12、ユリアのターンです!
「あそこの壁――」
ユリアが俺とレモの間から顔を出した。
「人の形に見えるのー」
人型ならガーゴイルじゃあないな。
「よいしょっと」
つないだ俺とレモの手を堂々とまたいで、ユリアが
「ユリア、危ないから戻れ!」
俺が叫んだのと同時に、
「グアァァァ!」
派手な雄叫びをあげて、土壁からゴーレムが出現した!
岩でできたぶっとい腕が振り下ろされる刹那――
「てやっ!」
ユリアは
バラバラッ
砕け散ったのはゴーレムのこぶしの方だった。二、三本の指が第二関節辺りから折れて、地面に破片が散らばる。
だがゴーレムは左足で踏ん張り、今度は左腕を持ち上げた。
「ユリア、左!」
レモが声をかけると同時に、
「とおっ!」
ガゴンッ!
重い音を立ててゴーレムの左腕がなかばからもげ、はじけ飛ぶ。
今度は右足を踏み込み右腕を振り上げるが、同じ攻撃を三度も続けては、誰でも見切れるってもんだ。
ガンッ!
またもや
両腕を失ったゴーレムは右足を蹴り上げた!
だがユリアは身軽にひらりと、うしろへ飛ぶ。あっさりかわしたと思ったら、
バランスを失った巨体が、ゆっくりとうしろへ倒れてゆく。
ドゴーーーーン!!
地響きを立てて仰向けになった。
「とやっ!」
ユリアは攻撃の手をゆるめない。元気なかけ声と共に
続いて――
ガン、ガン!
倒れたままのゴーレムの左足を
「…………」
想像以上に容赦ない攻撃に、すっかり沈黙する一同。
両手両足を奪われたゴーレムは、じたばたともがくばかり。
「ユリア、ゴーレムは身体のどこかに動力源となる魔石を持っているの。それを壊さない限り動き続けるのよ」
肝の据わったレモが、うしろからアドバイスする。
「ほーい」
気の抜けた返事をしたユリア、
「よっと」
ゴーレムの腹部に飛び乗った。
「クンクン、魔石のにおいはぁ、どこかなあ?」
中腰になって鼻を近づけ、ゴーレムの腹から胸へ、そして首へとにおいを探っていく。
「そこかぁ。えいっ」
ゴシャアッ!
「す、すごいな……」
感嘆の声をもらしたのはナミル団長。
「聖剣の騎士殿と、稀代の聖女殿と行動を共にしているのも納得だ」
いや、ユリアはなんとなく旅についてきただけなんだけどなぁ。
とはいえ俺も驚いた。まさか一人でゴーレムを倒してしまうとは。
俺が今朝戦った金属製のゴーレムや、石化魔眼を持ったガーゴイルと比べれば強敵でなかったとはいえ、魔石の位置までにおいで判別できるのだ。
「終わったのー」
ユリアがトテトテと走って戻って来た。迎えたレモが抱きしめてやる。
「お疲れ! ねぇユリア、気になってたんだけど魔石ってどんなにおいなの?」
ユリアはこてんと首をかしげ、
「アカデミーの魔物に入ってるやつは、なんかくさいの」
と鼻をつまんだ。瘴気のかたまりだからだろうか。
「チーズの腐ったようなにおいっていうのかな。あんまり食欲そそられないんだよ」
結局、食欲で判断するのか……
「それにしてもゴーレムの歓待とはな」
ナミル団長が石塊と化したゴーレムを見下ろし、声に緊張をにじませた。
「今後もトラップが仕掛けられていると思った方がいい。慎重に進もう」
師匠がうなずいて、
「
と印を結んだ。俺は小声でレモに尋ねる。
「索敵用の結界って聖魔法の一種?」
「分類すればそうでしょうね。でも師匠オリジナルの術よ」
「レモは使わないのか?」
「だって――」
彼女はぺろりと舌を出した。
「師匠の考える術って魔道具使ったり魔法陣描いたりめんどくさいんだもん」
結界を展開した師匠が振り返る。
「私はレモさんのように魔力量が多くありませんからね、色々と工夫するんですよ。ジュキくんは引き続き
「おう、おやすいご用だぜ」
「ユリアさんは――」
師匠は、古代文字の記された布で
「また変なものが見えたり、おかしなにおいがしたら教えてください」
「はぁい」
「師匠、私は?」
自分を指差して、でしゃばるレモ。
「レモさんはいざというときの回復役ですから、敵の攻撃を受けないようにジュキくんとユリアさんのうしろを歩いて下さい」
「えー、私ジュキと手ぇつないで歩きたい」
またかわいいことを言ってくれる。俺はマントの中にレモを包み込み、
「俺が精霊力の結界で守るから一緒に行こうな」
ぎゅっと抱きしめた。
レモと、ついでにユリアも精霊力で包み込んでしばらく歩くと、
「なんであそこだけ落ち葉がたまっているのかしら」
レモが前方を指差した。見上げても今までと変わらぬ土の天井があるだけで、どこにも木などないのに怪しすぎる。
「
レモが風魔法の呪文を唱え始め、一行は足を止めた。
「ほそく
彼女の手の中に風の鞭が
「
ヒュンッ
風がうなり、落ち葉を舞い上げる。その下から出てきたのは――
「なんか小枝が縦横に重ねて置いてあるのー」
見たままを報告するユリアに、師匠が答えた。
「小枝の下に落とし穴が掘ってあるはずです」
「なんだかめちゃくちゃ原始的な罠だな」
ちょっとあきれる俺。
「急いで作ったんだろうなぁ」
ナミル団長も腕組みして、落とし穴を見下ろした。
「とりあえずみんな、足もとに気を付けて進もう」
団長の指示のもと落とし穴を避けて奥へ進むと、今度はユリアが少し先の地面を指差した。
「なんかボタンがあるよー! 踏んでいい?」
「みんな伏せて!」
何かを察した師匠の言葉に、全員がその場で身を低くする。
次の瞬間、両壁から複数の矢が飛んできた!
「えい、やぁ、とうっ!」
すべて
「えへへー、面白かったぁ!」
一同、胸をなで下ろしてまた歩きだす。
しばらく行くと―――
「あ、またボタン!」
「みんな伏せて!」
師匠が再び叫ぶと天井から、太いロープの先に結ばれた巨大な鎌が落ちてきて、トンネル内の狭い空間を振り子状に行ったり来たりする。
「待ってましたー!」
ユリアが楽しそうに
ガキィィィン!
三日月形の刃は、一瞬にして砕け散った。
さらに進むと――
「あ、魔法陣が書いてあるー」
また指差したユリアの頭に、レモのげんこつが落ちた。
「いい加減にしなさいっ!」
「えー、遊びたーい」
口を尖らせるユリアを無視して、レモは聖魔法を構築する。
「聖なる光よ、あらゆる呪を解きし鍵となりて悪しき力、打ち消したまえ」
「レモせんぱいのケチ。せっかくアカデミーのおじちゃんたちが用意してくれたのに」
ユリアにかかってはトラップも遊具と化すようだ。
「
レモの聖魔法一発で、怪しい魔法陣は無力化された。
たび重なる罠を避け――いや、いくつかは発動させてユリアが存分に楽しんだのち、長い地下道はゆるやかな上り坂に変わった。
「いよいよ出口ねっ!」
となりでレモがワクワクしている。だが俺の
─ * ─
秘密の地下道を出た先は!?
次回明らかになります!
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