第26話


「今日はブランコ私も乗る」








「浴衣で転ぶなよ」








「何歳だと思ってるの?まさか二階堂くんもお父さんキャラ狙ってる?」








「あいつと一緒にしないで」














2人でブランコに乗る。






子供の頃はどこまで高く漕げるかで競争した思い出がある。






今は、少し揺れているだけでもちょっと怖い。




















「なんか話したいことあったの?」








「話したい・・っていうか・・」


















ブランコを別々のタイミングで揺らしながら話す。






一言ずつ、ポツポツ話すこの雰囲気が私はすごく居心地がいい。




















「山田とか小鳥遊とは話すのに、俺とはそんなに話してくれないんだなって思った」








「・・・え?」




















俯きながらブツブツと話し始める二階堂くん。






周りが静かなお陰でギリギリ聞き取れるくらいのボリュームだ。


















「それに、俺より先に山田が連絡先知ってるのも、なんか、嫌だった」








「だって、それはしょうがなくない?」








「俺の方が先に嘉神と話たのに」








「いやそうだけど・・・」






















小学生みたいなことを言う高身長男子高校生。






こんな状況、笑いを堪えられるわけもなく。




















「・・・真剣に話してるんだけど」








「いやそれは分かってるけど、でもそんな子供みたいなこと言われるなんて思ってなかったから」








「うるせーよ」








「ごめんね、怒らないで?」








「別に怒ってない」








「じゃあ機嫌直して?」








「別に機嫌悪くない」
















明らかに拗ねてる子供の顔をしているけど、絶対認めないんだろうな。






しかし、ここまでギャップがある人に会うのは初めてかもしれない。






普段は無口なのに、実は子供っぽいところがある。






また新しい二階堂くんを知れたことが嬉しかった。




















「なんか、こうやって2人だと普通に話せるんだけど周りに人がいるとまだ緊張しちゃうんだよね。嫌な思いさせちゃってたらごめんね」








「謝ってほしいわけじゃない」








「でも、二階堂くんも話しかけてこないけどね」








「それは嘉神がいつもどっちかと喋ってるからだろ」








「だったらその言い訳は私にも通用しますー」








「うわ、ムカつく」
















まだまだ、緊張しちゃうのは本当。






でも、夜のこの時間だけは、気負うことなく話せる不思議な時間なのだ。




















「コインランドリーには行かなくなっちゃったからなかなか難しいかもしれないけど、話す機会を作ろう。私も、二階堂くんも」








「・・・じゃあ、さ」


















二階堂くんがブランコを止める。
















「俺がバイト終わったら、少しここで話そ。連絡、入れるから、都合、よかったら・・」








「・・・ん、分かった。でも疲れてる時は無理しないでね。私アルバイトしたことないから察してあげられない」








「ん」






















止まっていた2人のブランコが、少しだけ音を立てて動き出す。






まるで、わたしたちのこれからのように。






































「送る」








「近いからもう大丈夫だよ」








「山田にバレたら面倒」








「監視されてるの?」








「気持ち悪いこと言うなよ」


















半歩前を歩く彼。






でも、浴衣のせいでいつものペースで歩けない私を時折気にしながら。
























「今日は本当にありがとう」








「平気」








「じゃあ、また、ね」








「ん」


















今だにこのバイバイの瞬間が上手にできない。






どうしても、このなんとも言えないぎこちなさが生まれてしまう。






























「嘉神」








「は、はい!」








「今日、誘ってくれてありがと。楽しかった。おやすみ」
















































その瞬間、私の頭の上に大きくて温かいものが優しく触れた。






ゴツゴツとした、意識してなかった男性を感じさせる手。






でもそれはほんの一瞬で。






触れたかと思えば羽のようにフワッと浮き上がり、いつの間にか消えてしまった。
















































寝る準備を済ませ、ベッドに横になる。






着なれない浴衣と履きなれない下駄で動いていたせいか、いつもより何倍も疲労感を感じる。






携帯を見ると、のりちゃんから1通連絡が来ていた。










『今日はありがとう!みんなで夏の思い出作れてよかった〜!今日の写真、送ります。二階堂くんにも送っておいてね!おやすみ』








メッセージと共に、数枚の写真が送られてきた。






どの写真を見ても、みんな楽しそうに笑っている。






自分がこんなに笑ってるの、いつぶりだろう。






写真を見るだけで、口角が上がってくる。






二階堂くんが写っている写真を選び、メールを送る。














『今日はありがとう。のりちゃんから写真もらったので送るね』
















山田くんが写っている写真も送ったので、『いらない』とか言われそうだな。






めちゃくちゃ肩組んで写ってるのに。














今日は本当に楽しかった。






夏はもう終わっちゃうけど、秋も冬も春も、また次の夏も。






みんなと笑って過ごせたらいいな。




















そんな幸せな気持ちに浸っていると、誰かからのメッセージを知らせる音が。






開くと、二階堂くんからの返事だった。








































さっきまでの睡魔が、一瞬で吹き飛んでしまった。






本当に、もっと返事のしやすいメールを心掛けてほしい。






返事を考えるのは明日にしよう。






そっと携帯を閉じて、ニヤけている顔を枕に押し付けた。




































































『写真ありがとう。浴衣、かわいかった。また明日連絡する。おやすみ』


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ある夜、コインランドリーで @kaguya_ch1yo

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