ピケットに促されて、ポポッコは硬い石をふりあげました。カツンッと音をたてて石の端っこが小さく欠けます。するとどうでしょう、小さな石の割れ目から確かに綺麗な音楽が聞こえてきたのでした。

「やった! これが歌う石なんだ!」

「しーっ、静かに! みんなにバレちゃうぞ」

 今度はポポッコも水に潜って温かい石を探しました。日が暮れるころまで探して見つかったのは初めのを入れてたった四つだけでした。

「ここには少ないのかな」

「たぶんそうだろう。それでも集めたことには変わりないさ」

 二匹はそう言いながら掲示板に書いてある場所に賞金と交換しに行きました。長いひげを蓄えたその人間は三個の石を手に、にこにこと笑いながら「いや、どうもありがとう」と言ってピケットとポポッコそれぞれに銀貨を10枚ずつ渡しました。

 ピケットはなんとか蜜月酒屋のポピットにツケを返し、ポポッコはこっそりとっておいた初めに割った石をもってピケットと一緒にお酒の肴にして楽しんだのでした。


おわり



※11~20話覚書

https://kakuyomu.jp/users/kiyato/news/16817330653674194762

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