第17話 ピチットとポポッコ

「ピチットとポポッコ」


 月の本を読んで、懐かしい思い出話に浸りながら過ごした晩から、クリケット・カラアリ・ポポッコの様子は少しおかしいようでした。真っ黒の体のなか、ひときわ輝いている大きな目がどこかぼんやり遠くを見ている様で友人であるカラアリ・ピケットと話しているときもどこか上の空で、いつも何か考えてるようでした。

 月明かりのもと、ピケットはポポッコに尋ねます。

「ポポッコ、どうしたんだい。最近どうもぼんやりしていて、君らしくないじゃないか」

「うん……そうだねピケット。僕は最近僕らしくないようだ」

「もう! ポポッコったら!」

 ピケットはポポッコの両手を掴んでぐいっと引き寄せました。

「昔の話をしたときからだ、ポポッコはおかしくなっちゃった! ……もしかして、ピチットのことを思い出したから?」

 ポポッコは黙り込んでしまいました。ポポッコは今よりずっと小さな頃、先生のもとでポポッコとピケット、そしてもう一匹、カラアリ・ピチットという小さなクリケットと一緒に暮らしていた時期がありました。クリケットという生き物は星の木から降りて来たばかりのとても小さなうちは、三匹で大人になったクリケットである先生のもとでマーチと呼ばれる群れを組み、いろいろなことを学び、大きくなり、独り立ちするものなのです。

 ポポッコとピケットは大きくなり、先生の元から旅立ちました。けれどもピチットはそれができなかったのです。

「ピチットのことは仕方がなかったんだよポポッコ。先生の言いつけを破っちゃったから……」

「うん、言いつけを破って、外の国に行っちゃったから……クリケディアの外じゃ猫や人間は危険だから生きてけないのに……」

「忘れるなんてことできないだろうけど、先生だって懸命に探したんだ。それでも見つからなかったから、だから」

「わかってるさ、忘れるなんてことはしない。ただ、たまに寂しくなるんだ。それだけなんだ」

「ポポッコ……」

 ピケットはポポッコの瞳から溢れる涙をひとしずく拭いました。ピケットもピチットのことを思い出すと泣きたくなる思いです。

「ごめんね、ピケット。君も泣きたいろうに」

「いいさ、君が寂しいのが僕も寂しいだけさ。先生だってそう言うよ」

 星はキラキラと瞬いております。

「ねえポポッコ、約束しないかい」

「約束?」

「もう一人で悩まないで、辛いときは言って、特にピチットのことは」

「わかった。約束するよ、もう一人で抱え込まない。約束だ」

 その夜二匹のクリケットは一緒に眠りました。夢に出てくるであろうピチットの大きくなった姿を思いながら小さな頃のようにくっついて眠りました。


おわり

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