21、俺、男の子だもん!

「今後の方針が決まったな。重要参考人としてニコラ・ネーリを連行し、話を聞こう。地下牢にいるアカデミー幹部からも情報を得られるだろうしな」


 ナミル団長はそう言って勢いよく立ち上がると、


「情報提供の協力、礼を言う」


 ギルド職員の女性に向かって、どことなく気障キザな笑みを向けた。ギルドのお姉さんは瞳をハート型にして、あごの下で両手を組んだ。


「はぅっ、ナミル様――」


 え、これ、どういう反応?


「ふふっ、そんな可愛い顔で見上げられたらアタシも嬉しくなっちまうよ。今度また何かおごらせてくれ。いいレストランを見つけたから」


「はいっ」


 ギルドのお姉さんは顔を真っ赤にしていい返事をした。


 二階で彼女と別れたあと、


「ナミルちゃん、女の人にモテるんだぁ」


 ユリアが速攻からかいだした。ほんとユリアって、普段ぼーっとしてるくせに、こういう話題だけ反応するんだよな。


「ハハハ、どうだろう?」


 さわやかにとぼける横顔もサマになっている。背は高いし、豊かなバストには男が決して持ちえない包容力があるし、男よりよっぽど肌も綺麗だし、ややハスキーな声は魅力的だし――


「男装の麗人がもてはやされるようなもんか?」


 投げやりな俺の言葉に、ナミル団長はニヤっと笑って肩を組んできた。


「ジュキくん、男装美少女のきみがそれを言う?」


「男装じゃなくて俺は男!」


「ククク、どうだか。美少女に目がないアタシが惚れたんだ。付いていてもいなくても、きみは美少女さ!」


 くそーっ、また変なのが増えた!




 半刻後、騎士団詰め所にはアカデミー幹部だったローレル男爵とニコ、そしてなぜかニコの保護者づらしてついて来たイーヴォが集まっていた。もちろん頭にはトレードマークの赤いバンダナを巻いて、神々しい頭皮を隠している。


 ニコとローレル男爵は縄で縛られ、冷たい石の床に座らされた。


「依頼主の屋敷が悪の組織だなんて、知らなかったんだよぉぉぉ!」


 騎士団員に連行される際、自分の犯した過ちを聞かされたのだろう。ニコは泣きわめいている。


「おいニコ、俺様に無断で依頼なんざ受けるからだろ。おめぇにソロクエストはまだ早ぇ。これにりたら今後は必ず、俺様とペアで行動するこった」


「ぐすっ、イーヴォさんの言う通りです。ぐすんっ、おいらがバカでした」


 せっかく芽生え始めた自主性をあっさりみ取られるニコ。


 俺はナミル団長のうしろから一歩前へ出て、


「それよりギルドの印章が押されてないクエストは受けるなって、姉ちゃんも口すっぱく言ってただろ」


「おいらの名前が書いてあったからつい浮かれちまって――」


 涙にぬれた目で俺を見上げたニコは、ハッとして続く言葉を呑み込んだ。


「ジュキ――じゃなくてジュリアちゃん……」


「はぁっ!?」


 俺いま女装してないんですけど!?


「ごめんなジュリアちゃん。おいら、お前のことずっと男だと思ってたんだ」


 いやいやどうなってる!? 俺とニコは――もちろんイーヴォやサムエレも、いわゆる幼馴染というやつだ。まったく仲良くはなかったが、小さな村なので同年代の子供など数が限られている。全員の顔と名前、もちろん性別も互いに知り尽くしている間柄あいだがらだ。


 驚きのあまり言葉が出ない俺をよそに、ニコはなつかしそうに話し出す。


「ガキのころからチビで虚弱でかわいい声して、村中からチヤホヤされるお前をおいらはバカにしてたけど、女の子だってんなら納得だよ」


「しかもまだ十二歳なんだろ?」


 イーヴォまで口をはさんできた。バカなのか、こいつは。俺が今十二歳だったら、お前との年齢差は七歳? 同世代にならないじゃん。


「俺様としたことが十二歳女児をいじめてたとはな。男がすたるぜっ!」


「あんたの男なんざぁどっちにしても、すたってんだけどな」


 イラついて言い返すと、


「ジュキ、いやジュリア。その口調、直さないとお嫁に行けないぞ?」


 イーヴォがまさかの行動に出た。俺の頭をポンポンと優しくたたく。全身に鳥肌が――!


「ボクのジュリアはそのままでいいのさ」


 凛とした声がうしろから聞こえた。振り返るとレモが腰に手をあてて、爛々らんらんと輝く瞳でこちらを見つめている。


「かわいいジュリアはボクがもらうからねっ!」


「えぇぇっ!? おめぇさん公爵令嬢じゃなかったのか!?」


 目ぇかっぴらいてレモを指差すイーヴォ。


「ハハハ! きみの目は節穴かい? スルマーレ島の魔術剣大会で、きみはボクにボロ負けしたじゃないか」


「そ、そういえば――」


 イーヴォはがくりとひざをついた。


「お前はあのときの魔法剣士! まさか女装して公爵令嬢のふりをしていたとは!」


 嘘だろ…… 全部さかさまになっている……


「気付いたかい? ボクは愛らしいジュリアちゃんと将来、結婚する男さ!」


 レモ、なんでこんなにノリノリなんだ。


「俺様のジュリアを貴族の優男やさおとこなんかに渡すものかっ!」


 イーヴォが立ち上がりざま、握った右手を振り上げた。


「男ならこぶしで勝負しろっ!」




 ─ * ─



 レモに突然、決闘を申し込む――というよりすでに殴りかかっているイーヴォ!


 レモの運命や如何に!? いや、危機に瀕しているのはイーヴォのほうか!?


 次回『サムエレがアカデミー最後の幹部だと!?』

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