第18話 ヤドリガイとクラータ

「ヤドリガイとクラータ」


 クリケット・カラアリ・ピケットとカラアリ・ポポッコが散歩をしているある日のこと、真っ白な毛をもち、黒いひげを付けたクリケット・グラーモの群れが何やらごそごそ集まって言い合っているのが見えました。その群れにいたのはあのよく群れからはぐれがちなクリケット・グラーモ・クラータもいたのです。ピケットとポポッコはクラータと友達でもあったので、何をしているのか見に行ってみました。

「こんにちはクラータ。何かあったのかい?」

「おや、こんにちは。いやなに、私の帽子トップハットにヤドリガイがとりついてしまってね」

「ヤドリガイが?」

 ヤドリガイというものは他の貝類の殻や、空き瓶やなんかの中に住み着いて生きる貝類の一種です。大きなものになると誰かの家やお店にまで住み着いてしまいます。

 クラータの帽子の中にはなるほど、大きなヤドリガイの目がぱちくりとこちらを見ていました。

「少しの間帽子を脱いでみんなで昼寝をしていたんですけどね」

「なるほどねえ、ヤドリガイは厄介だから、大きなものほど捕まえたときに賞金も貰えるけど、このくらいだとねえ」

「無理やりはがそうとすると粘液を出して抵抗するから困ってるんですよ」

「帽子を新調するしかないんじゃないかな」

「でも帽子屋はこの間来たからまだしばらく来ないんじゃないかな」

 がやがや、がやがや。四、五匹のグラーモが話しあいます。結局、自然と出ていくのを待つしかないという結論になりました。

「自然と出ていくにしても、なにか別の家になるものを探しておかないといけないね」

 ピケットが言うと、グラーモたちもそうだそうだと言いました。

「トターモ瓶屋の空き瓶にちょうどいい大きさの物がないか探しに行けばいいと思うよ」

 トターモ瓶屋はグラーモ・トターモの開いている、綺麗な空き瓶を集めては売っているお店です。ヤドリガイがとりつく瓶を探すにはとっておきの店でしょう。ポポッコの提案にのって、みんなで瓶屋まで行くことにしました。

 トターモ瓶屋には様々なきらびやかな瓶でいっぱいでした。あちこちに赤や緑や、鮮やかな群青のきらめきで満たされています。

「ふむ、ヤドリガイにあう瓶ですか。確かにここにならたくさんありますよ」

 トターモは店の瓶を色々と見せてくれました。すると何とか、ヤドリガイが気にいった瓶が見つかったのです。

「ああよかった。丁度合う瓶があって本当に良かったですよ」

「ねえクラータ、このままヤドリガイを飼っちゃいなよ。おっきくなったら賞金をもらえばいいじゃない」

 ピケットの言葉にクラータはにっこり笑いました。

「そうですね。帽子も汚れてしまいましたし、次の帽子を買うために育てておきましょう」

 グラーモたちもにっこり笑いました。きれいな瓶に移ったヤドリガイだけが、何もわからず目をぱちくりさせておりました。


おわり

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