11、秘密の地下道に仕掛けられたトラップ
「
魔法の灯りの中に、石造りの螺旋階段が浮かび上がった。
「アルジェント子爵の
驚きの声をあげるナミル獣人師団長に、
「ジュキの精霊力は桁違いだから」
レモが自慢げに答える。
だって暗くて怖いの嫌なんだもん。
俺は先頭に立って、一段ずつ慎重に石段を降り始めた。
「みんな足元、気をつけてな」
レモの手をにぎってやりたいけれど、螺旋階段は狭くて二人並んで歩ける幅はない。
もちろん手すりなどないので片手で壁に触れると、ざらりとしたレンガの感触が手のひらに刺さった。
「この階段、ずいぶん古いものだよな?」
魔石救世アカデミーができるずっと前に作られたんじゃないか?
「この館にはもともと地下室があったのでしょう」
師匠が、列のうしろの方から解説するのが聞こえる。
「ラピースラの肖像画に魔力を通すと開く仕掛けは、あとからアカデミーの誰かが作ったのでしょうけれどね」
話しているうちにすぐ、俺たちは地下室に着いた。
「広いな……」
真ん中にはレンガ造りの太い柱が立っており、ドーム状の天井を支えている。柱を取り囲むように檻が並んでいるが中には何もおらず、もぬけの殻だ。
「ここに実験用モンスターがいたのかな」
俺のつぶやきに、ナミル団長は円形の空間を見回しながら、
「我々はそのように予測していた。帝都民のうわさにもなっていたし、上階の部屋を探索しても魔物の痕跡はなかったからな」
「だったら今朝ジュキがほとんど倒したのかも知れないわね。残りは幹部三人が連れて逃げたとか」
レモの推測に師匠もうなずいて、
「魔石が埋め込まれて操られたモンスターなら、暴れることなく付き従うでしょう。とはいえ現実的に連れて行けるかどうかは、モンスターのサイズと秘密通路の広さによりますが」
「で、その通路なんだが――」
ナミル団長は二枚目の地図に視線を落とした。
「どこから入るんだ?」
弧を描くレンガ壁には、半円状の入り口が等間隔に並んでいた。そのうちの一つは、俺たちの降りて来た階段だ。
「いーち、にーい、さーん……」
その場で回りながら数えていたユリアが、
「全部で八つあるね!」
元気に報告した。
レモも周囲を見回しながら、
「鉄格子がはまっている穴もあるわ」
「危ないから不用意に近づくなよ」
俺が心配して追いかけたときには、
「あら、開いてるわ」
レモは鉄格子に触れていた。
師匠が長い脚でゆったりと歩いて来て、
「ここには凶暴な魔物を閉じ込めていたのかもしれませんね」
俺たちのうしろからのぞいた。
「こっちだ。分かったぞ!」
ナミル団長に呼ばれて、俺たちは中央のレンガ柱のところまで戻った。
「我々が降りて来た階段から見て、ちょうど右に九十度の入り口だ」
ナミル団長の地図読解力を信用していないのか、師匠がさりげなくのぞいて確かめている。
「そのようですね」
師匠の声を聞いてから、俺たち三人は右の入り口へ向かった。
同じようなレンガ壁に囲まれた空間だが、小ぶりな檻がいくつも積み重ねられている。全て中身は空っぽだ。
「小さい魔獣を育てていたのかしら?」
魔法の灯りが照らし出す空間を、興味深そうに見回すレモ。
一方ユリアは、
「クンクン、こっちから違うにおいの空気が流れてくるよ」
檻のあいだをどんどん進んでゆく。ナミル団長はそのあとを追いながら、
「さすが犬っころは嗅覚が発達しているな」
「わたし狼だもん!」
地図を騎士服のポケットにしまったナミル団長を、レモは意外そうに見上げた。
「ナミルさんだって
「分かんないんだな、アタシは。美少女のにおいくらいしか」
にやりと笑って俺を振り返る。
「何!? 美少女ならレモとユリアがいるだろ!?」
「ククク…… アルジェント子爵こそ嗅覚は鋭くないのか? 白竜の先祖返りなんだろ?」
「俺、半分セイレーン族だもん」
大体ドラゴンって鼻が利くものなのか?
「ジュキは耳がいいのよ!」
レモがフォローしてくれる。
「ジュキくんは声もいいよぉ」
ユリアも優しいなあ。
「その上性格も良いんですよ、ジュキくんは!」
師匠まで!
「なんだなんだお前ら。ジュキくんを中心にしたハーレムパーティか?
「おや?」
師匠が柔和な笑みを浮かべた。
「美少女好きのナミルさんも、てっきり私たちのハーレムに加わるのかと思っていましたが」
「はぁっ!?」
思わず声をあげる俺。聞き捨てならない発言の真意を問いただそうとしたとき、重なる檻の奥に秘密の地下道が姿を現した。
「皆さん、地下通路ですよ! 敵はここを通って逃げたのでしょうねえ」
なんだか白々しい師匠。ナミル団長を振り返り、
「師団長殿、調査に入りますか?」
「おう、顧問殿。今から追っても逃げた幹部連中をつかまえられるわけではないが、どこへ通じているか調べたい」
俺は用心のために服の下で胸の
「魔力の
ポツンとつぶやくと、
「えっ」
ナミル団長が聞き返した。
「壁や天井に魔力が残っているんです」
俺は魔力の灯りに照らし出された土壁に手をかざした。いつの間にかとなりを歩いていたレモが、
「最近、誰かが土魔法で掘ったってことかしら」
まだ日が浅いから、魔力が残っているのか。
師匠も土壁に指先で触れながら、
「レンガや漆喰を使っていないことから、土魔法を使って作った可能性は高いと言えます。土の表面もまだ乾いていないので、あまり日が経っていないことも確かでしょう」
今回逃げるために慌てて掘ったのだろうか。
ナミル団長は、俺の光魔法に照らされたトンネルの先に目をこらしながら、
「でもかなり長いぞ? 複数人が短期間で掘ったのか? 一人だったら、魔力切れを起こすはずだ」
「私の魔力量なら平気だけど、普通の人族には厳しいでしょうね」
レモの言葉に、普通の竜人族なら可能だろうなと思いつつ、アカデミーの連中は魔石や魔物の力を借りて強化されていることを思い出した。
「アカデミー幹部なら魔力量も多いんじゃないか?」
ナミル団長に問いかけると、
「だが土魔法を得意とする者がいたという情報はない……」
確かにさっき見せてもらった幹部リストに、土魔術師なんてヤツはいなかった。
「冒険者ギルドに、複数の土魔術師を募集する依頼を出したって可能性はないのかな?」
俺の言葉にナミル団長は、ポンっと手を打った。
「あり得る。さすが元冒険者だな」
「今もそのつもりなんだけど」
「戻ったらギルドに人を送って調べさせよう」
ナミル団長の決定にうなずいたとき、俺は
「どしたの?」
俺と手をつないだまま一歩前に進んだレモを引き戻す。
「この先に何かいる。強い魔力を感じるんだ」
「モンスターか?」
ナミル団長が硬い声で尋ねるのに対し、師匠がどことなく楽しそうに答えた。
「私が地下道に仕掛けるとしたら、ガーゴイルかゴーレムか――自動人形系ですね」
今朝、動力源となる魔石を探すのに苦労した嫌な思い出がよみがえる。
「みんな、目をつむって――」
石化魔眼を持っていたガーゴイルを思い出し、声をかけた俺をさえぎって、
「あそこの壁――」
ユリアが俺とレモの間から顔を出した。
「人の形に見えるのー」
─ * ─
「人の形に見える壁」とは何なのか!?
次回『ユリアのターンです!』
ユリアちゃんが活躍します!
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