第19話 うさぎの搗き屋とピケット

「うさぎの搗き屋とピケット」


 ちいさないきもの、クリケット・カラアリ・ピケットはやはり月を釣ることを諦めてはいませんでした。友人のカラアリ・ポポッコに頼んで月を釣ったことのある話の書かれた本はないか探してもらいました。

 二匹は真っ黒な体を寄せ合って、帽子トップハットをぶつけ合いながら本を覗き込みます。

「やっぱり秋にするのがよかったと思うんだ。月がすっごく綺麗に見えるから」

「それには賛成だよ、ピケット。でもなにを餌にするかまったく手がかりがないからなあ」

 月を釣った話は無いわけではないのです。以前釣ろうとした月夜ヶ池も、それ以外の池や、はては小さなグラスの中からまで様々な場所から月を釣った話というのは耳にします。けれど何を餌に釣ったかがまちまちなのでした。あるクリケットは透明なビー玉を餌にしました。またあるクリケットは平たく滑らかな河原の小石を、ある人間は自分で潜って捕まえてしまったといいます。

 どのお話にも共通しているのは涼しい秋の夜、月がとても輝いていて星がまるで見えなくなってしまう晩だということでした。

「とにかく、少なくとも三日月を釣りたいんだったら、丸くてすべらかな物はどんどん試さなきゃ」

「前やった搗き屋のお餅はうさぎが釣れたねえ、あれは結構惜しかったんじゃないかな」

「うさぎの搗き屋か、あそこのお餅は人気だからなあ」

「なんだか食べたくなってきたな」

 ピケットのおなかがきゅうと鳴りました。そこで二匹はうさぎの搗き屋まで行くことにしました。

 搗き屋では一羽のうさぎが店番をしていました。

「こんにちはうさぎさん。お団子を六つくれないかな」

 ポポッコが頼むとうさぎはすぐに用意しますよと言って、店の奥へ行きました。

「しまったよポポッコ、僕はお金がないんだった」

「いいよ、今回は僕が払っておこう」

 ピケットはお金があれば満月酒を飲むのに使ってしまいます。

「おまたせしました」

 うさぎがお団子を六つ持ってきます。二匹のクリケットは丸くて甘くて、おいしいお団子を食べながら話します。

「そもそも君はなんで月を釣ろうとしているんだい?」

「そりゃあもちろん綺麗だからさ、きれいなものは取っておきたいだろう」

「それはわからないでもないけどね、本で見た人たちもきっとそういうことなんだろうね」

 そう言うとポポッコはお団子とピケットを見比べました。ピケットは夢中になってもう三個目のお団子を食べています。

 君、まさか食べるんじゃないんだろうねとポポッコが尋ねても、ピケットはにんまり笑うだけでした。


おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る