14、一度倒した炎獅子が蘇った?

 今朝倒したはずの炎獅子フラムレオンが、ユリアをくわえて空高く放り投げた!


「ユリア!」


 俺は翼を広げると同時に空へとけた。


 間に合わない……!?


「水よ、かの者を守りたまえ!」


 弧を描いて空を飛ぶユリアを、大きな雫で受け止める。


「うきゃぁっ! 今度はほんとのお水!」


 ユリアは空中に突如現れた大きな水たまりの上で、はしゃぎだす。


「ほら遊ぶな。帰るぞ」


「わぁい、おにいちゃん大好き!」


 水の上から腕を伸ばし、俺の首元にからめてきた。


「助けてくれてありがと!」


 そのまま空の上で抱きとめて、レモたちのほうへ戻る。


 上から見下ろすと、レモが氷魔法で炎獅子フラムレオンを包んでいるが、あまり効いていないようだ。魔獣の黒い炎は変わらず燃え盛っている。


 ――ん? 黒い炎?


 今朝は橙色にも金色にも見える明るい火をまとっていたはずだ。別の個体なのか?


 何か不気味なものを感じながら、俺はレモのとなりに降り立った。水魔法を発動しようとしたとき、


「ジュキくんはレモさんを守ることに集中してください!」


 少し離れたところから、師匠の指示が飛んできた。


「えっ?」


 驚く俺には答えず、


「ナミルさんとユリアさんは前衛として炎獅子フラムレオンを引き付けて! そのあいだにレモさんは聖魔法を完成させてください」


「聖魔法?」


 オウム返しに尋ねたレモが、ハッとした。


「死霊使いが出たのね!」


「そうです」


 なんだなんだ? 俺が腑に落ちない顔をしていると、


「あの炎獅子フラムレオンは死霊使いが操っているのよ」


 レモが親切に解説してくれた。だから今朝倒したはずが、また出て来やがった上、まがまがしい黒い炎に身を包んでいるのか。


「てこたぁ青銅巨人タロースとガーゴイルは現れないんだよな? 自動人形系のモンスターに魂はないもんな」


 俺の言葉にレモが答えようとしたとき、


「レモさんは聖魔法構築に集中してください!」


 うしろから師匠の叱咤激励が飛んでくる。


「むぅ」


 レモは子供みたいに口をとがらせて、印を結んだ。


 前方では炎獅子フラムレオンが黒い炎を吐きまくっている。だが渦巻くほむらは全て、ナミル団長の魔法剣マジックソードによって防がれていた。


 足元をねらう炎は魔豹レオパルド族の恵まれた身体能力で跳躍して避け、着地を襲う火の粉はマジックソードに気を込めてはじき飛ばす。


 次の炎を吐こうと炎獅子フラムレオンが力をためた一瞬の間に、大木のうしろからユリアが踊り出て、戦斧バトルアックスを一閃した。


 相手は死んだ魂――物理攻撃は効かないはずが、常識破りのユリアが繰り出す攻撃は、飛びすさろうとした炎獅子フラムレオンの前脚を強打した。


 レモは意識を集中し、組んだ手のあいだに聖なる光を生み出してゆく。


「迷える魂よ、汝を地上にとどめるしがらみ今解かれ、遥かなる空へかえりたまえ」


 だが、どこかに隠れている死霊使いがレモの唱える言葉に気付いたらしい。こちらに向きを変えた炎獅子フラムレオンが、ユリアとナミル団長を軽々と飛び越えた。


「あ、レモせんぱいのほうに――」


「しまった!」


 二人が同時に叫ぶが、俺の存在を忘れてもらっちゃあ困る。


「水をべしが力よ、水晶クリスタルごとき弓となりて――」


 太陽を背に、木々の上から飛びかかろうとする炎獅子フラムレオンにねらいを定める。


「舞え、雪花せっかの矢!」


 精霊力をこめた氷の結晶が、まっすぐ炎獅子フラムレオンへと飛んで行く。


「グオオ!」


 器用にも空中で身をひねり、氷の矢をかわす炎獅子フラムレオンだが――


「わが意のままに!」


 天空へと飛び去った矢が戻ってきて、その身を刺し貫いた。


「グアァァァ!」


 炎獅子フラムレオンが腹に響く悲鳴をあげて、かき消えていく。


 ほぼ同時に、


死霊還天聖光トルナ・アル・チェーロ!」


 レモが聖魔法を放った。だがそのねらいは、かすみとなった炎獅子フラムレオンではない!


 白い光は、瘴気を吸って平屋建ての家ほどの大きさに育った赤いキノコへ収束し――


「通り抜けた!?」


 あのキノコも幻影か!


 俺が気付いたと同時に、


風纏颯迅ヴェローチェファルコン!」


 聞き慣れない声が聞こえた。聖魔法から逃げるように、灰色のローブに身を包んだ人影が空へと飛翔する。


「待て! お前が死霊使いだな!?」


 男を追うため、俺は翼をはばたき木々の上へ舞い上がった。




 ── * ──




 次回『死霊使いの行き先は?』

 明日、日曜日に更新します!

 月曜まで3日連続更新です。

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