第21話 夜光街とピケット

「夜光街とピケット」


「夜光街が来るぞピケット!」

「そうだねポポッコ! 今年こそは行ってみるんだ!」

 夜光街が近づいてきている季節になりました。夜光街は空の上にうかぶ町で、年に一度ある時期になるとちいさないきものたちが住むクリケディアに近づいてくる奇妙な町でした。

 夜光街に行くには、街から降りてくる目には見えない奇妙な星を捕まえると、その星が夜光街まで浮かんで連れて行ってくれるのです。けれども夜光街に行ける人はそう多くはありませんでした(何せ目には見えない星を捕まえなければならないので)。

 真っ黒な体に尖った口先をもついきもの、クリケット・カラアリ・ピケットは今回、星たちが気に入りそうなきれいな貝殻を砕き、釣り針に飾りつけました。友人のカラアリ・ポポッコは美しい飾り瓶に満月酒を入れて待ちます。

「今年こそ行けると良いね」

「夜光街はずーっとパーティーを開いているみたいに騒がしくって楽しいって聞くよ」

 釣り針に飾りをせっせとつけながら、ピケットは夜を待ちます。楽しい楽しい夜光街を夢に見ながら、日はだんだんと暮れて空に星が昇り始めました。きっと今、目には見えない星たちが夜光街からクリケディアに降り注いでいるのです。

 そよそよとそよぐ風のなかにきらり、きらりと何かが光ります。ピケットはそれを狙って釣り針をたらします。ポポッコは風当たりのよい場所に瓶を置きました。他にもたくさんのクリケットが、星たちを狙って網を広げ、釣り針をたらし、壺を用意します。

 その時です。ピケットの釣り針に何かが掛かりました。風に揺れたのでも、木の葉がひっかかったのでもありません。

「来た! 夜光街の星だ!」

 ピケットは釣竿を思い切り引きました。見えなかった星たちがキラキラと輝き始めます。それに触れたとたん、ピケットの体もしっぽの先までキラキラと光ってふわりと宙に浮きました。

「ポポッコ、ポポッコ!」

「行っておいでピケット! 夜光街を楽しんでおいで!」

 残念ながらポポッコは夜光街の星を捕まえることが出来ませんでした。けれども惜しみなくピケットを見送ります。数匹のクリケットを連れて、見えない星たちは夜光街に飛び立ちました。それはまるで美しい花火が立ち上るような光景でした。


おわり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る